加齢黄斑変性症に対する低用量放射線治療、光凝固療法の効果に関する多施設共同研究

文献情報

文献番号
199800901A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢黄斑変性症に対する低用量放射線治療、光凝固療法の効果に関する多施設共同研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 信(東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小椋祐一郎(名古屋市立大学眼科)
  • 高橋政代(京都大学眼科)
  • 中沢満(弘前大学眼科)
  • 金井淳(順天堂大学眼科)
  • 石橋達朗(九州大学眼科)
  • 阿部俊明(東北大学眼科)
  • 市邊義章(北里大学眼科)
  • 湯沢美都子(日本大学眼科)
  • 大黒浩(札幌医科大学眼科)
  • 高橋寛二(関西医大眼科)
  • 湯沢美都子(日本大学眼科)
  • 竹田宗泰(市立札幌病院眼科)
  • 張野正誉(淀川キリスト教病院眼科)
  • 高橋寛二(関西医大眼科)
  • 小口芳久(慶応大学眼科)
  • 市邊義章(北里大学眼科)
  • 阿部俊明(東北大学眼科)
  • 石橋達朗(九州大学眼科)
  • 中沢満(弘前大学眼科)
  • 小椋祐一郎(名古屋市立大学眼科)
  • 吉村長久(信州大学眼科)
  • 金井淳(順天堂大学眼科)
  • 湯沢美都子(日大駿河台病院)
  • 辻一郎(東北大学公衆衛生学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢黄斑変性は近年我が国において急増傾向にありその治療対策が望まれている。現在までに行われてきた治療法に確立されたものはない。近年新たにその有効性が期待されているものとして低線量放射線治療と初期病変に対するレーザー光凝固があるが、人種間による差もあり、その効果については賛否両論あり評価はいまだ定まったものではない。したがって、両者が治療法として適しているか否かその有効性と安全性を確認するために、無作為割り付け比較対照試験(RCT)を全国他施設共同研究で開始する。
研究方法
放射線治療について
加齢黄斑変性患者100例を、中央割り付け方式(東北大公衆衛生、辻助教授)による前向き完全無作為割り付けを用いて治療群と経過観察群に分け、治療群については1回2Gyの放射線照射を10回、計20Gyの放射線治療を眼球後極部に対して行う。
・軟性ドルーゼンに対するレーザー光凝固治療について
軟性ドルーゼンを持つ患者を1) 片眼に加齢黄斑変性を持つ者と、2) 両眼性軟性ドルーゼン分け、1)について治療群と経過観察群それぞれ50例ずつを放射線治療を同様、中央割り付け方式による前向き完全無作為割り付けによって決定する。2)については50例について片眼を治療し別の片眼を対照眼とする。
・倫理面への配慮
患者ならびに関連者(親族など)に口頭および文書で、本治療の目的、方法、予想される利益と治療がもたらすかもしれない危険性、他の治療法の有無と内容、放置した場合の視力の自然経過を十分に説明する。また対象患者のプライバシーは厳重に守り、同意をしなくても不利益は受けないことや、たとえ同意してもいつでも撤回できることを説明する。さらに本治験途中で治療群の方が明らかに経過がよいと判断された場合はその時点で治験を終了し経過観察群の症例を全例治療するものとする。
・RCTによる治療群と対照群との統計的検討
RCTの質(根拠のレベル)を保証する条件として、治療群と対照群の同等性があり、研究対象者の諸要因に関して、治療群と対照群との間で差が見られないことが望ましく、今回の検討には必須である。性、年齢、対象眼側(左右)、視力、新生血管の大きさについてχ2-test(性と対象眼)とstudent t-test(その他)を施行した。
結果と考察
結果(中間報告)と考察
・低線量放射線の加齢黄斑変性への治療の検討
低線量放射線の加齢黄斑変性への治療の検討でこれまでのところエントリーが37症例あり、うち登録が可能であったものが33症例であった。治療眼と対照眼はそれぞれ17眼と16眼であった。男性21症例、女性12症例。術前視力は0.1より0.9、平均0.27±0.20で、新生血管は大きさが0.2より1乳頭経で平均0.60±0.27であり、全員ともに今回設定した基準にあてはまる結果であった。
