米国の社会保障施策の評価に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900028A
報告書区分
総括
研究課題名
米国の社会保障施策の評価に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
野口 正人(株式会社三和総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田極春美(株式会社三和総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
1,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生施策の評価に関する米国の実態について現状を明らかにし、以って将来的な我が国の厚生施策を評価するための基礎的な資料整備を目的としている。アメリカ合衆国における行政省庁の活動は、1993年政府業績結果法(GPRA)の成立により、新しい枠組みが確立しつつある。GPRAにより、1998年から各省庁における戦略計画の作成、年次業績計画の作成が義務づけられることとなった。合衆国厚生省(HHS:U.S.Department of Health and Human Services)も例外ではなく、厚生政策における戦略計画、年次業績計画が策定され、同法下での最初の正式な文書として、1998年9月に連邦議会に提出された。そして、1999年度は、年次計画に基づいた行政活動を行う最初の年度となっている。既に明文化されたアメリカ合衆国における、厚生省の政策評価の実態を明らかにすることによって、政策評価の役割、中央省庁再編等を通じた我が国厚生行政の評価の必要性を明らかにし、(1)GPRA法成立以降の政策評価に関するこれまでの経緯、(2)GPRA、(3)合衆国厚生省戦略計画、(4)合衆国厚生省1999年度年次業績計画、(5)合衆国厚生省2000年度年次業績の内容を明らかにしている。
研究方法
本調査研究では、基本的な文書の入手については、インターネットを通じた所在情報検索を通じて行った。なお、政策評価に関する一般的情報収集については、「会計検査研究」(Vol.1~Vol.21)、参議院行政監視委員会調査室「政策評価の手法に関する調査」報告書、衆議院調査局「事務・事業の評価・監視システム導入に関する予備的調査」、通商産業省「政策評価の現状と課題」等は本調査研究を進めるための国内文献である。これらを参照しGPRAの翻訳、合衆国厚生省の戦略計画、1999年度年次業績計画、2000年度年次業績計画の翻訳に係る基本的用語の統一等を行った。また、合衆国会計検査院(GAO)、行政管理予算局(OMB)発行による文書等も参照とし、用語の定義、概念の整理等を行った。GAO/GGD-96-118、GAO/GGD-10.1.16、GAO/T-GGD-98-66、GAO/GGD/AIMD-10.1.18、GAO/GGD-10.1.20、OMB/Circular No.A-11等を参考としている。
結果と考察
本調査研究では、2年間計画の1年目として、以下の(1)~(5)について調査結果を得た。(1)GPRA法成立以降の政策評価に関するこれまでの経緯では、行政省庁、行政管理予算局(OMB)、会計検査院(GAO)が正式な文書として見解を明らかにし、政策評価の考え方、手法、計画策定の方法、計画の評価等を示した文書等について明らかにした。(2)GPRA法では、合衆国の連邦行政省庁が、5会計年度を対象とした戦略計画を策定することを義務化しており、この戦略計画には、以下の6つの基本的な項目を含んでいなければならない。「①各行政機関の主要な機能と運営に関する包括的使命、②各行政機関の主要な機能と運営のための成果に関する目標と目的を含んだ全般的な目標と目的、③目標や目的の達成に必要となる運営上のプロセス・技能や技術・人・資本・情報・その他の資源の説明を含んだ、目標や目的の達成方法、④業績計画における業績目標がどのように戦略計画の全般的目標や目的に関連しているかについての説明、⑤全般的目標や目的の達成に重大な影響を与える可能性がある行政機関のコントロールできない外的要因の特定、⑥将来のプログラム評価の計画に伴い全般的目標や目的を設定したり改訂したりする際に用いられるプログラム評価に関する説明」である。また連邦行政省庁は戦略計画の下、会計年度毎に年次業績計画を策定することを義務化しており、この年次業績計画には、以下の6つの基本的項目を含んでいなければならない。「①プログラム活動によって達成されるべき業績水準を定義するための
