血液透析療法における感染症の実態把握と予防対策に関する研究

文献情報

文献番号
199900067A
報告書区分
総括
研究課題名
血液透析療法における感染症の実態把握と予防対策に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 隆
研究分担者(所属機関)
  • 山崎親雄(増子記念病院)
  • 秋澤忠男(和歌山県立医科大学腎センター)
  • 佐藤千史(東京医科歯科大学医学部保健衛生学科)
  • 吉沢浩司(広島大学医学部衛生学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
透析医療における感染の現況を把握し感染防止の実態を把握するため調査をおこなった。また、透析医療における感染予防の対策として、院内感染防止の立場からみて安全で標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル案を作成した。
研究方法
郵送によるアンケート法により、日常的に慢性血液透析を行っている本邦の医療施設2910施設を対象とした。日本透析医会感染対策委員会(委員長秋葉隆)で作成したマニュアル案は、standard precautionの原則にたった上で、本邦で広く行われている疾患別院内感染対策をも取り入れた構成となっている. 本研究班はこのマニュアル案を引き継ぎ、班員、および透析、感染症、疫学、肝臓病学専門家、日本透析医学会総務委員会感染対策小委員会、さらに透析療法を実施している全国の施設に示して、細部にわたる検討を繰り返し、「標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」を作成した。
結果と考察
アンケート回収は1681施設57.8%と良好だった。回答率の偏りは、私的施設の回答率(44.8%)がその他の施設の回答率(51.7%)より低かったが、地域、施設規模別では差がなく、おおむね偏りのない調査が行われた。81.6%の施設が、感染対策マニュアルを自施設で作成しており、施設の74.5%に感染対策委員会が設置され、その3分の2の施設で感染対策委員会が毎月開かれているなど、多くの施設で、院内感染予防に対する積極的な対策が講じられていることが明らかにされた。
HBs抗原の測定率は施設の94.3%、患者の97.1%の、HCV抗体測定率は施設の93.3%、患者の98.9%と良好だった。患者陽性率はHBs抗原で2.84%、HCV抗体では22.4%だった。
HBs抗原、HCV抗体施設陽性率は7地域間で異なり(p=0.00515、 p<0.0001)、設立母体でも異なっていた(p<0.0001、p<0.0001)。HBs抗原、HCV抗体施設陽性率は施設透析期間と相関を示した(p=0.00308,P<0.0001)。HBs抗原施設陽性率とHCV抗体施設陽性率には弱い相関が認められた(r=.145, p<0.0001)。 一方、HBワクチンは本邦施設の24.3%でしか実施されておらず、HBs抗原陽性患者の別室隔離は1.88%、ベッド固定でさえ59.0%の施設でしか実施されていなかった。HCV抗体陽性患者では別室隔離は0.674%、ベッド固定は43.2%で実施されていた。薬物投与に用いた注射器の再使用(2.06%)、返血で余った生理的食塩水を別の患者への使用(0.908%)、エリスロポエチンの同一アンプルの分割投与(5.54%)などが報告された。HBs抗原陽性患者に対する日常生活の注意、HCV抗体陽性患者のベッド固定、HCV抗体陽性患者への告知、HCV抗体陽性患者に対する日常生活の注意を行っている施設のHCV抗体陽性率は低く、これらの診療行為を行うことで、HCV抗体陽性率を下げる可能性が示された。
本マニュアルの第1章は血液透析操作マニュアルはstanard precautionの立場に則したものである。 第2章には一般的な消毒法について解説した。これに加えて、感染予防法として「感染源を同定して、その感染経路を遮断する」という本邦で広く行われている疾患別院内感染対策をも取り入れ、第3章は疾患別に注意すべき事項を個別に紹介した構成となっている。 第4章は医療従事者の感染対策、第5章は医療従事者の教育を扱っている(B5版本文59頁)。
結論
本邦の血液透析施設では依然として血液透析患者のウイルス肝炎感染が高頻度にみられること、院内感染予防のために一定の努力が行われていることが明らかとなった。今後、本マニュアルに沿った基本的な感染予防策実施を徹底をはかり、診療内容の危険度と予防措置の効果に関する前向き研究の継続が必要である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)