文献情報
文献番号
199900043A
報告書区分
総括
研究課題名
健康危機管理のための抗毒素の開発・備蓄システムの開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 荒川宜親(国立感染症研究所細菌・血液製剤部)
- 高橋元秀(同部)
- 島崎 修次(杏林大学医学部救急医学教室)
- 鳥羽通久((財)日本蛇族学術研究所)
- 金城喜榮(沖縄県衛生環境研究所)
- 大隈邦夫((財)化学及血清療法研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
国内で報告されている抗毒素治療の効果が期待できる発生事例について、疫学調査を行うとともに海外の情報を収集し、抗毒素確保のための具体的なシステムを構築する。本来治療上用いる抗毒素は製薬企業などにより薬事承認を取得した上で輸入されることが望ましいものであるが、我が国ではきわめて稀にしか発生しないため、企業における開発は期待できない。そのため、国内で製造可能なものについて試験製造を行い、海外から輸入可能なものについては入手経路を明確化して緊急体制を整える。確保した製剤の品質管理は、現在生物学的製剤で行われている方法に準し、または必要な生物検定法を導入して品質管理法を確立して安全性と有効性の品質保証技術を検討する。品質保証が確認された製剤は、国内数箇所の拠点で管理、保管し、緊急時に対処、可能な組織、システムを確立する。これらシステムの構築により、きわめて稀ではあるが重篤な症状を引き起こす毒素性疾患による事故の健康被害が救済され、また今後新たに起こり得る事例に対しても今回のシステムは規範として期待できる。
研究方法
症状が重篤であるにも関わらず、我が国では極めて稀にしか発生しないことから企業における開発が進まず、その供給体制が整備されていない毒蛇の咬傷等に対する抗毒素が少なからず存在している。それらの抗毒素について、緊急時の健康危機管理の観点から、その開発及び試験製造を行うとともに、高度救命救急センター等とも協力しつつ備蓄システムの開発を行う。
(1)必要とされる抗毒素等の確保計画の作成に関する研究
我が国において必要とされる抗毒素に関する情報収集を行い、必要とされる抗毒素の種類及びそのプライオリティーを明らかにするとともに、その入手方法、必要とされる量及び備蓄場所について検討を行う。得られた検討結果をもとに、諸外国から輸入可能な抗毒素を輸入し、抗毒素等の確保計画を作成する。
(2)抗毒素の試験製造に関する研究
諸外国で製造していないため輸入できない、または、我が国独自で開発する必要がある抗毒素の試験製造を行う。昨年度から進めている治療用ヤマカガシ抗毒素の開発において、採毒-毒素精製-無毒化-ウマの免疫を推進し、製剤化を具体化する。また、抗毒素の効果を推定するための動物試験系を確立し、緊急対策用に用いる最大限の安全性試験を検討する。
(3)抗毒素等の開発・備蓄システムの開発に関する研究
諸外国から輸入した抗毒素と独自に開発した抗毒素を備蓄するための保管指針を作成するとともに、緊急時の抗毒素による治療指針(インフォームド・コンセントの様式、投与方法等)を作成する。また、タンビマムシ等の外来種で我が国の同種のものと間違う恐れのあるものについて、その見分け方の指針を作成し、医療機関への普及を図る。
さらに、開発した抗毒素について、緊急時に対応するための備蓄システムを開発するとともに、それらを安全に且つ効果的に備蓄するため、抗毒素等の力価、品質等の測定方法の開発、また、それらの維持技術を検討する。
(1)必要とされる抗毒素等の確保計画の作成に関する研究
我が国において必要とされる抗毒素に関する情報収集を行い、必要とされる抗毒素の種類及びそのプライオリティーを明らかにするとともに、その入手方法、必要とされる量及び備蓄場所について検討を行う。得られた検討結果をもとに、諸外国から輸入可能な抗毒素を輸入し、抗毒素等の確保計画を作成する。
(2)抗毒素の試験製造に関する研究
