アレルギ-性疾患を抑制する天然薬物シジュウムの研究

文献情報

文献番号
199900035A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギ-性疾患を抑制する天然薬物シジュウムの研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
北中 進(日本大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木五男(東邦大学医学部)
  • 豊島 聡(星薬科大学)
  • 早川 智(日本大学医学部)
  • 斉藤貢一
  • 石井里枝(埼玉県衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
シジュウムの抗アレルギ-効果を解明するため、臨床効果を検討すると共に、その作用機構と活性成分について以下の研究を行った。
1)天然薬物シジュウムにより生成された塗布剤を用い、2年度の評価の裏付けとして塗布剤の二重盲検法(1か月間)を用い、その臨床評価について検討した。2)昨年度に引き続きシジュウムの抗アレルギ-効果を解明するため、抗アレルギ-活性を示す化学成分の研究を行い、有効成分の解明を試みた。3)昨年度までに、シジウム抽出物より単離・同定したmethyl gallateは、I型アレルギー発症に関わるTh2サイトカンであるIL-4の産生を選択的に抑制するとともにI型アレルギーモデルマウスにおけるIgE産生を抑制することを報告した。本年度はmethyl gallateより、Th2サイトカン(IL-4)産生抑制に関し、選択性及び活性の高い化合物を見出すことを目的に、methyl gallate の類縁化合物について検討を加えた。4)HIV感染の予防に関し、異性間、同性間の接触によるHIV感染、また、HIV感染妊婦におけて胎児新生児に対する垂直感染の予防を目的としたシジュウムの作用について検討した。5)新たに単離された12種の化合物のNO産生に対する作用を検討するとともに、炎症性サイトカイン(IL-1β及びTNF-α)やTh1/Th2分化に関与すると報告されているIL-12の産生に対する影響について検討した。
研究方法
各研究分担者により以下のように行った。
1)小児のアトピ-性皮膚炎の症状別(感染部位、肥厚部位など)に対してシジュウムの塗布剤や基材による臨床的有効性を、かゆみの症状をスコア-化し、その有効性を検討した。対象年齢は0 歳から15 歳のアトピ-皮膚炎を有する小児について実施した。塗布期間は 8 週間とし、2週間ごとに所見の観察を行い、症状をスコア-化実施した。更に「かゆみ」の指標として同意を得た患者に対して血中のヒスタミン、およびヒスタミン遊離試験を塗布前および塗布後 6-8 週に実施し、アトピ-性皮膚炎に有効なシジュウムの臨床的特徴を検討した。
2)シジュウム抽出物を諸種のクロマトグラフィにより化合物を単離し、1H-NMR, MS スペクトルの解析により、構造を決定する。また、単離した化合物は生物活性をした。たが、新たに新規ベンゾフェノン配糖体諸種のクロマトグラフィにより単離した。
3)抗CD3抗体刺激マウス脾T細胞にmethyl gallateあるいは、その類縁化合物(gallic acid、ethyl gallateあるいはpropyl gallate)を加え、2日間培養する。培養後の上清中に含まれるIFN-g(Th1サイトカン)とIL-4(Th2サイトカン)を、ELISA法により測定した。
4)シジュウムの抗HIV作用の検討は、CD4依存性感染に及ぼすシジュウムの作用について、健常人4名の末梢血より採取したCD4陽性Tリンパ球に国立感染症研究所において維持している日本人由来のHIV株をチャレンジし培養上清中のHIVp24をELISAにより定量した。この実験系においてウイルスの添加前にシジュウム粗抽出物を加えて検討した。次にHIV感染患者由来リンパ球におけるHIV産生に及ぼすシジウムの作用の検討は、HIV感染患者2例より同意を得て採血し、CD4リンパ球をマグネチックビーズによって分離した。このリンパ球をPHA 、IL-2 によって刺激し、培養上清中のHIVp24をELISAにより定量した。この実験系にシジュウム粗抽出物を加えて検討した。また、HIV感染患者由来リンパ球のアポトーシスに対するシジュウムの作用をHIV感染患者2例より採血したCD4リンパ球をPHA 、IL-2 によって刺激し72時間後にアポトーシスをDNA ladderの形成より検討した。この実験系にシジュウム粗抽出物を加えて検討した。
5)マウスマクロファージ株化細胞を用い、NO産生については、sampleと同時にIFN-γ及びLPSを加え培養し、上清をGriess法によりNO2-ー量を定量した。iNOSの誘導に対する作用はsample、 IFN-γ及びLPSを加え培養後、細胞を採りタンパク濃度を測定しSDS-PAGEに供し放射活性を測定した。TNF-α及びIL-1β産生に対する作用はsampleとLPSを培養液に添加培養後、培養上清中のTNF-α及びIL-1βをELISAで定量した。IL-12(p40)産生に対する作用は細胞に IFN-γを添加培養しELISAでIL-12(p40)を定量した。
