文献情報
文献番号
199800899A
報告書区分
総括
研究課題名
SLEにおける難治性病態の早期診断と治療
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小池 隆夫(北海道大学医学部内科学第二講座)
研究分担者(所属機関)
- 江口勝美(長崎大学医学部内科学第一講座)
- 住田孝之(筑波大学臨床医学系内科)
- 小池竜司(東京医科歯科大学医学部内科学第一講座)
- 土肥眞(東京大学医学部アレルギーリウマチ科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
一般的なSLE患者の生命予後は本症の早期発見が可能となり、また治療法の大幅な進歩により著しく改善してきた。しかし、抗リン脂質抗体症候群、間質性肺炎、難治性ループス腎炎のような難治性の病態も存在し、患者のOQLや生命予後を著しく阻害している。
抗リン脂質抗体症候群はSLEに最も多く併発し、特に脳梗塞に代表される動脈系の血栓症が約半数の患者に認められる。またSLEの流産の最大の原因ともなっている。間質性肺炎はSLE患者において肺高血圧や肺胞出血と同様に、患者の生命予後を左右する重大な肺合併症である。またループス腎炎の中にはあらゆる治療に抵抗し腎不全に進行する、極めて難治な一群が存在する。
本研究の目的は、多彩なSLEの病態の中から上記の抗リン脂質抗体に起因する病態(動・静脈血栓症、習慣流産、血小板減少及びCNSループスの一部)、間質性肺炎及び難治性ループス腎炎の3つの病態に焦点を絞り、それらの病因、早期診断さらには新たな治療法を開発し、患者のOQLや生命予後の改善を計るものである。
抗リン脂質抗体症候群はSLEに最も多く併発し、特に脳梗塞に代表される動脈系の血栓症が約半数の患者に認められる。またSLEの流産の最大の原因ともなっている。間質性肺炎はSLE患者において肺高血圧や肺胞出血と同様に、患者の生命予後を左右する重大な肺合併症である。またループス腎炎の中にはあらゆる治療に抵抗し腎不全に進行する、極めて難治な一群が存在する。
本研究の目的は、多彩なSLEの病態の中から上記の抗リン脂質抗体に起因する病態(動・静脈血栓症、習慣流産、血小板減少及びCNSループスの一部)、間質性肺炎及び難治性ループス腎炎の3つの病態に焦点を絞り、それらの病因、早期診断さらには新たな治療法を開発し、患者のOQLや生命予後の改善を計るものである。
研究方法
1)抗リン脂質抗体症候群:①抗カルジオリピン抗体(aCL)の対応抗原であるβ2-グリコプロテインⅠ(β2-glycoprotein Ⅰ,β2-GPI)の立体構造モデルを構築し、phage random peptide library,モノクローナル抗カルジオリピン抗体を用いて、aCLの認識するエピトープの構造を解析した。②血管内皮細胞にモノクローナルaCLを反応させ、培養上清中のエンドリセン-1(ET-1)濃度とプレプロET-1のmRNAレベルを定量した。③クロモジェニックアッセイを用いてaCLのプロテインCに及ぼす作用とβ2-GPIの関係を検討した。④β2-GPIに対するプラスミンの作用を検討した。⑤IgAクラスの抗β2-GPI抗体の臨床的意義を検討した。⑥aCL測定の標準となるモノクローナルaCLを分子生物学的手法を用いて作製した。⑦抗プロトロンビン抗体の対応抗原の分子構造を解析した。⑧動物モデルを用いた抗リン脂質抗体症候群の治療法の開発を試みた。
2)間質性肺炎=ヒト培養肺胞上皮細胞及びマウスとインターフロンーγ(IFN-γ)を用いて、肝細胞増殖因子(HGF)のレセプターである、cーMetの発現をin vitro 及びin vivoで検討した。
3)難治性ループス腎炎=①エストロゲンにより誘導される自己抗原(GORヒトホモログ)の解析を中心に、この自己抗原に対する自己抗体の存在を検討した。②ループス腎炎患者とモデル動物を用いて腎臓のNMRを撮影し、早期腎炎の特徴の解明を試みた。
2)間質性肺炎=ヒト培養肺胞上皮細胞及びマウスとインターフロンーγ(IFN-γ)を用いて、肝細胞増殖因子(HGF)のレセプターである、cーMetの発現をin vitro 及びin vivoで検討した。
