イギリスの在宅介護者援助策の体系と政策効果に関する研究

文献情報

文献番号
199900027A
報告書区分
総括
研究課題名
イギリスの在宅介護者援助策の体系と政策効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
三富 紀敬(静岡大学)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木隆志(静岡県立大学短期大学部)
  • 三富道子(静岡県立大学短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
1,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
イギリスにおいては、在宅介護者を介護サービスの担い手としてばかりでなく援助を要する対象としても独自に位置づけている。在宅介護者むけの援助(Caring for carers)とでも称するべきこの政策は、イギリスにだけみられるわけではなく、申請者の知る限りにおいてもアメリカ、カナダ、スウェーデン、オーストラリア及びニュージーランドなどの諸国においても同じように確かめられる。こうした動きは国民経済レベルにとどまらず経済協力開発機構(OECD)、国際労働機関(ILO)及びヨーロッパ連合(EU)などの国際機関にも同じように認められる。
在宅介護者は、イギリスの地方自治体ごとにやや異なるもののおおよそ(1)休息機会の保障、(2)情報の提供、(3)介護技術あるいはリラクゼーション技法の訓練機会の提供、(4)相談やカウンセリングサービスの提供、(5)家事代行等のサービス提供、(6)在宅介護者手当の給付などを主な柱として今日体系化されている。その法的なより所は、コミュニティケアに関する90年法などである。
ここに申請する研究は、イギリスにおける在宅介護者援助政策の背景と目的、政策形成の時期及び政策の実効性と課題を明らかにするために、イングランド、ウェールズならびにスコットランドの代表的な地方自治体社会サービス部や在宅介護者団体の地域組織などの保有する一次資料を収集・分析し、もって研究課題に迫ろうとするものである。
要介護者の援助は、家族による介護の提供なしに存立しがたい。また要介護者が、外部サービスよりも家族による介護の提供を希望するという事情もある。しかるに、家族を担い手とする在宅介護者は、少子化をはじめ同居率の減少、女性の労働力化の進展、価値観の多様化などの下でその供給源を脆弱化させつつある。他方では、在宅介護者への期待は、高齢化の急速な進展と要介護者の増加にそって大きくなる一方である。在宅介護者を独自の政策対象として拾い上げる最も大きな理由も、実はここにある。すなわち在宅介護者を援助の対象にすることによって介護の担い手を性別の違いにかかわりなく広げ、もって将来的に危惧される在宅介護者の不足を回避しようとするものである。
本研究は、もっぱら学問的な関心によるわけではない。社会的な関心にも根ざしている。すなわち、本研究が計画にそって進められるならば、在宅介護者援助政策の形成と発展に関するイギリスの経験を包括的に検討しわが国の政策上の課題についても貴重な示唆を与えることになるのではないか、とひそかに考えるものである。
研究方法
本研究は、文献(資料)研究と聞取り調査及び調査表の配布と回収をもとに課題に迫ろうとするものである。このうち文献は、一般に市販されているものの収集と検討はもとより、自治体やボランティア団体及び研究機関など一般の市販ルートには乗らないものを主とする。この点は、本研究の特徴のひとつである。
尚、調査表の配布と回収は、研究計画の最終年度に予定している。
結果と考察
研究計画の初年度におこなった作業を「結果と考察」の観点から示すならば、次のようである。
第1に、在宅介護者の承認とサービスに関する95年法の効果について自治体の資料及び関係機関の報告書をもとに検討したところ、95年法による在宅介護者支援策、とりわけ在宅介護者の休息保障の面で発展を確認することができる。これは、95年法による在宅介護者の休息権の承認及びこれを担保する独自財源の措置によるところが大きい。
95年法についてのこうした評価は、手法は異なるとはいえイギリスの専門研究者やボランティア団体による調査研究の成果とも一致する。
第2に、在宅介護者への支援について自治体レベルでの形成と展開を跡づけたところ、早いところでは70年代中葉から支援に乗り出していることが判明した。しかし、これらは、個々に確認されることであって、少なくない自治体が在宅介護者の支援に乗り出すのは、やはり80年代後半、すべての自治体が計画に沿って支援に乗り出すのは、90年代に入ってである。また、在宅介護を担う児童や少数民族の在宅介護者への支援になると、80年代後半から90年代に入ってである。
第3に、キングス・ファンド(King's Fund)がイングランドの各地で展開する在宅介護者支援(ケアラー・インパクト、計画責任者P.バンク女史)について聞き取りをおこない、ロンドンで手掛けられている支援の実際について見聞したところである。これによって在宅介護者支援の体系について、特にキングス・ファンドの実例に則して把握したところである。
最後に、在宅介護者支援の一環として相談サービス及び介護技術訓練の資料を収集し検討に入ったところである。
結論
初年度の研究成果の一部は、本研究計画の代表者である三富紀敬の単著『イギリスの在宅介護者』(ミネルヴァ書房、2000年1月、625ページ)に収められている。また、本研究計画にそって収集した文献(資料)は、「イギリスの在宅介護者関係文献一覧」と題して静岡大学『経済研究』の各号に掲載しはじめている。この文献一覧は、本研究計画の期間中続く予定である。
尚、この文献一覧に紹介の資料についての問いあわせには、三富紀敬が応じていることを申し添える。

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