雇用の変化と社会保障との関係に関する研究

文献情報

文献番号
199900057A
報告書区分
総括
研究課題名
雇用の変化と社会保障との関係に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小池 和男(法政大学)
研究分担者(所属機関)
  • 奥西好夫(法政大学)
  • 福田素生(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究は、失業率が高い水準で推移するなど今後とも厳しい雇用情勢が続くことが予想される中で、高齢化、女子労働力の増大、パートタイマーや派遣労働者等の非正規労働者のさらなる増加など雇用構造の変化やこれに伴う企業の雇用制度の変化などの実態を把握するとともに、それに応じた社会保障制度の課題と対応の方向について、中長期的視点を踏まえて、理論的・実証的研究を行い、早期に問題点や方向性を提示することをねらいとした。
研究方法
この研究では、関連分野の学識経験者を含めた研究会を開催しつつ、文献研究や既存統計の整理、企業の担当者等からのヒヤリング、企業に対するアンケート調査を実施し、最近における雇用面の変化の動向や企業内福祉制度の動向を把握し、分析するとともに、これに対応した社会保障制度の在り方について検討を加えた。
結果と考察
①既存統計の整理を通じて、最近における雇用面の「非正規化」、「流動化」、「能力・成果主義化」、「福利厚生費の縮減」といった論点について分析し、
・女性と若年層を中心に非正規化が進展していること。
・流動化は非正規化と併行して進展している面が大きいこと。
・男子・中年層は近年非自発的離職の増大があるものの総体としての労働異動の高まりは現在のところみられないが、転職希望者の増大が続いており転職環境が整えば流動化が進むことも考えられること。
・同一年齢内賃金格差が拡大しており、能力・成果主義化の進展が一定程度推定できること。
・法定外福利費の微減傾向がみられるものの、全体としてみた企業内福祉縮小傾向は顕著とはいえないこと。
などを指摘した。
②今回実施した企業に対するアンケート調査結果からは、既存統計でみられた傾向を確認するとともに個票を活用した要因分析等を行い、
・非正規社員(派遣等の外部社員を含む。)の雇用比率は事業所間で均等ではなく、むしろ低い事業所、高い事業所の2極化しているといえること。
・正規社員と非正規社員の各タイプは、ある程度まで仕事内容が異なり、使い分けが行われており、単純に代替や補完関係をいうことはできない。パートタイマーの中にも仕事面等で多様なものがあり、これらに応じて社会保険の適用の有無も影響されているようであること。
・退職金又は企業年金について、ここ5年間に支給率の削減を行った企業は約1割であり、支給要件の変更を含めると約4分の1の企業で制度の変更が行われている。その中で一部ではあるが勤続に対する報酬が弱まる傾向が窺われた。また、企業年金の積立不足に対する補填措置を講じた企業が2割を上回っている。
③また、同じアンケート調査により、企業の社会保障に対する考えを聞いたところ、
・7割を超える企業が、現在の社会保障制度に問題があるとしている。
・今後の高齢化の中での負担増について、「やむなし」とする企業と「これ以上は競争力を損なう」とする企業がどちらも4割強で拮抗している。
・種々の制度改正案に対する企業の意見は、基礎的な社会保障制度の財源を税とすること、パート、派遣等への社会保険の積極適用、適用単位の家族から個人への移行、厚生年金基金の代行部分の返上などは賛成とする企業が相対的に多かったが、いわゆる突き抜け型の老人医療保険の制度化には賛成は少なかった。
といった結果となった。
④雇用の変化によってクローズアップされる職域保険と地域保険との関係づけについて、医療保険を例にとって、ドイツにおける動向なども踏まえて分析整理した。従来の職域中心の発想から離れて、高度の知的専門性を持った「高度情報組織」としての保険者を設立することとし、将来的には都道府県を単位に複数の非営利法人の保険者を設立し、リスク構造調整を前提に被保険者の保険者選択を認めていくことを検討すべきとした。
⑤特に流動化について理論的な考察を行い、企業における基幹的な仕事は、長期間の経験を通じて養われる「問題と変化をこなす技能」に基礎があり、基幹業務を行う正規・長期雇用のグループは今後ともしっかりと存在するであろうし、またそうした層の流動化は進めるべきでもない。
⑥今回の研究において十分データ的な裏付けをもって分析できなかったものを含めて、雇用の変化と社会保障制度の在り方について試論的に論点整理を行い、今後の課題として提示した。例えば、失業の高どまりや労働異動の増大に関しては職域ベースの保険と地域ベースの保険との連携・融合、非正規型就業の増大に関しては少なくとも基幹的な部分に対する社会保険の適用拡大、賃金処遇制度の変化に関しては所得格差の拡大への適切な対処、高齢者雇用の促進に関してはそれに適合した社会保障制度のあり方、女性労働の増大に関しては育児、子育て等の家庭課題活動との関連からみた社会保障制度のあり方などの論点を提示している。
結論
低成長、少子・高齢社会を迎える中で、個人、企業、政府がそれぞれ、個人の生活保障に対し負うべき責任、役割分担はいかにあるべきか、また、最近の雇用・労働市場の変化は、そうした役割分担に対しどのような変更を迫っているかが、大きな課題となっている。少子・高齢化の流れがほぼ確実である以上、社会保障負担の上昇は不可避と言ってよいであろう。しかし、少なくとも今までのところ、雇用・労働市場の変化は、社会保障制度との関連で言えば、限定的、ないし十分に対応可能であるように思われる。
例えば、非正社員でも定着的な層に関しては、現在でも社会保険・労働保険の適用対象とすることは十分可能であり、また、実際適用されている。問題は、単発的、短期・断続的な派遣労働者やアルバイトなどだが、こうした層に対しては、社会保険財源の税方式への転換も含め、徴収方法を工夫すれば対応可能であろう。
雇用の変化と社会保障制度に関しては、足元の厳しさから短絡した対応に走ることなく、しっかりとした事実認識と議論を通じて的確な対応が求められる。そのためには、今回の研究は所期の目的を十二分に達成できたとは必ずしもいえないが、こうした労働経済研究と社会保障研究との学際的連携による研究が、今後とも進められることが重要である。

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