ウイルス性食中毒原因の遺伝子検査標準法確立と全国行政対応整備に関する研究

文献情報

文献番号
199900036A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性食中毒原因の遺伝子検査標準法確立と全国行政対応整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
川本 尋義(岐阜県生物産業技術研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田春美(北海道立衛生研究所)
  • 斎藤博之(秋田県衛生科学研究所)
  • 矢野一好(東京都立衛生研究所)
  • 杉枝正明(静岡県衛生環境センター)
  • 松本和男(福井県衛生研究所)
  • 春木孝祐(大阪市立環境科学研究所)
  • 山崎謙治(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 池田義文(広島市衛生研究所)
  • 大瀬戸光明(愛媛県立衛生研究所)
  • 大野 惇(沖縄県衛生環境研究所)
  • 宇田川悦子(国立感染症研究所)
  • 西尾浩(国立公衆衛生院)
  • 大山徹(東京農業大学)
  • 大垣眞一郎(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年度研究班達成目標は以下のとおり。第1、これまで開発したウイルス性食中毒遺伝子迅速簡易診断技術(RTーPCR)の国内実践応用、第2、RT-PCRによる環境水系ウイルス生態調査と従来指標との比較関連とその評価、第3、生鮮輸入食品食材のウイルス蓄積混入実態調査とその評価、第4、検出ウイルス遺伝子比較解析から設計した研究班第3世代プライマーとその評価
本研究班は上記の研究目標達成のため、国内研究者が得意分野を活かして密に連携協力し、国外(米・アトランタ・CDCなど)研究者からも研究情報のやりとりに務め研究推進する。国内は研究対象地域を地方分割(北海道、東北、関東甲信越、中部、中国、四国、九州、沖縄)して各地域のウイルス性食中毒、関連食品と環境水系からSRSV検出試料を採取し、遺伝子検出解析を実施し、平成11年度研究総括と厚生科学特別研究事業報告にまとめ内外学会・学術誌等に成果を発表する。
研究方法
「食品を介した健康被害」即ち食中毒に対する行政の円滑対応を図るため、ウイルス性食中毒遺伝子検査技術確立とその行政対応整備について包括的検討を行い、地方自治体食品衛生関連行政部局と地方衛生研究所、厚生省との連携強化を図りつつ研究展開する。本研究は、国内8地方ブロック(北海道、東北、関東甲信越、中部、中国、四国、九州、沖縄)の各地に発生したウイルス性食中毒とそれらの患者や食品からの小型球形ウイルス(SRSV)遺伝子検出とRTーPCR法改良確立と分子疫学的解析を行い、環境水系のウイルス生態学ならびに輸入食品のウイルス汚染状況調査も併せ実施する。なお、本研究班は、末尾の表に示した全国公立研究機関、国立研究機関、大学、学会等の分担研究者と協力研究者等からなる全国縦断広域連携プロジェクト研究体制組織「厚生科学特別全国ウイルス性食中毒研究班」にて研究対象と目的に応じ構成編成を行い年度毎の事業展開した。
1 ウイルス性食中毒胃腸炎遺伝子検査(RTーPCR)技術の確立とGLP化を進め、国内行政対応整備に向け検討する。2 国内SRSV検出遺伝子解析による分子疫学を実施する。3 第3世代マルチコンセンサス・検出プライマーを設計し国内広域応用検証試験を実施する。4 生鮮輸入食品食材のウイルス蓄積汚染実態調査とその評価の実施する。5 環境水系SRSV生態を全国縦断広域調査し、初のSRSV環境生態を把握する。
結果と考察
研究成果とその考察は以下のとおり
1) RTーPCR法の確立とそのGLP
本研究班前身のわれら「ウイルス性胃腸炎研究班」で策定し平成9年1月に厚生省生活衛生局へ提出した(ウイルス性食中毒)検査指針案はそのまま初版検査法として通達をして頂いたが、この初期のSRSV検査法からすれば平成10年度までの開発研究で改良したウイルス濃縮精製と核酸抽出も一連プロトコールに納めたRTーPCR法は、簡素で高感度な迅速対応できるこれ以上スリム化の余地がないまで方法論として完成度を高めたと考えている。かかるこの検出システムのプロトコールは、国内のウイルス検査ラボならどこで使用されても運用可能なウイルス性食中毒検査GLPと成りうると考えている。また、われわれはこのシステムで使われるべき第3世代の検出確認検査用マルチコンセンサス・プライマーP/Y系を設計した。従って、ウイルス性食中毒の分子疫学解析や、今回内外初の環境水系ウイルス生態調査にこれら遺伝子検査技術を実践応用し国内の実態を解明した。
2)ウイルス分子疫学解析と第3世代マルチコンセンサス・プライマーの設計樹立