3)難治性ループス腎炎=①エストロゲンにより誘導される自己抗原(GORヒトホモログ)の解析を中心に、この自己抗原に対する自己抗体の存在を検討した。②ループス腎炎患者とモデル動物を用いて腎臓のNMRを撮影し、早期腎炎の特徴の解明を試みた。
結果と考察
1)抗リン脂質抗体症候群(APS):①APS患者由来の抗カルジオリピン抗体(aCL)は血中のアポ蛋白であるβ2-グリコプロテインⅠ(β2-glycoprotein Ⅰ,β2-GPI)を認識するが、そのエピトープをphage random peptide library,ヒトモノクローナルのaCL及びβ2-GPIの三次元立体構造モデルを用いて、aCLの認識するペプチドとそのβ2-GPI上の抗原決定基の位置を明らかにした。②APSと他の血栓傾向疾患との最大の相違点は、APSでは静脈血栓のみならず動脈血栓を発症することであるが、その機序については、全く分かっていなかった。APSの静脈血栓患者では全例血漿のエンドリセン-1(ET-1)のレベルは正常であったが、動脈血栓患者では約半数が高値であることが判明した。③β2-GPIがリン脂質の存在下でプロテインCが間接的に抗β2-GPI抗体の標的になる可能性を示した。すなわち、抗β2-GPI抗体はβ2-GPIの作用を中和するのではなく、他の機能分子に結合したβ2-GPIを標的にしてしまうため、その機能分子の障害が起こり、APSの病態生理の一部を形成すると考えられた。④β2-GPIはプロテインC活性を抑制することが知られているが、抗β2-GPI抗体(aCL)が存在するときには、β2-GPIのこの作用が増強することが明らかになった。⑤β2-GPIはプラスミンによりその第5ドメインのK317とT318との間が切断される(nicked β2-GPI)。このnicked β2-GPIはリン脂質に結合せず、APS患者由来のaCL(抗β2-GPI抗体)も反応しなくなった。このプラスミンによるβ2-GPIの切断は、APSの血栓形成の際の生体防御機転(ネガティブフィードバック)である可能性が考えられた。⑥APSの病因として抗プロトロンビン抗体(aPT)の重要性を明らかにし、aPTの測定法を確立し、またそれを用いて、aPTの認識するエピトープがプロトロンビンのfragment-1とprethrombin-1に存在することを明らかにした。⑦IgAクラスの抗β2-GPI抗体がSLE患者血清中に一定の頻度で出現し、本抗体の出現と血栓形成との関連が示唆された。⑧血小板減少症とaCL及びループスアンチコアグラント(LA)との関係をSLE146人で検討した結果、LAとaCL両者の陽性者は、それぞれの単独陽性患者より、血小板減少症及び動脈血栓症の頻度が高いことが明かとなった。⑨モデルマウスの由来のβ2-GPI依存症aCLの可変部とヒトIgGの定常部からなるキメラ型ヒトIgGaCLモノクローナル抗体を作成し、標準血清としての有用性を確認した。⑩β2-GPIに対する経口寛容の誘導によりAPSのモデル動物の病態の制御が可能であることを示した。⑪ニューキロノン系抗菌剤であるシプロフロキサシンがAPSモデルマウスにおける子宮内胎児死亡及び血栓症を減少させることを示した。この作用はIL-3およびGM-CSFの産生を介していると考えられた。
APS患者に高率に認められるaCLは血中のアポ蛋白であるβ2-GPIのcryptic なepitope を認識する。本研究において、aCLの認識するepitopeがpeptideレベルで明かにされたが、今後はこのpeptideをもとに、個々のAPS患者における病的 epitope の同定と、それを用いてのB細胞寛容の誘導を試みる。β2-GPIの第5ドメインがプラスミンにより切断され、その事によってaCLの抗原性が消失する(β2-GPIの 酸性リン脂質への結合能が消失することによる)という成績は、プラスミンによる限定分解が、生体自らのAPSという自己免疫異常からの回避の一序であるのみならず、本症の急性期治療に積極的に線容治療を試みる理論的裏付けとなった。
