高齢者の医療・介護に関する日英比較研究

文献情報

文献番号
199900003A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の医療・介護に関する日英比較研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
府川 哲夫(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本とイギリスの医療システムの大きな相違点としてプライマリー・ケアが挙げられるが両国はともに医療費の対GDP比が主要国の中で最も低いグループに属している。1)その制度的要因、 2)それが医療サービスの効率性や質に与えている影響、3)国民の医療制度に対する評価、4)高齢者の介護サービスに対する政策的アプローチ、に関して日英共同で比較研究を行う。急速に高齢化が進展している中で高齢者介護のあり方や医療との関連について国民の関心が高まっているが、どのような政策的 option があるかを考える上で他の先進国との共同研究を行うことは大変有意義である。特にイギリスのプライマリー・ケアが医療全体の効率性に与えている影響や低医療費が医療サービスの質に与えている影響については、日本にとってもきわめて重要な情報であると考えられる。
研究方法
平成10年度に抽出された高齢者の介護サービスに関する重点課題について共同研究を実施した。高齢者の医療・介護に関して日英両国の共通点、相違点を総括した上で、両国のこれまでの経験からお互いにどんなことが学べ、どのような政策の option があるか、その評価を含めて考察し、研究報告書を作成した。
結果と考察
NHSはイギリス国民に広く支持されている制度であり、医療費の対GDP比も他の先進国より低く済んでいる。医療サービスは必要に応じて提供されるべきだという考え方が国民の中に定着している。NHSの特徴は税財源・患者負担ゼロ・公正な財源配分であったが、1990年代の改革で「供給側に市場原理導入」という4番目の特徴が加わった。1997年5月の労働党政権成立後、GPファンド・ホールダー制及び包括購入制の廃止が決められたが、プライマリー・ケア集団(PCG)の形成を通じて「プライマリー・ケア重視のNHS」政策は維持されることになった。国民の医療サービスに対する要求が強いため、最近ではイギリス政府は医療費の対GDP比をヨーロッパ大陸諸国に近づける政策をとっている。
日英両国の高齢者介護に関する政策(特に在宅サービス)の展開をみると、類似点も多く興味深い。 イギリスでは医療と社会サービスの財源には長い間相違があった。NHSの導入以降、実際上全ての医療サービスは利用者に無料で提供されてきた。一方で社会サービスには利用者負担が課せられている。医療と社会サービスのこのような区別が、両者の境界領域に位置する介護サービスの場合に大きくクローズアップされている。介護に関するRoyal CommissionのMajority Reportでは介護サービスをNHSと同じような方式で提供することが最も効率的であるという結論に達し、介護のための公費をGDPの0.3%分増額することを提案している。ただし、食費と宿泊費相当分は介護コストとはみなさず、全額利用者負担にすべきだとした。現在のところ政府はRoyal Commissionの勧告に対して見解を表明するより議論を喚起している。政府は公共支出の増加をコントロールすることを重視しており、Royal Commissionの勧告を実施した場合の費用負担に懸念を持っている。
結論
医療サービスに対する考え方は日本とイギリスで大差がないように思われる。ミクロ・レベルの効率性については両国ともなお研究の余地がある。日本では高齢化の圧力が強いため、高齢者医療費の膨脹を抑えることが期待されている介護保険が比較的速やかに導入されたが、イギリスでは高齢化の問題はほとんど意識されておらず(高齢化はきわめてゆるやかで、大した問題になっていない)、Royal Commissionの勧告を急いで実施しなければならない緊急性もないと受けとめられる。

公開日・更新日

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