看護婦の交代勤務制の改善に関する研究

文献情報

文献番号
199900011A
報告書区分
総括
研究課題名
看護婦の交代勤務制の改善に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
上畑 鉄之丞(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤良夫(中央大学文学部心理学研究室)
  • 酒井一博(労働科学研究所)
  • 前原直樹(労働科学研究所)
  • 山崎慶子(東京女子医科大学看護部)
  • 宮腰由紀子(茨城県立医療大学看護学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病棟看護の交代勤務改善の試みについて、労働生理学や労働心理学、労働社会学の立場から検討することを目的にしている。初年度の平成10年度は、看護婦の健康要因にかかわる生活ストレスやライフイベントの研究、交代勤務に従事する看護婦の勤務パタ-ンや生活時間に関する研究、さらに、夜勤時間の長さによるパフォ-マンスの違いをみるためのシミュレ-ション実験をおこなった。平成11年度には、前年度の看護婦の生活時間調査の分析を引き続きすすめるとともに、新たな研究として、長時間夜勤に仮眠を導入した場合のシミュレ-ション実験、看護病棟で実施されている3交代及び2交代勤務での8,12,16時間の各夜勤帯での疲労蓄積にかかわる生体指標の変化、及び全国の病院で実施されている交代勤務の詳細調査などの3研究をおこなった。
研究方法
1.16時間夜勤帯に仮眠を導入したシミュレーションでの生体指標の推移の検討:実験に同意を得た健康な若年女性8名を対象に、16時から始まる16時間深夜勤務をシミュレートし、仮眠をとる場合ととらない場合でその後の早朝時間帯の覚醒水準の相違を検討した。仮眠は、午前3時からの1時間、及び2時間の2条件を設定、仮眠なしの場合も含めて、1時間ごとに、体温、フリッカ-値、疲労自覚徴候、ねむけ感、反応時間などの生理心理測定をおこない、24時からは、コンピュ-タ-画面での数字視認作業を、毎時30分間負荷し、午前9時まで継続した。
2.3交代及び2交代勤務での8,12,16時間の夜勤帯での生体指標の比較検討:8時間交代と12時間交代をとる4病院の若年看護婦46名を対象に、同意を得たうえで、夜勤時における疲労とストレス状態の生理心理測定を実施した。測定項目は、1時間ごとの生活時間記録と疲労自覚症状の記入、3時間ごとの採尿、及び活動計(アクトコーダYH-I-ヤガミ)装着による身体活動量の測定である。spot尿では、17-Keto steroid Sulfates(17-KS-S、以下S)と17- Hydroxycortico steroids(17-OHC S、以下OH)を測定、動的平衡値としてのS/OH比を比較した。
3.看護病棟の交代勤務の実態調査:13都府県の全病院の総婦長及び病棟婦長を対象に、看護病棟の交代勤務の実態の質問紙調査を郵送法で実施した。質問内容は、病院名、稼働率、在院日数、年休消化率、勤務形態別看護単位数のほか、病棟婦長には、病床種類、重症度、看護必要度のほか、看護職種、人数と年齢構成、勤務形態、一回の夜勤人数、一ヶ月間の夜勤回数、日勤・準夜勤・深夜勤のローテーションの頻度など12項目を質問した。1,236病院、4,112病棟から回答(回答率31.2%)を得た。
結果と考察
16時間夜勤帯に仮眠を導入したシミュレーションでは、体温は、1時間仮眠、2時間仮眠、及び仮眠なし群の3条件とも、午前3時までは次第に低下したが、仮眠なし条件が午前6時から上昇したのに対して、1時間および2時間仮眠では、午前5時から上昇した。また、午前5時から9時までの平均体温は、2時間仮眠条件の平均体温は仮眠なし条件よりも有意に高く、午前5時から9時までの5時点での平均フリッカー値も、2時間仮眠条件では、仮眠なし条件と比較して有意に高かった。視覚的看視作業における平均応答時間は、午前2時までは3条件間に相違はなかったが、午前5時では、仮眠なし条件が最も延長し、それ以降は仮眠なし条件と1時間仮眠条件ではさらに延長、他方で、2時間仮眠条件ではむしろ短縮の傾向を示した。なお、作業における見逃し反応数は、午前5時から8時の間では、仮眠なし、1時間仮眠、2時間仮眠の順に高かった。また、1時間仮眠時の睡眠では、睡眠段階2の出現量が多かったが、睡眠段階3及び4をあわせた徐波睡眠の出現量では2時間仮眠時の睡眠の方が多かった。一方、3交代及び2交代勤務での8,12,16時間の夜勤帯での生体指標の比較では、8時間勤務での休憩の急性効果は、夜勤1日目より2日目が悪かったが、夜勤終了時点の尿中S/OHの変化率では、2日目の方が休憩効果が見られた。12時間勤務では、平均38分の仮眠をとっていた者の夜勤終了後の尿中S/OH変化率は、仮眠なしで平均62分の休憩をとっていた者に比べて高い値を示し、仮眠効果が見られた。交代勤務の実態調査に回答した病院は、平均235.2床、一病棟の平均病床数49.6床・稼働率85.6%・看護婦数18人で補助者3人・クラーク0.3人の規模であった。また、看護婦の平均週所定労働時間は39.1時間、年次有給休暇の取得率は平均58.1%、一夜勤帯の勤務者数は2-4人で、1ヶ月の夜勤回数は病棟で4-6回であった。勤務形態は、8時間三交代制が52.3%と最も多く、ついで8時間・16時間の二交代制が34.2%でであった。交代制勤務の組み方では、毎日異なった勤務帯で働く場合が71.9%を占めた。また、勤務帯の交代方向は、時計方向が5.8%、逆時計方向が28.6%、両者の混在が28.9%であった。これまでの2年間の本研究の結果からは、シミュレ-ション実験や病棟での現場調査のいづれも、12時間、もしくは16時間の夜勤をともなう2交代勤務では、なんらかの仮眠制度を導入することが、夜勤明けに持ち越す疲労蓄積の防止や早朝での作業ミスを防ぐうえから必要なことが明らかになった。
結論
2交代勤務などにみられる病棟での長時間夜勤には、2時間程度の仮眠制度を導入することが、疲労蓄積やパフォ-マンスの低下を夫是具うえで有効なことが明らかになった。今後は、仮眠制度を導入した「改善型夜勤」での看護婦の負荷状態や疲労・パフォ-マンスの回復過程の観察をおこなうとともに、未就学児をもつ看護婦や40台以降の高年看護婦への影響、さらに夜勤人数の増員を加味した場合の社会経済的インパクトなどを検討する。

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