高齢者を対象とした医療・福祉・行政を連携する情報システムの評価研究

文献情報

文献番号
199900008A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者を対象とした医療・福祉・行政を連携する情報システムの評価研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 泰(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 片町伊十(片町医院)
  • 長瀬淑子(東大病院中央医療情報部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遠隔医療は1970年代から研究され25年の歴史を持っているが、それは主として病理や放射線等の分野で病院間の画像伝送を主とした遠隔医療支援システムを中心として開発されてきた。しかし、この数年は在宅医療支援システムへの関心が高まりつつあり研究が進んできている。しかし、TV電話を活用した在宅医療システムの事例などが中心となっている単体のシステムの実験が多く、福祉および行政が連携した本格的在宅医療システムは例をみない。本研究は実際に稼動開始した医療と福祉を連携するシステムを取り上げて、その住民や医療関係者、行政などに与える影響を評価することを目的にしている。
研究方法
この研究の対象に選定した長野県下伊那郡南信濃村は長野県の南部、愛知県と静岡県との県境にある赤石山脈の麓に位置し、平成11年10月現在人口2、424人、その内高齢化率が40.4%に達している。高齢化率は30年あまりの間に5倍近くにまで増加しており、現在、総世帯数960世帯でそのうち高齢者が居る世帯は69、8%の670世帯にのぼっている。その中でも一人暮らしの老人世帯は15、5%の149世帯、二人暮らしの老人世帯は20.2%の194世帯で、1年前の調査と比べても急速に高齢化が進んでいる。
また、在宅の寝たきり老人の数は34名であり、高齢化の進展とともにその数は増加傾向にあるが、施設介護の整備が追いつかない状況にあり在宅での介護を余儀なくされている。一方、介護する家族も高齢化してきており、ヘルパーや看護婦などの確保も難しく、医師の高齢化の問題など厳しい状況にある。このような状況の中、平成10年3月から既存のCATV回線を利用した在宅医療システの導入が実施されている。
本研究は、実際に稼動している医療と福祉を連携する情報システムを取り上げて、その住民や医療関係者、行政などに与える影響を評価することを目的としているが、かかる研究は、システムが稼動を開始した時点を選んで行う事が必要である。この南信濃村のシステムはまさにこの研究に最適で、この時期を除いては行う事ができない。
評価方法としては、このシステムが稼動を始める前のデータと稼動後のデータの両方を収集し比較する方法を取った。特に稼動後のデータについては1年分のデータだけでは変化をみることが不可能な場合があるので、継続的に複数年のデータの入手が必要である。
この考えの下、 第2年目の平成11年度は下記のデータの収集を行った。1年目の10年度は医療側、行政側、患者側からの3者の聞き取り調査を行ったので本年は主に老人医療費の顕著な削減の根拠を調査するため、老人医療のレセプトを過去3年間の同時期を比較するた下記の資料の収集をおこなった。
1) 成8年から10年までの3年間の同月(2月、8月)の長野県老人医療費の統計
2) 平成11年年齢構造の資料
3) 南信濃村の地図
4) うらら、あんしんねっとの使用者名簿
5) レセプト(H8~10年度の2月、8月の老人医療費)
結果と考察
10年度の情報収集の方法は資料の提供と聞き取り調査の両面から実施し、その結果から5項目の評価モデルを作成した。本年はそれに経済評価を加えるべく3年分の老人医療費のレセプトを収集し、それぞれの評価をおこなった。
医療側からの評価
医療=診療所の現場からみれば、
往診の回数が減少したという印象を医師はもっていたが、これをレセプトから実証することはできなかった。診療上からも患者の変化の把握が容易である、という評価がある反面システムへの信頼性や操作上の不安や測定値への不信感もぬぐえない、等の不満も見られる。
行政としての評価
医療費の変化が最も興味のある点であるが、短期間では得難いデータのため同じ月の診療費で比較する。
行政の立場から
医療費削減、マンパワーの不足の解消、患者の満足度等の面から評価をこころみた。老人医療費は1/4にものぼる削減をみているがこのシステムとの関連性を証明するのは稼動して時間が経過していないことから困難であった。医療面だけではなく、災害時の安否の問い合わせなど別の利用で役立つことが判明したが、専任の担当者がいないので運用上のサービスの向上がはかられないことやシステム拡張が図れないことなど問題点もあげられている。
福祉としての評価
1) 福祉の現場から
介護支援センターとヘルパー等への聞き取り調査を行った結果から、月に一回送信されるデータを持って患者宅を訪問でき、患者の信頼度が増す、あるいは月間レポート作成作業が効率よく進むという評価がある一方、使用方法の指導を受けていない、あるいは回数が不十分で利用できない、あるいは、機械をつかうことに抵抗があり、まったく利用していないというヘルパーもあり、今後の教育の必要性を認識した。
2)介護を受ける現場から
ヘルパーなどと同様に、よく利用している人としていない人では意見が大きく異なる。利用している人からの評価としては、血圧などを測定したいとき計れ、異常に気が付いて病院へ行ったり、決められた時間に測定している内時間の管理ができるようになったという評価があった。
また利用していない側の評価は、装置が大きすぎる、操作ミスでデータが消去してそれ以来使用していない。ヘルパーの説明不足で有用さを認識しなかった、使用しなれないものは億劫などの意見が多かった
経済的評価
結論
新しい技術である情報技術が在宅医療に導入され、それが医療の中に定着するまでを稼動直後のシステムで評価できたのは有用であった。 医療=診療所の現場、福祉の現場、行政の現場、介護を受ける現場などから様々に評価をしたが、操作に不慣れな傾向のある介護者や福祉の現場の人からも、思ったより肯定的な意見が聞かれたのは、こういったシステムを活用することが、介護の有効化や医療費の有効化を図る手段ということが認識用されつつある表われのように考えられる。有効に活用するための問題点が明らかになってきた今、医療を供給する側とされる側がみならず業界側も一体となって、実験に終わらない定着したものにすることが、かかるシステムがこれからの超高齢化社会の一助となるとかんがえられる。

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