社会保障政策が企業行動とアジアの人口・労働問題に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
199900004A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障政策が企業行動とアジアの人口・労働問題に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中兼 和津次(東京大学大学院経済学研究科・経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 増淵勝彦(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、わが国の少子・高齢化に伴う社会保障政策の動向が企業負担、ひいては企業の対外直接投資行動にどのような影響を及ぼすのかについて、投資対象国として中国を事例にとって分析を行う。これによって、わが国企業の活力を維持しつつアジア諸国の人口・労働問題の解決にも寄与することのできる社会保障政策のあり方を探ることを目的とする。
研究方法
本研究は、次のような方法で進められた。これらのうち、平成11年度に実施された項目は、(4)の日系合弁企業へのアンケート調査および(5)である。
(1) 高齢化に伴う社会保障負担の増加が企業の福利厚生費や人件費に及ぼす影響について、時系列データを用いた実態把握を行うとともに、先行研究の文献サーベイを行った。
(2) わが国企業にとっての重要な海外進出先となっている中国経済の市場経済化の動向と人口・労働問題について文献サーベイを行った。また、中国企業の福利厚生制度や社会保障制度の改革に関する研究を行っている国内および中国の研究者による講演会を開催し、あわせて彼等よりヒアリング調査を実施した。
(3) 上記目的のために、中国社会科学院経済研究所および中国労働・社会保障部労働科学研究所に所属する研究者で、本研究のテーマに則した研究を行っている研究者のわが国への招聘を行った。
(4) わが国企業の海外進出先における人口・労働問題の実態を把握し、これに望ましい影響を与える形での企業進出を促進するような社会保障政策のあり方を検討するため、日中合弁企業と、これと競合する中国国有企業に対するアンケート調査を企画・実施した。これらの調査は、企業データを日系合弁企業と中国国有企業とで比較可能な形で作成することを念頭に、四川省・江蘇省において事業展開している100社の中国国有企業(平成10年度実施)、および中国全国の162社の日系合弁企業(平成11年度実施)を対象に行われた。
(5) 本研究の目的である社会保障政策と企業行動の関係をより深く分析するため、現地調査を担当した研究機関、地方政府の社会保障担当部局、調査の対象となった中国国有企業などを直接訪問し、補足的な調査やヒアリングを実施した。
結果と考察
平成10年度の実施分を含め、以上の研究の結果を要約してみると、次のようにまとめられる。
各種の調査から明らかにされている企業の対中進出動機は、一つには安い労働力であり、典型的には委託・加工貿易がそうした投資形態である。もう一つの対中直接投資の動因は、その現在、および将来における巨大な市場性である。その他に、直接投資が参入する有力な原因として途上国による輸入規制などの貿易障壁の存在があるが、中国の場合、相対的にこの種の要因は弱い。また税制面など各種の優遇措置も、特に中国に限らない。やはり、先に挙げた2つが対中直接投資を説明する最も有力な要因と言ってよく、それ以外の要因は比較的弱いものと思われる。
それでは中国の社会保障制度は海外からの直接投資にどのように関係しているだろうか。一つの考え方として、中国における社会保障負担が企業にとって比較的小さければ海外の資本は中国に投資しやすいということがある。したがって、社会保障負担が小さければ小さいほど直接投資が増えるかも知れない。しかし、そのことが外資にとってどれだけ積極的進出要因になっているのかは簡単には論じられず、この面での実態調査が待たれる。他方、もう少し長期的に見ると、社会保障が外資企業の経営にとって持つ意味は、単なる短期的利害勘定ではなく、むしろ企業が安心して経営できるような社会的、あるいは政治的環境がそれにより用意されることである。それゆえ、長期的に見れば、企業が社会保障費を負担することは一種の公共財を提供することに等しい。内外の社会保障負担が企業行動に及ぼす影響には、このように多様なものが考えられる。
結論
社会保障負担が企業の海外への直接投資にどのような影響を及ぼすかについては、中国を事例とした本研究においても確定的なことはいえない。この点がどの程度、直接投資の決定要因になっているかは、少なくとも、短期的には直接的な企業負担の側面、長期的には安定した企業活動を保証する社会経済的環境という公共財の側面など、多面的な分析が必要であろう。また、直接投資の決定要因としては、社会保障負担のみに限定して分析するのは無理があり、投資国の市場としての将来性、法人税等を含めた総合的な企業負担などを合わせて分析する必要がある。その中で、社会保障負担の相対的な重要性も把握することができ、更には企業行動を視野にいれた社会保障制度の制度設計も可能になってくるものと考えられる。

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