社会福祉施設における衛生環境に関する実態調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900070A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉施設における衛生環境に関する実態調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小川 博(財団法人ビル管理教育センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では年々高齢化が進でおり、今後社会福祉施設を利用する人は増大の一途をたどることが予想される。高齢者は若年層に比べ一般に免疫力が低下しているため、社会福祉施設内の衛生的環境の確保により一層の管理が必要と考えられる。これらの施設の中には、循環式浴槽やオゾンによる脱臭、殺菌を行う設備の導入が行われているところもあるが、循環式浴槽のレジオネラ汚染、オゾンによる健康影響が危惧されるところである。 
本研究では、まず、現状を的確に把握することを目的として実態調査を実施するとともに、その調査結果を踏まえ、社会福祉施設での衛生的な環境を確保するための適切な維持管理手法や設備機器のあり方について提言することを目的とした。
研究方法
①社会福祉施設における循環式浴槽の実態調査、及び②社会福祉施設におけるオゾンを利用した設備機器に関する実態調査を実施し、その調査結果より、維持管理方法、設計施工対応等を含めた社会福祉施設における循環式浴槽及びオゾン利用設備機器のあり方について検討した。
結果と考察
循環式浴槽の実態調査では、アンケート調査結果より、循環式浴槽を利用している施設が約4割あり、気泡装置(ジャグジー等)は半数の施設で設置されていた。管理責任者の選任管理を実施している施設が半数程度あった。清掃・全換水については月1回もしくは週1回実施している施設が多く、清掃方法はほとんどがブラシ等と洗剤で清掃していた。水質検査については「公衆浴場法における水質等に関する基準」に規定された項目+レジオネラ属菌を実施している施設が多く見られた。管理記録簿については4割の施設で作成し管理を実施していた。浄化方式として「物理ろ過方式」を用いているところが圧倒的に多かったが、ほとんどの場合、物理ろ過・生物浄化方式の区別がついていないことが確認された。循環式浴槽の消毒方法に関しては、湯の消毒を常時実施している施設が8割見られ、消毒方法は塩素、オゾンが多く利用されていた。なお、実態調査結果より、レジオネラ属菌数の検出率は、関東・関西地区とも約半数から検出された。なお、分離した菌株の血清群分布は、関東地区調査では3群と5群が高頻度に分離される傾向であり、関西地区調査では5群が高率に分布する特異性を示した。これは過去に実施された東京都の調査結果とほぼ同様の結果であり、社会福祉施設の浴槽水におけるレジオネラ属菌の汚染状況を反映しているものと考えられる。さらに、公衆浴場浴槽水の水質基準を越えていないことが判明した。また、アメーバ類の検出実態調査結果では、検査総数の6割より検出された。種類別に見ると、Hartmannellaが13検体、Vannella が9検体、Echinamoebaが6検体、Acanthamoebaは3検体、Naegleriaは1検体から検出された。検出アメーバ数は10個/100mlレベルが最も多く3割を占め、次いで1000個/100mlレベルが1割であった。この結果より、これまでの報告と同様にアメーバ類による汚染の進行が明らかとなった。また、0.1mg/L以上の残留塩素が検出された浴用水からのアメーバの検出率が顕著に低く、塩素処理の有効性が示された。更に、各自治体の保健衛生活動の実態を調査した結果、多くの社会福祉施設で循環式浴槽を使用しており、地域による差は認められるものの、その半数近くの施設でレジオネラ属菌による汚染が判明したが、各自治体の社会福祉施設などに対する実態調査や普及啓発事業などその取組状況に差違があり、必ずしも十分とはいえなかった。
オゾンを利用した設備機器に関する実態調査では、首都圏にある老人ホーム56施設にオゾン脱臭装置の導入・使用の実態についてアンケート調査を実施後、実測調査の協力を承諾した20施設について居室内の濃度実測を行った。また、オゾン発生器から出たオゾンの拡散状況を把握するため、実験室において脱臭機出口からのオゾン濃度の距離減衰の状況を調べた。アンケート調査結果より、設置場所は、居室、談話室、ゴミ集積所が多く、使用目的としては脱臭を目的として設置している施設が多く、殺菌を目的として設置した施設は少なかった。機器は、空気清浄機にオゾン脱臭機能が含まれているもの、オゾンガスを機械室にて生成させ施設全館に直接放出するもの、オゾンガスを直接室内に放出するパッケージ型のものに3分類された。実測調査結果より、オゾン濃度の発生源近傍における最大瞬時値は高く、数ppmから50ppmの値を示した。ただし、発生源近傍の濃度が高い場合でも、居住域における濃度は、いずれも大気環境基準による基準値(0.06ppm)を下回った。オゾン濃度は、発生源からの距離が増すに従い、大きな濃度減衰を示した。今回の実測調査では、設置されたオゾン発生装置の種類が限られており、本調査結果が社会福祉施設全体のオゾン濃度の実態を表しているとは限らない。また、器具や設備固有のオゾン発生特性によって、平常時の濃度が低い施設であった可能性もある。室内汚染物濃度に影響を及ぼす室内換気回数を測定したが、利用者や執務者が長時間継続的に滞在する個室や居室よりも、廊下、ホール、リハビリコーナーの換気回数が大きい実態が示された。また、チェンバー実験結果より、発生源からの垂直距離が増大するにつれて、大きく減衰することが認められた事例があり、施設における濃度実態と傾向が符合した。
結論
社会福祉施設の循環式浴槽は、レジオネラ属菌による日和見感染などハイリスクの人々が利用するため、定期的な水質検査の実施とともに浴槽水の換水やろ過設備の清掃頻度を増すなど、衛生管理に対する十分な配慮が必要である。
なお、居住域におけるオゾン濃度は低濃度に推移していたが、本来の脱臭・殺菌機能を発揮しているかという問題点も浮上した。この問題は、室内オゾン濃度構成メカニズムの解明と同様に、今後の重要な検討課題である。

公開日・更新日

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