放射線災害における病院災害対策マニュアルの検討

文献情報

文献番号
199900074A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線災害における病院災害対策マニュアルの検討
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
原口 義座(国立病院東京災害医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 友保 洋三(国立病院東京災害医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年9月に発生した茨城県東海村のウラン加工工場における臨界事故を踏まえ、多数の放射線被爆患者が搬送された際の緊急被爆医療対応について、二次被爆医療施設におけるトリアージ、診断及び一般的な治療から骨髄・臍帯血移植等の高度医療を提供する総合的な対応体制を確立することを目的とした研究である。
研究方法
検討方法=災害対応には、それぞれの医療施設が適切に放射線災害対策を実施できるマニュアルが必要であり、その検討を中心に研究した。
研究の実施経過としては、以下の如くである。原子力災害に関しては、1997年度にわれわれを中心とする研究班「厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)、災害の種類別シミュレーションモデル作成とその意義の研究」が作成した核災害シミュレーションモデルとマニュアル(共に暫定版)と災害訓練、核災害の専門家のネットワークが、1999年9月に発生した東海村臨界事故では、機能したと考えられる。また12月には、国立病院・療養所を対象とした原子力災害マニュアル(前述の暫定版の改訂版)を発行できた。
結果と考察
検討結果=特に暫定版マニュアルは医療施設への指導的文書として広く活用される機会を与えられたのみならず、その問題点・今後のあり方まで検討することができた。それを参考に改訂版を、主に国立病院・療養所に限定して急遽作成した。
それを引き継ぐ形で、今回の研究としては、多数の放射線被曝患者が搬送された際の実際の緊急被爆医療対応を円滑に行うべき内容について、簡単な小冊子と比較的専門的な内容を有するテキストブック的なものの2面から追求することとし、その原案を完成した。原子力災害に関しては、専門的な知識を要する側面も多いので更に用語辞典的な小冊子も付録として作成した。
二次被爆医療施設におけるトリアージ、診断及び一般的な治療から骨髄・臍帯血移植等の高度医療を提供する幅広い総合的な対応体制を考慮した。
また国際的な協力体制、特にアジア地域におけるわが国の役割も機能できるものとすることとし、諸外国の専門家も加え、英文の冊子も作成しつつある。
実際にわが国では極めて稀な中規模以上の原子力災害の療訓練を繰り返し行い、問題点を研究した。本年度に関して見ても、既に東海村臨界事故の起こる前に、7月(国立病院東京災害医療センター)、9月(米軍横田基地)、9月(国立病院東京災害医療センター)と3回行ってきたが、更に臨界事故発生後も、3回 すなわち、12月(国立病院東京災害医療センター)、3月(国立病院東京災害医療センター)、3月(白鬚橋病院)と大規模~中規模(模擬患者10名~25名)のものを行ってきている。放射能汚染のサーベイ、除染、トリアージ、合併損傷に対する対応等多くの学ぶべき項目が洗い出された。
更に原子力災害の国際的なワークショップを厚生省国際医療協力研究委託事業「大規模災害時における国際医療協力のあり方に関する研究」の班研究と共同で施行した。
この他、原子力発電所の施設視察を行い(主なものとして、九州電力玄海原子力発電所、北海道電力泊原子力発電所、など)、現状と問題点を検討した。
こうして、災害対応医療マニュアルのあり方に関連する改善項目を洗い出し、再修正版を発行できる段階になった。また国際的な協力体制、特にアジア地域におけるわが国の役割も考慮にいれた英文の抄録も付記する準備も進んでいる。 また、各施設において放射線被曝の診断に用いる機器の運用及び管理方法についての併記内容も決定した。
考察=原子力災害に関しては、1997年度版核災害シミュレーションモデルとマニュアルと災害訓練、核災害の専門家ネットワークが、1999年9月に発生した東海村臨海事故では、ある程度有効に機能したと考えられる。特に我々の作成したマニュアルは医療施設への指導的文書として広く活用される機会を与えられたのみならず、その問題点・今後のあり方まで検討することができた。
東海村臨海事故以来、原子力災害への準備・訓練の意義が広く理解されてきているが、残された問題としては、サイト内外の情報伝達・協力体制、周辺住民への指導・助言体制、地方自治体の役割分担等に改善すべき点を指摘できた。今後は医療施設間の十分なネットワーク、専門家による指導体制の確立も考慮すべきである。
原子力発電所は、僻地にあることも多く、原子力発電所災害での対応の遅延、特に、住民に対する医療対応の遅延を避けるため(例えば円滑なヨード剤投与など)、地域毎の適切なシミュレーションモデル構築の必要性も再確認された。
結論
以上の点をそれを参考にしつつ、より信頼度の高い、また使いやすいマニュアルを作成することにより、今後の原子力災害に対して、安全かつ円滑な対応が可能となることが期待できる。また諸外国、特に東南アジアの諸国においても近い将来には原子力発電が普及することから、安心感を諸外国にも与えることができる。このように幾つかの観点から今後に生かせる研究と考えられる。

公開日・更新日

公開日
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