諸外国で製造していないため輸入できない、または、我が国独自で開発する必要がある抗毒素の試験製造を行う。昨年度から進めている治療用ヤマカガシ抗毒素の開発において、採毒-毒素精製-無毒化-ウマの免疫を推進し、製剤化を具体化する。また、抗毒素の効果を推定するための動物試験系を確立し、緊急対策用に用いる最大限の安全性試験を検討する。
(3)抗毒素等の開発・備蓄システムの開発に関する研究
諸外国から輸入した抗毒素と独自に開発した抗毒素を備蓄するための保管指針を作成するとともに、緊急時の抗毒素による治療指針(インフォームド・コンセントの様式、投与方法等)を作成する。また、タンビマムシ等の外来種で我が国の同種のものと間違う恐れのあるものについて、その見分け方の指針を作成し、医療機関への普及を図る。
さらに、開発した抗毒素について、緊急時に対応するための備蓄システムを開発するとともに、それらを安全に且つ効果的に備蓄するため、抗毒素等の力価、品質等の測定方法の開発、また、それらの維持技術を検討する。
結果と考察
(1)当面に必要とされる抗毒素で輸入を決定したものと、国内で製造が必要な抗毒素について、作業を推進した。ヤマカガシ抗毒素の製造は、当初心配された蛇の確保(採毒量)について、ウマを免疫する毒素量が確保できたため、現在2頭に免疫中である。免疫応答は毒素を特異的に中和する抗毒素抗体価(中和抗体)を定量する方法を確立した。この方法を用いて、高度免疫した血清を以前作製されたヤギ抗毒素の力価と比較した結果、同等の力価が得られており、それらの製剤化を行う。また、昨年に引き続き、オーストラリアCSL社より、海ヘビ抗毒素、ハブクラゲ抗毒素、オコゼ抗毒素、セアカゴケグモ抗毒素を輸入した。
(2)亜熱帯に位置する沖縄県には他県とは異なる陸棲・海棲の毒性生物が多種生息し、これらによる刺咬傷事故が毎年多数発生している。陸棲のハブの仲間については治療用の抗毒素が全県の病院や診療所に配備され万全の体制が取られているが、海棲のハブクラゲやオニダルマオコゼ、ウミヘビ、また外国から移入されたコブラ、タイワンハブについては抗毒素が日本国内では製造されてなく、対応に苦慮していた。今回、輸入した抗毒素が沖縄県に棲息する当該生物の毒素を良好に中和するか否かを確認すると共に、同抗毒素の備蓄と緊急輸送体制について関係機関とも協力しつつ検討を行った。
咬症患者への現行はぶウマ抗毒素の使用状況を調査した結果(過去8年間)、ハブ咬症では780人中536人に抗毒素が投与され、投与量は1本(20ml)が48.5%と最も多く、5本以上投与された例も16件あった。またサキシマハブでは266人中25人、ヒメハブでは121人中54人が抗毒素の投与を受けていたが、重篤な副反応は報告されていない。
研究班が購入したコブラ抗毒素(タイ赤十字研究所)とタイワンハブ抗毒素(台湾国立予防医学研究所)の交差中和実験を行った結果、それぞれの抗毒素は以前沖縄で捕獲されたタイコブラ、タイワンハブの毒を特異的に中和することを確認した。
クラゲ・オコゼ・イソギンチャクなど海洋毒性生物による被害状況を調査した結果、マリンスポーツの普及に伴って海洋生物による刺咬症事故は増加する傾向にあり、最近では年間400~500件が報告されている。抗毒素を使用する程の重症例は少ないが、平成9年と10年には幼児が1人づつ死亡し、後遺症を残した症例も数件報告された。
購入したクラゲ抗毒素(オーストラリアCSL社)は、沖縄近海に棲息するハフクラゲの毒を良好に中和することを確認した。
抗毒素の備蓄と緊急輸送体制について関係機関と検討し、コブラ抗毒素、タイワンハブ抗毒素、クラゲ抗毒素、オコゼ抗毒素、ウミヘビ抗毒素については、沖縄県衛生環境研究所(大里村)に備蓄し各医療機関からの要請に応じて緊急輸送することが考えられた。