β2-GPIの生理的機能に関してはこれまで数多くの研究があるにもかかわらず、不明の点が多い。本研究で明らかになった点は、β2-GPIがリン脂質の存在下でプロテインCに結合し、aCL(抗β2-GPI抗体)の標的になり、プロテインCの機能障害が起こり、APSの病態生理(血栓形成)の進展に寄与するということである。β2-GPIの凝固線容系に関する作用は、最近発見されたβ2-GPI欠損家系の研究を通して解明を試みる予定である。
aCLとループスアンチコアグラントとともに抗プロトロンビン抗体(aPT)の存在が注目されてきた。今回の研究ではaPTの測定法の確立とともにB細胞エピトープの詳細が明らかにされた。今後は、APSの病態生理とaPTの関係さらにはaPT産生を調節しているT細胞エピトープについても解析を試みる。
aCL の免疫グロブリンサブクラスの検討は、日本人APS の間ではあまり進んでいない。今回、IgAaCL の病的意義を明らかにしたが、今後IgG サブクラスについても詳細な検討を進める必要がある。
aCLは、抗リン脂質抗体症候群の疾患マーカーであるのみならず、血液凝固・線溶・血管内皮細胞機能に影響を及ぼし、APSの病態形勢に重要な役割を果たしている。従って、aCLの測定結果を多施設での比較検討できることが、異なった研究施設における、APSの臨床像・病態の解析・より適切な治療法の検討結果を比較検討する上で重要である。しかし、aCL測定系の、安定した再現性のある標準が確立されていない。本研究で、APSモデルマウス由来のモノクローナルaCLの可変部領域と、ヒト免疫グロブリン定常部領域を持ったキメラ抗体を作成した。これまですでに、世界中の約20 個所の研究施設にこのキメラ抗体を供給し、その有用性が確認されている。
未だモデル動物を用いた実験レベルではあるが、自己抗原であるβ2-GPIを用いた経口寛容の誘導の可能性、さらにニューキノロン系の抗生物質(シプロフロキサシン)によるAPS 治療の可能性も展望された。今後、患者への応用を検討したい。
2)間質性肺炎=SLEにおいて、間質性肺炎は時に急速に進行し予後不良の経緯をとる事がある。本研究では、病態の進展、憎悪に対する生体側の防御因子として、肺胞上皮の再生が重要な機能を持つことに着目し、肺胞上皮細胞に対して、増殖作用、遊走活性、線容活性の亢進といった多彩な作用をもつ肝細胞増殖因子(HGF)の肺局所での作用を増強することで、間質性肺炎とそれに引き続く肺の線維化を阻止することを試みた。その結果、INF-γがHGFのリガンドであるc-Metレセプターの発現を肺胞上皮細胞で高め、HGFの生理作用を増強させる事をin vitro の系で見い出した。またマウスへのINF-γの投与によってもc-Metの発現が肺胞上皮細胞で増強しているのが確認された。すなわち、抗線維化サイトカインであるINF-γは、HGFのレセプターの発現を高めることで肺胞上皮細胞の増殖を促進し、間質性肺炎に対する防御因子として作用する可能性が示唆された。今後、HGFとINF-γの組み合わせが、間質性肺炎に対する新たな治療戦略となる得るか否か、in vivoでの検討を試みる予定である。
3)難治性ループス腎炎=①エストロゲンにより誘導される自己抗原(GORヒトホモログ)とこの自己抗原に対する自己抗体: これまでの研究で免疫系細胞を用いたRAP-differential display 法を用い、エストロゲンにより発現誘導される新たな遺伝子を単離した。それがチンパンジーで報告されている自己抗原蛋白GORのヒトホモログであり、エストロゲン刺激後24時間をピークに誘導される。本研究ではGORヒトホモログの構造、機能を解明し、抗原性についての基礎的検討を行った。その結果、GORヒトホモログのopen reading frame の全配列を決定し、遺伝子の大まかな構造や、正常組織や細胞株でのmRNAの発現パターンを明らかにできた。さらにGORの部分組替え蛋白を抗原としたELISAの系を構築し、SLE患者血清中に抗GOR抗体陽性の検体が存在することを確認した。今後は多数のループス腎炎患者での抗GOR自己抗体の難治性腎炎形成との関係を追求する。
②MRIを用いた腎病変の画像診断:SLEにおける難治性病態の一つであるループス腎炎の早期発見をMRIを用いて試みた。当該年度では、数例のループス腎炎患者のMRIを撮影したが、腎不全患者のMRI像では、T1・T2画像で腎全体の変化が見られたが、皮質・髄質の病変の詳細な解析は困難であった。