結果と考察
1)アトピ-性皮膚炎に対するシジュウムの臨床結果は、「かゆみ」の軽減と皮膚症状の改善を認め、また、血中ECP 値及び尿中 NMH 値は有意な低下が認められたことから、シジュウム塗布剤はアトピ-性皮膚炎の痒みに有効な手段と考えられ、治療薬の軽減につながると期待される結果を得た。シジュウム製剤を難治性皮膚疾患の尋常性乾癬あるいはその類症等の患者皮膚に対する多くの症例において症状の軽減に有用な方向に働くことが観察され、Q.O.Lの向上が認められた。
2)シジュウムの葉 (5 kg)の80%アセトンエキスを各種クロマトグラフィーで分画し、4-(6-O-galloylglucosyl)-2,6-dihydrobenzophenone (1)、4-(6-O-galloylglucosyl)-2,6-dihydro-3,5- dimethylbenzophenone (2) および Quercetin-3-O-5-galloyl-arabinoside (3) を得た。さらに5種の既知quercetin配糖体を同定した。また、低極性画分からセスキテルペンのchlovandiol(4) と3,5-epoxysenecrassidiol (5) を単離構造決定した。なお、1、2、3 および 5は新規化合物であった。このうち、3 はマスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制すると同時にマクロファージのNO産生をも抑制した。4 および 5 はマクロファージからのIL-6産生を抑制し、IL-12産生を増強した。特に 4 のIL12産生増強作用は強かった。
3)ethyl gallateとpropyl gallteは1mg/mlの濃度で、IL-4産生を抑制した。この濃度のethyl gallateは、IFN-g産生に影響しなかったが、propyl gallateは弱い産生抑制作用を示した。以上の結果は、花粉症などI 型アレルギーの発症に関わるTh2サイトカインであるIL-4の産生をethyl gallateが、methyl gallate及び他のmethyl gallate 類縁化合物よりも選択的に抑制することを示唆するものであった。今後、本研究結果のヒトへの応用はethyl gallateを用いて調べるべきと思われた。
4)1 シジュウム粗抽出物は100 ng/ml以上の濃度でCD4陽性Tリンパ球におけるHIV HIVp24産生を濃度依存性に抑制した。2 シジュウム粗抽出物は1000 ng/ml以上の濃度で絨毛癌におけるHIVp24産生を濃度依存性に抑制した。3 シジュウム粗抽出物は1000 ng/ml以上の濃度でHIV感染患者CD4リンパ球におけるHIV産生を抑制した。4 シジュウム粗抽出物は1000 ng/ml以上の濃度でHIV感染患者CD4リンパ球におけるアポトーシスを抑制した。
5)マクロファージのNO産生に対する作用は単離された12種の化合物のNO産生に対してはセスキテルペン類が増強作用を示し、10種のフェノール性化合物が抑制作用を示した。TNF-α産生に対する作用では増強する化合物が認められた。IL-1β産生に対する作用ではエキスは作用を示さなかったが、4種のフェノール性成分が抑制作用を、 3種のタンニン類が増強作用を示した。IL-12(p40)産生作用に対する作用は、エキスは有意な作用を示さなかったが、2種のセスキテルペン類、2種のベンゾフェノン配糖体、1種のフラボノイドに産生増強作用が認められた。タンニンは無刺激あるいはLPS刺激マクロファージのTNF-α及びIL-1β産生を著しく増強させたが、LPS刺激マクロファージのNO産生を抑制することから、同じ活性化のシグナルに対して相反する作用を示した。また、IL-12(p40)産生作用を増強させる成分の存在は、Th1/Th2バランスをTh1優位に誘導される可能性を示すものである。
結論
シジュウム製剤はアトピ-性皮膚炎等の難治性皮膚炎に対し二重盲検法により、皮膚症状の改善と痒みに対するQ.O.L.の向上に寄与する結果を得た。作用機序としてはケミカルメディエ-タ-を抑制するばかりでなく、Th1/Th2 振り分け効果を介した免疫調節作用を有する可能性が示された。また、含有成分のポリフェノ-ル類はサイトカイン産生に影響を与え、マクロファ-ジの一酸化窒素産生の作用機構が明かとなり、シジュウムの抗アレルギ-作用が裏付けされた。また、ethyl gallate に抗アレルギー薬としての可能性が見いだされた。更にシジュウムにはHIV感染を予防する可能性が認められた。

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