業績目標を設定する。②別に定める代替形式を除き、目標の客観的、定量的、測定可能な形式で説明する。③業績目標を達成するために必要とされる運営上のプロセス・技能や技術・人・資本・情報・その他の資源に関して簡単に説明する。④各プログラム活動に関わる産出物・サービス水準・成果を測定あるいは評価するために用いる業績指標を設定する。⑤実際のプログラムの結果と業績目標とを比較するための基準を提供する。⑥測定した値を確認し、立証するために用いられる方法を説明する。」この年次業績計画について、連邦行政省庁がどの程度達成することができたのかについて、客観的測定と体系的分析を行うことを通じて、年次業績報告(プログラム業績報告)を作成することを義務化した。(3)1997年9月30日に策定した、合衆国厚生省では、厚生省の包括的使命を「アメリカ国民の健康と福祉の増進のために効果的な厚生サービスを提供するとともに、医療、公衆衛生、社会サービスの基礎となる科学の強く継続的な進歩を育むこと」と定め、以下の6つを厚生省の基本目標として定めた。「①すべての国民の健康と生産活動に関わる主要な脅威 を軽減する。②合衆国における個人、家族、地域社会の経済的、社会的福祉を改善する。③保健サービスのアクセスを改善し、国民の健康に対する権利とセイフティネットプログラムの透明性を確立する。④ヘルスケアと対人サービスの質を改善する。⑤公衆衛生システムを改善する。⑥国の厚生科学研究事業を強化し、その生産性を増進する。」この基本目標について、業績を測定できるための、より具体的な目標を定めており、新しい法規、外的要因についても併記されている。(4)、(5)合衆国厚生省は、戦略計画に基づいて、既に1999年度年次業績計画、2000年度年次業績計画を策定している。1999年度年次業績計画では、戦略計画と年次業績計画との関連を明らかにした上で、OMB、GAOの考え方に対する見解を示しており、プログラム業績の測定に関する必要性の認識を示している。プログラム業績の測定に関しては、厚生省下の機関(約300にも及ぶ)について業績計画を策定し、業績の測定を推進していくことの必要性を明らかにしている。2000年度年次業績計画では、厚生省の優先事項、横断的プログラム活動、管理向上とデータへの取組みに関する考え方を示したセクション1及び厚生省の施策プログラムによって達成すべき業績計画の目標水準について、1999年度の対比を示す等、明確な評価指標を示している。
なお、調査研究の2年目の活動予定は、以下の(7)~(9)について進めることとしている。(7)合衆国厚生省に対して、これまでの計画策定のプロセスや基本的な考え方、業績測定に関する見解等を明らかにするための調査を行う。(8)連邦行政省庁全体の視点から業績測定・計画策定に関して指導的な役割を担い、そのための指針の提示等を行っている行政管理予算局(OMB)に対しても回報等に関する調査を行う。その一方、(9)会計検査院に関しても調査を行う。会計検査院は、立法の付属機関として、政策評価の基本的視点、指導的役割を担っている立場にあるといわれており、数多くの議会証言、報告書を作成している。これらのGAOの文書について、厚生政策に関する全体像を把握しつつ、政策評価の考え方等に関する情報収集を行う。
結論
本調査研究は、GPRA法、厚生省戦略計画、1999年度年次業績計画、2000年度年次業績計画の翻訳を進めた段階である。米国の厚生政策の評価について実態を把握し、厚生行政の政策評価に関する基礎的な情報として、戦略計画、年次業績計画を把握することができた。これらの基本文書をベースに、厚生省(HHS)、行政管理予算局(OMB)、合衆国会計検査院(GAO)への調査を行うことを通じた、調査研究の次の展開が必要とされる。その際厚生行政の政策評価の概念の整理等が必要とされている。特に我が国において、2001年1月に中央省庁が再編し、厚生省が労働省と統合すると同時に、厚生行政の政策評価を推進していくことが義務化されている。現在までのところ、厚生行政の体系的な業績評価を行うために必要な視点・指標を明らかにしたものはないため、米国の厚生政策の評価の実態に関する資料整備の観点からも、本調査の活用を推進していくことは必要である。今後、我が国においても、中央省庁における政策評価が積極的に行われていくことが予想されるが、既に同様の活動を行っている事例として、GPRA下の米国省庁の政策評価に関する基礎的情報を収集していくことが必要となっていく。さらに、本調査研究は、継続的情報収集としての価値を有している。GPRAによって、米国行政省庁は、継続的に戦略計画・年次業績計画・年次業績報告を策定していくこととなっている。これらの基本文書は、毎年更新されていくものであり、情報収集を継続し、米国の政策評価の実態として、業績の測定・目標達成の評価を把握し、経年的変化、時代の変化による政策の変化等について基礎的な情報収集を進めていくことの価値は大きい。年次業績計画が正式に策定された1999年度である本年度から、情報整備を推進していくことが重要である。

公開日・更新日

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