研究分担者の江口は、シェーグレン症候群の耳下腺のMRI像が、本症の診断に有用であることを報告してきた。しかし、MRIを用いたヒトループス腎炎の画像解析については、まだ解決しなければならない問題が多い。今後は、SLEの動物モデルを用いて、腎臓のMRI撮影条件の設定や画像データ処理を試みる。さらにT1・T2画像、ガドリニウム造影に加え、呼吸性移動に強いecho planar imaging (EPI)のような傾斜磁場を使用した高速撮影法も検討する。撮影後、動物から組織を採取し、組織学的な解析も行う予定である。
APS患者に高率に認められるaCLは血中のアポ蛋白であるβ2-GPIのcryptic なepitope を認識する。本研究において、aCLの認識するepitopeがpeptideレベルで明かにされたが、今後はこのpeptideをもとに、個々のAPS患者における病的 epitope の同定と、それを用いてのB細胞寛容の誘導を試みる。β2-GPIの第5ドメインがプラスミンにより切断され、その事によってaCLの抗原性が消失する(β2-GPIの 酸性リン脂質への結合能が消失することによる)という成績は、プラスミンによる限定分解が、生体自らのAPSという自己免疫異常からの回避の一序であるのみならず、本症の急性期治療に積極的に線容治療を試みる理論的裏付けとなった。
β2-GPIの生理的機能に関してはこれまで数多くの研究があるにもかかわらず、不明の点が多い。本研究で明らかになった点は、β2-GPIがリン脂質の存在下でプロテインCに結合し、aCL(抗β2-GPI抗体)の標的になり、プロテインCの機能障害が起こり、APSの病態生理(血栓形成)の進展に寄与するということである。β2-GPIの凝固線容系に関する作用は、最近発見されたβ2-GPI欠損家系の研究を通して解明を試みる予定である。
aCLとループスアンチコアグラントとともに抗プロトロンビン抗体(aPT)の存在が注目されてきた。今回の研究ではaPTの測定法の確立とともにB細胞エピトープの詳細が明らかにされた。今後は、APSの病態生理とaPTの関係さらにはaPT産生を調節しているT細胞エピトープについても解析を試みる。
aCL の免疫グロブリンサブクラスの検討は、日本人APS の間ではあまり進んでいない。今回、IgAaCL の病的意義を明らかにしたが、今後IgG サブクラスについても詳細な検討を進める必要がある。
aCLは、抗リン脂質抗体症候群の疾患マーカーであるのみならず、血液凝固・線溶・血管内皮細胞機能に影響を及ぼし、APSの病態形勢に重要な役割を果たしている。従って、aCLの測定結果を多施設での比較検討できることが、異なった研究施設における、APSの臨床像・病態の解析・より適切な治療法の検討結果を比較検討する上で重要である。しかし、aCL測定系の、安定した再現性のある標準が確立されていない。本研究で、APSモデルマウス由来のモノクローナルaCLの可変部領域と、ヒト免疫グロブリン定常部領域を持ったキメラ抗体を作成した。これまですでに、世界中の約20 個所の研究施設にこのキメラ抗体を供給し、その有用性が確認されている。
未だモデル動物を用いた実験レベルではあるが、自己抗原であるβ2-GPIを用いた経口寛容の誘導の可能性、さらにニューキノロン系の抗生物質(シプロフロキサシン)によるAPS 治療の可能性も展望された。今後、患者への応用を検討したい。
2)間質性肺炎=SLEにおいて、間質性肺炎は時に急速に進行し予後不良の経緯をとる事がある。本研究では、病態の進展、憎悪に対する生体側の防御因子として、肺胞上皮の再生が重要な機能を持つことに着目し、肺胞上皮細胞に対して、増殖作用、遊走活性、線容活性の亢進といった多彩な作用をもつ肝細胞増殖因子(HGF)の肺局所での作用を増強することで、間質性肺炎とそれに引き続く肺の線維化を阻止することを試みた。その結果、INF-γがHGFのリガンドであるc-Metレセプターの発現を肺胞上皮細胞で高め、HGFの生理作用を増強させる事をin vitro の系で見い出した。またマウスへのINF-γの投与によってもc-Metの発現が肺胞上皮細胞で増強しているのが確認された。すなわち、抗線維化サイトカインであるINF-γは、HGFのレセプターの発現を高めることで肺胞上皮細胞の増殖を促進し、間質性肺炎に対する防御因子として作用する可能性が示唆された。今後、HGFとINF-γの組み合わせが、間質性肺炎に対する新たな治療戦略となる得るか否か、in vivoでの検討を試みる予定である。
