炎症性腸疾患に対する白血球除去・吸着療法の効果に関する多施設共同研究

文献情報

文献番号
199800902A
報告書区分
総括
研究課題名
炎症性腸疾患に対する白血球除去・吸着療法の効果に関する多施設共同研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
下山 孝(兵庫医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場忠雄(滋賀医科大学)
  • 棟方昭博(弘前大学医学部)
  • 日比紀文(慶応義塾大学医学部)
  • 名川弘一(東京大学医学部)
  • 樋渡信夫(東北大学医学部)
  • 朝倉均(新潟大学医学部)
  • 里見匡迪(兵庫医科大学)
  • 西上隆之(兵庫医科大学)
  • 藤原研司(埼玉医科大学)
  • 金城福則(琉球大学医学部)
  • 牧山和也(長崎大学医学部)
  • 櫻井俊弘(福岡大学筑紫病院)
  • 松本誉之(大阪市立大学医学部)
  • 飯塚文瑛(東京女子医科大学)
  • 戸澤辰雄(兵庫医科大学)
  • 福田能啓(兵庫医科大学)
  • 澤田康史(兵庫医科大学)
  • 福島恒男(横浜市立市民病院)
  • 高添正和(社会保険中央総合病院)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、若年者に多く発症して再燃・緩解を繰り返す原因不明の消化管の難治性炎症である潰瘍性大腸炎(以下UC)とクローン病(以下CD)に対して、“白血球除去・吸着療法"を新しい治療として確立することにある。平成10年4月に終了したステロイド療法と白血球除去・吸着療法(以下LCAP)の無作為割り付け多施設共同比較試験で、LCAPはステロイド剤を主とする薬剤療法に比し、有効性が極めて高く、副作用が少ないことが証明された。 
今回、UCに対するLCAPの有効性・安全性・有用性をより客観的に評価するため、シャムカラム (以下Sham) を用いた多施設共同二重盲検法を行う。
研究方法
まず、多施設における客観的な有効性・安全性・有用性の評価のための体外循環二重盲検用のプロトコールを作成する。 1. 研究組織:13大学病院と2総合病院の計15施設で本多施設二重盲検試験を行う。 2. 研究設備:上記のほとんどの施設は、これまで厚生省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班のプロジェクト研究に参加して治療研究を行っているので、新規設備設置の必要はない。 3. 研究対象:対象患者は、活動期の重症のUC患者と、1日6行以上の血性下痢を有する中等症UC患者と血性下痢を有する狭窄の軽い大腸型もしくは小腸・大腸型CD患者を対象とした。 4. 治療方法: UCに対しては、多施設においてシャムカラムを用いた下Sham二重盲検法による白血球除去・吸着療法により客観的な有効性・安全性・有用性を評価する。重症例には週代週目のみ週に2回の治療を後週1回の治療を4週間続け、1日6行以上の血性下痢を有する中等症には週1回の治療を5週間行う。改善があればさらに2週に1回の治療を2回続け治療の評価を行う。研究に先立ち、すべての施設ごとの治験委員会あるいは倫理委員会よりの承諾を確認した後、治療研究を開始する。また、患者からの同意を得てから研究治療に登録する。初発重症患者またはステロイド投与のない再発重症患者の場合で、ステロイド投与が全くないままでShamに割り付けられるのは非人道的との考えがあり、通常使用量の2/3以上のステロイドを使用し、Shamまたは真の白血球除去療法を追加併用しその効果を評価することで倫理的な配慮をした。一方、CDはUCよりさらに希少な疾患なので、二重盲検でない多施設共同でのLCAPの効果を検討するプロトコールを作成し検討することとした。
結果と考察
本年度の研究実施経過は、1月21日重点研究事業第2回総会において多施設における客観的な有効性・安全性・有用性の評価のための体外循環二重盲検用のプロトコール、体外循環治療中の記録用紙、有害事象報告書、諸検査結果記録用紙、患者症状記録日誌、患者説明用文章と同意書について長時間に亘り、逐条的に討論して完成した。
討論の過程で、とくに留意した点は以下の如くである。
1. 割り付け責任者は、本研究の治療に一切触れないことを前提に、主任研究者自身が当たることにした(厚生省エイズ疾病対策課に確認し承諾を得ている)。
2. 主任研究者がカラムにナンバーリングを行い、主任研究者のみが真のカラムかシャムカラムかが判るようにした。
3. 平成10年4月に終了した前回の無作為割り付け多施設共同比較試験に登録された症例など、過去にこの治療法を経験した症例は本研究から除外した。
4. より客観性を持たせるためにシャムコントロールを設けた。
5. 二重盲検による体外循環治療研究を徹底して行うよう配慮した。すなわち、主治医とは別に治療責任医師を設け、治療の情報(真のカラムかシャムカラムか)が、効果を判定する主治医に判らないように細心の注意を払った。万一、主治医にカラムの情報が漏れた症例は脱落例として取り扱うこととした。
6. 対象患者のほとんどは、ステロイド剤を含めた薬物療法に反応し難い重症・難治例であり、すでにステロイド剤を含めた薬物治療が行われている例が含まれる。しかし、初発重症患者またはステロイド剤投与を中止したのち発症した再発重症患者の場合は、ステロイド剤投与がないままでShamコントロール群に割り付けられるのは非人道的と考えられた。倫理的に配慮して、通常使用量の2/3以上のステロイド剤を使用した上に、Shamまたは真の白血球除去療法を追加併用してその効果を評価することにした。
7. 対象患者の人権を擁護するため、本治療の患者への説明文は厚生省のGCPにのっとり、簡単な文章でわかりやすく、かつできるだけ詳しく説明することにした。また、過去の無作為割り付け多施設共同比較試験(平成10年4月終了)の結果から、本治療で期待できる有効性と起こりうる副作用を充分に説明するものにした。研究対象患者に対する不利益、危険性が排除されることも説明してある。
8. 事前に送付してあるプロトコール(案)により、一部の施設の治験委員会あるいは倫理委員会で本治療研究の内諾を得たが、最終のプロトコール送付後、すべての施設ごとに、治験委員会あるいは倫理委員会の承諾を確認する。その後、本研究の承諾を得た施設から順に本治療研究を開始して頂くことにした。
9. 旭メディカル社に依頼して、本多施設研究に必要なシャムコントロール用カラムと白血球除去器(セルソーバ)をそれぞれ計100本ずつ発注した。1999年4月現在、いつでも臨床研究が開始できるよう準備した。
結論
本治療のプロトコールは、厚生省が掲げるGCPに則り作成したものであり、人道的・倫理的な配慮も行えた。また、本治療の有効性が客観的に示されれば、以下の患者・社会に対し有益であることが予測される。・ 本治療によって重症・難治性UC患者の生命の危機からの回避が可能になった。 すなわち、ステロイド強力静注療法によっても容易に改善しない重症例の危機的状況を改善させ、手術に移行できるほど全身状態を改善させることができる。・ QOLの改善も劇的効果の1つである。すなわち、ステロイドの使用量を減少させることによってステロイドの副作用を軽減し、炎症症状が早期に改善するために、旅行・結婚・妊娠・出産等の患者のQOL向上が期待できる。・ 家族・社会の受益も少なくない。すなわち、早期の症状改善が、患者の早期社会復帰につながり、患者家族は明るくなる。また、患者のステロイドの副作用が減少するので、早期社会復帰は医療費の軽減にもつながる。

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