われら研究班は北海道から沖縄までの国内18地域で、患者・原因食品等から検出されたSRSV約6,000株から代表的遺伝子クラスター180株のORF1(RNAポリメラーゼ領域)塩基配列とアミノ酸配列を決定し比較検討した。これら組織的かつ独自の分子ウイルス遺伝学的解析が進められた研究は内外には類がない。これら研究班独自の遺伝子解析情報をもとに系統樹解析しこれら決定配列アライメントをもととしたSRSV検査のマルチコンセンサス・プライマーP/Y系を設計した。国内SRSVは2種の遺伝子群型(Genogroup Type:G1とG2)に分別され、特にG2が殆ど9割以上を占め、更にG2には5種の群内亜型が存在し、他方G1は1割程度と僅かであることが分かった。また、G2亜型には日本特有の2種があることも分かったので、われわれはこれらをJP1とJP2と名付け区別した。なお、G2のJP1はJP2に比し遥かに優位の出現頻度を示した。
3)環境水系ウイルス生態学調査
私たちは国内縦断の環境水系SRSV生態実態調査を行った。身近な河川や下水道、海など環境水にSRSVは本当にいるのだろうか? また、私たちの開発してきた最先端の遺伝子検出技術で水中からもSRSVは見つけることができるか? ウイルスの環境での動態や生態が、従来の水質汚染指標と相関するか? SRSVがリスク評価に繋がる環境パラメータに成り得るのか?などなど、これまで抱いていた疑問や未知の課題を対象に、私たちは内外初の全国ウイルス環境生態調査に敢えて挑戦した。SRSVはことの外、「耐水・耐酸・耐アルカリ・耐溶媒に優れたウイルス」だから多分、環境水系には相当量が生き残り海まで運ばれている筈だとの仮説を考えたし、今、私たちはそれらを見逃さず追尾可能な最新技術を確立したのでそれを試す積もりで調査に踏み切った。それで分かってきたことは初期の予測を遥かに越えていた。全国北海道から沖縄までの下水道原水(汚水)や河川水、海水からは、季節に関係なくSRSVがほぼ年中検出されてくるという驚くべき事実であった。分離培養もウイルス定量も現在はできないこのSRSVも遺伝子検出技術で追跡し解析することで、環境水系ウイルス生態学という新しい研究ジャンルが生まれ都市工学や衛生工学の技術開発に応用できる可能性を示唆した。SRSVはヒトからヒトへ感染伝播する一方、ヒト社会から環境水系を経て「かき」など海洋生物の生息環境に運ばれ、貝では中腸腺に蓄積され、食品となって「かき」がヒト社会へ戻され、時には食中毒を起こす循環系が本研究で漸く結ばれた。ちなみに、本研究で下水処理の効率がウイルスに対しても以外に宜しく、汚水原水にSRSVが相当いても処理越流水へのウイルス流出は冬季以外には殆ど検出されないことも分かってきた。冬季の下水処理能力低下の要因は下水処理槽の温度低下による活性汚泥機能低下とも相関し、フロック形成能の低下がウイルス凝集沈殿能の妨げになっていると考えられた。従って、海洋へのウイルス流出負荷は、中小河川への家庭からの簡易浄化排水等による要因が大きいことが示唆された。「かき」は、成熟出荷まで1個の貝が日平均数トンもの海水を吸排出し続けている。海のない県の私には、SRSV関連研究で「かき」についても大変多くのことを学ばせてもらった。仮に「かき」など海水浄化に寄与する海洋生物がいない環境になったなら海ははるか既に汚れ死んでいただろう。今後、SRSV粒子をも制御できる技術開発を行うとするなら、結果として海洋浄化や環境水系の浄化に通じると確信している。
4)輸入食品ウイルス調査
ウイルス学的に食品衛生面からも私たち国民の食品の供給を考察すると、そのひ弱さと怖さを感じる。大蔵省や農林水産省等の貿易、生産、生活統計などをもとに概算推計した国民の「かき」(牡蠣殻付換算)消費は年平均約33万トンで、国内供給年平均生産量は約23万トンと平年横這いである。それで、約10万トン分が不足補充のため輸入に依存することになる。「かき」消費ですらこの有様で、他品目も膨大な量の生鮮食品が国外から入っている。従って、食衛法に基づくウイルスを含む食品安全検査のための検疫はまさに重要で不可欠である。私たちの輸入食品の水際調査で、食品と共に国内に持ち込まれたウイルス種はSRSVに限らず多彩であった。成果の詳細は平成10~11年度の各厚生科学特別研究事業報告書にまとめ報告したのでご参照を願いたい。
結論
わが研究班が確立したウイルス性食中毒遺伝子検査法(RT-PCR)と第3世代のマルチコンセンサスプライマーは、患者や食品のみならず環境水系試料についても超高感度で有効有力なSRSV検出検査法(逆転写遺伝子連鎖増幅:RT-PCR)であることが証明された。この一連の遺伝子検出技術は食品衛生法のGLPとして厚生省や全国自治体また民間検査機関においても広く活用頂くことを前提に開発を進めた。当事業終了あたり、私たちの研究が全国基盤で進められましたのも全国地方衛生研究所のご協力とご支援のお陰であったと謝意を表します。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-