医療用具滅菌バリデーションに於けるバイオバーデン菌抵抗性の変動要因の究明

文献情報

文献番号
199900033A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具滅菌バリデーションに於けるバイオバーデン菌抵抗性の変動要因の究明
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
新谷 英晴(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 数馬 昂始(K2インターナショナル)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
培地メーカーならびにBI(生物指標)メーカーなどが異なることに拠りD(菌抵抗)値がばらつく原因の究明、ならびに現実的な再現性の得られる滅菌保証を達成する方法について検討した。
研究方法
市販ならびに自家製の培地ならびに市販BIを種々用い、各培地組成成分を分析し、顕著に成分量の異なる成分があるかどうか、もしあればその成分量とD値が相関するかどうかを調べた。
結果と考察
SCD(Soybean Casein Digest 大豆カゼイン消化物)培地のロット間ならびに/あるいはメーカー間の差により滅菌保証を達成するための抵抗値(D値)が異なることが知られている。市販培地を用いたD値の相違の現象については既に報告されているが、培地組成のどの成分がD値のばらつきに原因しているかが再現性のある滅菌保証の達成のために確定されなければならない。そこで種々のカゼイン製ペプトン、種々の大豆製ペプトン、種々の寒天を組み合わせて種々のSCD液体(SCDB)培地ならびにSCD寒天固形(SCDA)培地を作成し、それらを用いてD値ならびに菌数に差がでるかどうかを検討した。
その結果D値の差を生じさせる成分として培地中のカルシウムであることが判明した。同時に培地中のカルシウム濃度とD値とが相関し、カルシウム濃度が増える程D値が高まり、カルシウム濃度が80mg/LまではD値増加は急激であるが120~150mg/Lではプラトーになることが確認された。それゆえ培地中のカルシウム濃度を120~150mg/L位に維持すれば再現性の良いD値を与える培地が得られる。ここでカルシウムで見られた現象はマグネシウムでは殆ど認められなかった。
SCDA培地とSCDB培地とのD値の差(前者が後者に比べ1分程D値が高い)についてはリン酸二カリウムの存在の有無に拠ると思われる。リン酸二カリウムが存在した場合、不溶性のリン酸二カルシウムを形成し、有用なカルシウムが減少するためと考えられる。それゆえ前者の培地の方がD値が高かった理由は、リン酸カルシウムの沈殿形成がなかったためと考えている。
確立した再現性の良いD値を与える培地を用いてBIロットならびにメーカー間でのBI性能の差について検討した。B. stearothermophilus ATCC 7953ならびにATCC 12980の使用が容認されているが、実際は後者の方が約0.2~0.5分程高いことが判明した。また塗布担体の違いに拠ってもD値が異なることが判明した。
市販されているBIに関して言えば、B. stearothermophilus ATCC 7953に限定しても、市販BIの性能には有意な差が認められる。BIメーカー間のD値性能間の差の原因究明は今後の課題であるが、ATCCより分与される栄養細胞を芽胞にする場合の芽胞形成方法ならびに芽胞形成培地の違いなどがD値の差として表われる可能性が考えられる。
また作成した芽胞菌を担体に塗布する技術も確立されなければならない。多くの場合BIのD値がばらつく原因としてBI芽胞菌の担体への不均一な塗布法に起因することが考えられる。それが顕著に現われるのは菌数の増大につれてD値のばらつきが大きくなる場合である。
それゆえBIメーカー間、同一メーカーのロット間に性能の差がある以上、現実問題としては連続した滅菌保証を達成していくには、BIを新規の物に替える場合には、従来のBIと新規BIとの相関を同一滅菌条件で確認し、滅菌保証の連続性を確保する必要がある。
結論
著者等は種々のカゼイン製ペプトン、種々の大豆製ペプトン、種々の寒天を添加して種々のSCD液体(SCDB)培地ならびにSCD寒天固形(SCDA)培地を作成し、それらを用いて個別にばらつきに起因すると考えられる物質について検討した。その結果D値の差を生じさせる成分としてカルシウムと特定した。カルシウム濃度の差に拠ってSCD液体培地とSCD寒天固形培地との間で有意にD値が異なることが明らかになった。SCDA培地を用いて得られたD値はSCDB培地を用いて得られたD値より有意に高かった。
SCDA培地とSCDB培地の違いはリン酸二カリウムの有無に原因していると考えられる。リン酸二カリウムの存在でカルシウムが不溶性のリン酸カルシウムとなり、菌に有効な培地中のカルシウムが減少するためと思われる。
BIロットならびにメーカー間の差についてはロット間ならびにメーカー間の間にも抵抗性ならびに公称菌数のばらつきがあることを確認した。また塗布担体の違いに拠ってD値が異なることも判明した。
B. stearothermophilus ATCC 7953とB. stearothermophilus ATCC 12980とで作成されたBIを比較したところ公称菌数については有意なばらつきが認められないが、D値については後者の方が0.2~0.5分程度高いことが確認された。これらは再現性のある滅菌保証を確立するためには解決されなければならない課題である。
BIメーカーの芽胞懸濁液が異なっても得られたD値はほぼ同じであったことからBIの担体、一次包装の素材ならびに担体への芽胞塗布方法などを一定にし、生育培地、D値計算方法などを一定にすれば、芽胞菌懸濁液の入手先が異なっても得られるD値は同じであることが判明した。
市販BIのD値がメーカーに拠って差が見られたのは担体、一次包装の素材、担体への塗布方法の違いなどに拠ると考えられる。芽胞形成方法ならびに芽胞形成培地の差に拠る理由は否定された。BIメーカーに拠って生育培地が異なり、それがD値の差として表われる可能性を考慮する必要がある。

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