治療群17症例のうち男性は9名(53%)、対照群16名のうち男性12名(75%)であった。対照群で男性が多い傾向があったが、その差は有意ではなかった(χ2=1.73)。対象眼が右眼であった症例は治療群で12名(71%)、対照群で8名(50%)であり、有意な差はなかった(χ2=1.46)。年齢の平均(標準偏差)は、治療群で68.6(6.87)歳、対照群で73.4(7.50)歳であり、対照群に高齢者が多い傾向があった。しかし、その差は有意ではなかった(t=1.89;p=0.068)。視力の平均(標準偏差)は、治療群0.29(0.19)、対照群0.25(0.20)歳であり、有意な差はなかった(t=-0.59;p=0.562)。新生血管の大きさの平均(標準偏差)は、治療群で0.513 (0.283)、対照群で0.688 (0.225) 歳であり、対照群のほうが大きい傾向があったが、有意ではなかった(t=1.94; p=0.062)。
また、治験開始後3ヶ月を経過した症例が両群あわせて11症例(治療群6症例、経過観察群5症例)あるため現時点での結果を検討すると治療群では改善、不変、悪化がそれぞれ3、2、1症例であったのに対して、経過観察群ではそれぞれ1、1、3症例であった。
・加齢黄斑変性の対側眼の軟性ドルーゼンに対する光凝固の検討
光凝固の加齢黄斑変性への治療の検討で加齢黄斑変性の対側眼の軟性ドルーゼンに対する光凝固の検討に対して19症例のエントリーがあり、うち登録可能が17症例であった。全例軟性ドルーゼンのみで新生血管は認められなかった。
・両眼性軟性ドルーゼンに対する光凝固の検討
光凝固の検討をするもう一方の群、両眼性軟性ドルーゼンの検討に対して症例のエントリーは7症例あり全員登録可能であった。
加齢黄斑変性は高齢者における失明原因として欧米では第1位をしめる疾患であり、近年我が国においても急増傾向にある。本疾患の発症機序は不明であるものの中心視力にとって重要な黄斑部網膜下に脈絡膜より新生血管膜が形成され、中心視力が極端に低下する。本疾患に対して現在行われている治療法としてはレーザー光凝固療法、手術療法、放射線照射などがあるが、いずれも適応が限られていたり効果に関しては不明な点が多い。そこで本研究では最近新たに治療法として有効性が期待されている放射線治療と加齢黄斑変性の初期病変である軟性ドルーゼンに対するレーザー光凝固の両者について前向き完全無作為割り付け法による臨床治験を行いその有効性について検討する。ともに欧米では臨床報告があり、日本でも一部の施設で報告がなされているが、本疾患は人種差も報告されており、また症例の選出方法などにもも問題があり、症例は増加傾向にあるにもかかわらず有効な治療法がない現在その効果は日本人において是非ともはっきりなければならない。
現在まで比較的症例のエントリーが多い、低線量放射線について治療群、対照群との間で症例間に統計学的な有意差は見られなかったが、年齢や新生血管の大きさに関しては、p値が有意水準(p<0.05)に近いため、症例の登録がふえるにつれて有意な差となるかもしれない。今後も割付の状況について検討を続けることが望ましいと思われた。また、まだ議論できる数字ではないものの症例の振り分けは完全無作為であり両群に症例の偏りがない以上、経過観察群に悪化傾向が多いことは加齢黄斑変性の自然経過より考えても興味深い。
実際に本研究がスタートしたのが平成11年になってからの症例の集積であるが、100症例の2年間の経過観察を目標としているため各群ともまだ症例数は不十分で、なおかつエントリーが遅いと思われる。今後も研究班会議を継続して開催し症例の集積につとめることが急務と思われた。
結論
 加齢黄斑変性に対する低線量放射線治療と初期病変に対するレーザー光凝固の無作為割り付け比較対照試験(RCT)を全国他施設共同研究で開始した。これまでのところ低線量放射線の登録は33症例、光凝固は対側眼の軟性ドルーゼンに17症例、両眼性軟性ドルーゼンに7症例登録された。今のところ放射線治療群で経過観察群に悪化傾向があったが、統計学的に有意差はない。両治療群ともまだ症例数と経過観察期間は不十分で今後も症例集積に努めることが急務と思われた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)