沖縄サミットにおける地域の危機管理体制のあり方(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900061A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄サミットにおける地域の危機管理体制のあり方(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
真栄城 優夫(沖縄県立中部病院)
研究分担者(所属機関)
  • 山城正登(沖縄県立北部病院)
  • 島崎修次(杏林大学)
  • 立山浩道(宮崎県立宮崎病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2000年7月21日より開催される九州・沖縄サミットにおける危機管理体制のあり方について検討する。特に、沖縄のように、医療資源、人的資源に恵まれない地方都市において、国家的行事を円滑に遂行するために、救急医療対策マニュアルを策定し、拠点病院、支援病院を定め、生物化学兵器対策、他施設より中毒専門医を含む専門医療支援の編成、基幹病院におけるこれら医療支援チームの有効活用の方略、救急医療水準の標準化を目的としたクリティカルパスの作成、現地病院の大災害対策マニュアルなどについての検討を行う。
また、これら救急医療対策マニュアル作成過程の中から得られた、危機管理対策マニュアル策定に重要な項目について検討する。
研究方法
過去にG8サミットが開催されたドイツのケルン市、英国のバーミンガム市において、サミット開催に際してとられた危機管理体制のあり方、その準備方法、救急医療対策として現実に採用された首脳対応医師、救急医師や救急車添乗医師の配置状況と条件、警備陣、消防防災、医療陣との連絡方法と総合本部の設置、拠点病院における生物化学兵器対策などを検証し、現地で入手したサミット危機管理対策マニュアル、基幹病院における大災害対策マニュアル等を検討した。
これらの検証と検討から、沖縄現地の実状に応じた危機管理体制のあり方について、主任研究者による全体的統括、分担研究者による生物、化学兵器対策、支援医療チームを施設における有効活用の方略、宮崎サミットにおける救急医療対策マニュアル作成などを分担実施した。
結果と考察
沖縄県の地理的条件、人的資源、医療資源の現状を勘案しつつ、九州・沖縄サミットにおける危機管理体制を以下の如く構築した。
サミット救急医療対策本部を設置し、警察本部、消防総合警戒本部より救急担当官、搬送担当官および医療統括指揮者を配置し、三者の緊密な連絡網を、携帯電話、警察無線、ホットラインなどによりサミット会議場、拠点病院、救急医、首脳対応医、添乗医間に構築する。
拠点病院を県立北部病院と定め、万座ビーチホテル以北で発生する救急疾患を昼夜ともに収容する。リザンシーパークホテル以南の夜間救急、および特殊救急に、県立中部病院および琉球大学附属病院で対応する。プレスセンターに臨時診療所を設置し、プレス担当者の救急診療を行い、入院は北部地区医師会病院で対応する。警備陣の健康管理センターを本島内4ケ所に設置し、救急診療を行う。入院はすべて、国立病院沖縄療養所が担当する。
高規格救急車、および移動ICUバスを、空港、首脳代表団宿泊ホテル、会議場、首里城に、会議日程に従い、添乗医、ナースとともに配置する。救急ヘリコプターは、残波ロイヤルホテル、名護市21世紀の森に、添乗医とともに配置する。
首脳対応医を選任し、会議場に配置する。ブセナホテル内に救急診療所を設置し、救急医を配置、首脳夫人を含む代表団員の救急疾患に対応する。
拠点病院における救急専門医療支援のため、外傷チーム、脳神経外科チーム、整形外科チーム、心臓血管外科チーム、PTCAチームを選任し、24時間対応体制で配置する。中毒専門医を、医療対策本部と県立北部病院に、分析担当医を琉球大学附属病院に配置する。
危機管理体制の確立で、もっとも重要なのが、あらかじめ平常時にマニュアルを作成し、定期的に改訂し、かつシュミレーションを実施すること、統合本部を設置し、通信手段を確保することについては論をまたない。特に通信は、ライフラインの途絶にともなう混乱が予想されるので、二重、三重の手段を確保することが必要である。
拠点病院の指定は、地域行政単位、あるいは県や地方単位で、インフラに優れ、かつ人的資源が豊富で24時間救急診療に対応できることを条件に設置すべきであるが、今回は、救急搬送の時間を第一条件として決定した。将来、ヘリコプターによる救急搬送が日常化すれば、ヘリポートの設置なども、指定条件となる。また、生物、化学兵器、放射能汚染などに対するインフラの整備も必要条件になる。
大災害時の救急搬送には、現在わが国で実施されている市町村などの地方行政単位の搬送システムでは限界があり、広域搬送システムを設定し、これと連動できる制度を定めていなければならない。更に迅速な搬送のため、ドイツで既に実施されているヘリ搬送システムの平時における運用が重要であり、これに加えて災害時には救急、消防、自衛隊などのすべてのヘリを投入するシステム、あるいは報道ヘリを救難活動へ強制的に参加させるような法的規制も考慮すべきであろう。また救援のための交通路の確保、拠点病院の設定など、都市毎、地区や地域毎に設定しておくことも必要である。危機管理対策としては、生物、化学兵器、更には放射能障害の対策についても、考慮していなければならない。
今回の沖縄サミット開催に備えて、亜熱帯地域にある特徴から予想される救急疾患を想定して、治療水準を一定に保つために、クリティカルパスも作成したが、地域毎の特徴を考慮して、このようなものを準備していることが望ましいと考える。
結論
九州・沖縄サミット開催を円滑に遂行するための危機管理、救急医療対策マニュアルを策定した。拠点病院、支援病院を設定し、首脳対応医師団、会場内診療所救急医、本土より派遣される専門救急医療チーム、救急車添乗医などを選定した。更に高規格救急車、モーバイルICU、救急ヘリなどを空港、ホテル、会場等に配置する体制を確立した。中毒専門医を、統合指揮本部、拠点病院、毒物分析医を大学に配置し、除染装置を拠点病院に設置した。
これらの過程を通して、一般的な危機管理マニュアル策定に重要な項目を抽出し、検討した。我が国では、広域搬送体制の確立、拠点病院におけるインフラ整備、救急医療チームの受け入れの方略、救急ヘリ搬送の有効な活用法など、多くの問題が山積していることが明かとなった。

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