(3)日本には救命救急センターが142施設、そのうち高度救命救急センターが7施設あるが、ヘビ咬傷はその事例発症地域の特異性からこれら救命救急センターを受診することは少ないと考えられた。そこで、我々が利用できるネットワークを介して、僻地を含む一般市中病院にアンケートを行った結果、マムシ抗毒素は厚生省で認可された薬品であることから、多くの救命救急センター及び事例が発生している地域の市中病院では常備されているが、ヤマカガシ抗毒素については、未認可であることから、その利用は制限されていた。これらの調査から、未認可の抗毒素(輸入抗毒素を含む)の備蓄は全国を大きく3-4地域に分けて、その中の中心的高度救命救急センターに備蓄すること、あるいは、蛇族研究所を中心に、国立感染症研究所に備蓄し、必要時に各施設に提供する方法が考えられた。また、未認可薬の使用に関する患者への説明、同意、また最終責任は投薬した医師にあることなどをまとめ、各種ヘビ咬傷に関するガイドライン作りの基礎的データを集積・解析した。
(4)輸入した抗毒素または国内で製造する抗毒素は、製薬企業等によって正式な承認許可を得ることが期待しにくいものであり、国民の健康被害救済のために国家で購入・備蓄する事が必要である。海外からの輸入に際して我々は医師の個人輸入という事務手続きで対応した。様々な規則、申請書類の提出を求められ、さらに備蓄保管する抗毒素を緊急時に使用する場合は輸入した個人の使用という規制枠が生じている。国民の安全を守るための危機管理体制を整えるためには、輸入に関する規制、ウマ血清類の検疫システム、国が用意するべき抗毒素が特例事項で処理できるようなシステムの構築が必要である。さらに、班終了後、継続的に保管管理するには限度があり、製薬企業の自助努力の期待できない品目については、国や地方自治体、研究機関および医療機関等の協力により、何らかの抜本的な対策が必要である。
なお、現在、国内で事故が予想される蛇、海洋生物の種類を的確に特定し、早期治療に必要な注意点をまとめたパンフレットを作成・印刷し、患者の来院が予想される全国の医療機関等に配付する予定である。
(2)亜熱帯に位置する沖縄県には他県とは異なる陸棲・海棲の毒性生物が多種生息し、これらによる刺咬傷事故が毎年多数発生している。陸棲のハブの仲間については治療用の抗毒素が全県の病院や診療所に配備され万全の体制が取られているが、海棲のハブクラゲやオニダルマオコゼ、ウミヘビ、また外国から移入されたコブラ、タイワンハブについては抗毒素が日本国内では製造されてなく、対応に苦慮していた。今回、輸入した抗毒素が沖縄県に棲息する当該生物の毒素を良好に中和するか否かを確認すると共に、同抗毒素の備蓄と緊急輸送体制について関係機関とも協力しつつ検討を行った。
咬症患者への現行はぶウマ抗毒素の使用状況を調査した結果(過去8年間)、ハブ咬症では780人中536人に抗毒素が投与され、投与量は1本(20ml)が48.5%と最も多く、5本以上投与された例も16件あった。またサキシマハブでは266人中25人、ヒメハブでは121人中54人が抗毒素の投与を受けていたが、重篤な副反応は報告されていない。
研究班が購入したコブラ抗毒素(タイ赤十字研究所)とタイワンハブ抗毒素(台湾国立予防医学研究所)の交差中和実験を行った結果、それぞれの抗毒素は以前沖縄で捕獲されたタイコブラ、タイワンハブの毒を特異的に中和することを確認した。
クラゲ・オコゼ・イソギンチャクなど海洋毒性生物による被害状況を調査した結果、マリンスポーツの普及に伴って海洋生物による刺咬症事故は増加する傾向にあり、最近では年間400~500件が報告されている。抗毒素を使用する程の重症例は少ないが、平成9年と10年には幼児が1人づつ死亡し、後遺症を残した症例も数件報告された。
購入したクラゲ抗毒素(オーストラリアCSL社)は、沖縄近海に棲息するハフクラゲの毒を良好に中和することを確認した。
抗毒素の備蓄と緊急輸送体制について関係機関と検討し、コブラ抗毒素、タイワンハブ抗毒素、クラゲ抗毒素、オコゼ抗毒素、ウミヘビ抗毒素については、沖縄県衛生環境研究所(大里村)に備蓄し各医療機関からの要請に応じて緊急輸送することが考えられた。