3)難治性ループス腎炎=①エストロゲンにより誘導される自己抗原(GORヒトホモログ)とこの自己抗原に対する自己抗体: これまでの研究で免疫系細胞を用いたRAP-differential display 法を用い、エストロゲンにより発現誘導される新たな遺伝子を単離した。それがチンパンジーで報告されている自己抗原蛋白GORのヒトホモログであり、エストロゲン刺激後24時間をピークに誘導される。本研究ではGORヒトホモログの構造、機能を解明し、抗原性についての基礎的検討を行った。その結果、GORヒトホモログのopen reading frame の全配列を決定し、遺伝子の大まかな構造や、正常組織や細胞株でのmRNAの発現パターンを明らかにできた。さらにGORの部分組替え蛋白を抗原としたELISAの系を構築し、SLE患者血清中に抗GOR抗体陽性の検体が存在することを確認した。今後は多数のループス腎炎患者での抗GOR自己抗体の難治性腎炎形成との関係を追求する。
②MRIを用いた腎病変の画像診断:SLEにおける難治性病態の一つであるループス腎炎の早期発見をMRIを用いて試みた。当該年度では、数例のループス腎炎患者のMRIを撮影したが、腎不全患者のMRI像では、T1・T2画像で腎全体の変化が見られたが、皮質・髄質の病変の詳細な解析は困難であった。
研究分担者の江口は、シェーグレン症候群の耳下腺のMRI像が、本症の診断に有用であることを報告してきた。しかし、MRIを用いたヒトループス腎炎の画像解析については、まだ解決しなければならない問題が多い。今後は、SLEの動物モデルを用いて、腎臓のMRI撮影条件の設定や画像データ処理を試みる。さらにT1・T2画像、ガドリニウム造影に加え、呼吸性移動に強いecho planar imaging (EPI)のような傾斜磁場を使用した高速撮影法も検討する。撮影後、動物から組織を採取し、組織学的な解析も行う予定である。
結論
全身性エリテマトーデス(SLE)は、多彩な自己抗体の出現と腎や中枢神経系をはじめ、多臓器障害を特徴とする、代表的な自己免疫疾患である。近年、早期診断や早期からの積極的な治療により、本症の生命予後は著しく改善したが、あらゆる治療に抵抗する難治性の病態も依然として存在する。本研究ではその中から血栓症と習慣流産を伴う抗リン脂質抗体症候群、間質性肺炎及び難治性腎炎の3つの難治性病態に焦点を絞り、それらの病因を明らかにし、早期診断法を確立し、治療法の開発を試みた。抗リン脂質抗体症候群に関しては、抗カルジオリピン抗体の対応抗体である、β2-グリコプロテインⅠ(β2-GPI)の抗原構造が分子レベルで明かになり、動脈血栓症の病因としてエンドセリン-1の関与示唆され、また、プロテインC系の機能不全との関係も解明された。血栓症の急性期にはプラスミンが放出されるが、プラスミンにはβ2-GPIを切断し抗原性を失活させる働きがあることが判明した。IgA抗カルジオリピン抗体の臨床的意識も明らかになり、IgG抗カルジオリピン抗体の標準血清となるキメラ型モノクローナルIgG抗カルジオリピン抗体(抗β2-GPI抗体)を作製した。また、モデル動物を用いた抗リン脂質抗体症候群の新しい治療の可能性が展開された。ヒト培養肺胞上皮細胞及びマウスとインターフェロン-γ(IFN-γ)を用いて、肝細胞増殖因子(HGF)のレセプターであるc-Metの発現をin vitro及びin vivoで検討した。難治性腎炎に関してはエストロゲンにより誘導される自己抗原(GORヒトホモログ)の解析を中心に、腎症の進展とこの自己抗原に対する自己抗体の関与を明かにした。さらにMRIを用いた非侵襲的な計入経時的な腎病変の画像診断法の開発も試みた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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