(3)日本には救命救急センターが142施設、そのうち高度救命救急センターが7施設あるが、ヘビ咬傷はその事例発症地域の特異性からこれら救命救急センターを受診することは少ないと考えられた。そこで、我々が利用できるネットワークを介して、僻地を含む一般市中病院にアンケートを行った結果、マムシ抗毒素は厚生省で認可された薬品であることから、多くの救命救急センター及び事例が発生している地域の市中病院では常備されているが、ヤマカガシ抗毒素については、未認可であることから、その利用は制限されていた。これらの調査から、未認可の抗毒素(輸入抗毒素を含む)の備蓄は全国を大きく3-4地域に分けて、その中の中心的高度救命救急センターに備蓄すること、あるいは、蛇族研究所を中心に、国立感染症研究所に備蓄し、必要時に各施設に提供する方法が考えられた。また、未認可薬の使用に関する患者への説明、同意、また最終責任は投薬した医師にあることなどをまとめ、各種ヘビ咬傷に関するガイドライン作りの基礎的データを集積・解析した。
(4)輸入した抗毒素または国内で製造する抗毒素は、製薬企業等によって正式な承認許可を得ることが期待しにくいものであり、国民の健康被害救済のために国家で購入・備蓄する事が必要である。海外からの輸入に際して我々は医師の個人輸入という事務手続きで対応した。様々な規則、申請書類の提出を求められ、さらに備蓄保管する抗毒素を緊急時に使用する場合は輸入した個人の使用という規制枠が生じている。国民の安全を守るための危機管理体制を整えるためには、輸入に関する規制、ウマ血清類の検疫システム、国が用意するべき抗毒素が特例事項で処理できるようなシステムの構築が必要である。さらに、班終了後、継続的に保管管理するには限度があり、製薬企業の自助努力の期待できない品目については、国や地方自治体、研究機関および医療機関等の協力により、何らかの抜本的な対策が必要である。
なお、現在、国内で事故が予想される蛇、海洋生物の種類を的確に特定し、早期治療に必要な注意点をまとめたパンフレットを作成・印刷し、患者の来院が予想される全国の医療機関等に配付する予定である。
結論
1昨年度に引き続き海外で市販されている抗毒素製剤のうち国内で必要と思われる以下の製剤を輸入した。
(1) オーストラリアCSL社 海ヘビ抗毒素 6本
(2) オーストラリアCSL社 ハブクラゲ抗毒素 10本
(3) オーストラリアCSL社 オコゼ抗毒素 10本
(4) オーストラリアCSL社 セアカゴケグモ抗毒素 20本
2ヤマカガシ抗毒素の試験製造は、蛇からの採毒-ホルマリンによる無毒(ワクチン)化-ワクチンと毒素でウマ免疫-現行抗毒素と同様な工程による製造方法を具体化した。現在、ウマを免疫中で平成12年度内の完了を予定している。
3輸入または試験製造した抗毒素の保管場所、緊急時の使用方法、および使用上の注意点について、整理してまとめて公開することとした。
4国内で予想される刺咬傷生物について、パンフレットを作製し、事故の際にすみやかに蛇、海洋生物を特定し早期治療に役立つ情報を公開することとした。
(1) オーストラリアCSL社 海ヘビ抗毒素 6本
(2) オーストラリアCSL社 ハブクラゲ抗毒素 10本
(3) オーストラリアCSL社 オコゼ抗毒素 10本
(4) オーストラリアCSL社 セアカゴケグモ抗毒素 20本
2ヤマカガシ抗毒素の試験製造は、蛇からの採毒-ホルマリンによる無毒(ワクチン)化-ワクチンと毒素でウマ免疫-現行抗毒素と同様な工程による製造方法を具体化した。現在、ウマを免疫中で平成12年度内の完了を予定している。
3輸入または試験製造した抗毒素の保管場所、緊急時の使用方法、および使用上の注意点について、整理してまとめて公開することとした。
4国内で予想される刺咬傷生物について、パンフレットを作製し、事故の際にすみやかに蛇、海洋生物を特定し早期治療に役立つ情報を公開することとした。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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