臓器線維症(強皮症、腎硬化症、肺線維症、骨髄線維症等)における線維化抑制物質(デコリン)の誘発を活用した治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800898A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器線維症(強皮症、腎硬化症、肺線維症、骨髄線維症等)における線維化抑制物質(デコリン)の誘発を活用した治療法開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 清(東京医科歯科大学医学部皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 新海浤(千葉大学医学部皮膚科)
  • 斎藤康(千葉大学医学部第二内科)
  • 金田安史(大阪大学医学部遺伝子治療学講座)
  • 上野光(九州大学医学部循環器内科)
  • 佐藤研(東北大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目標は、臓器線維化によって引き起こされる全身性強皮症、肺線維症、肝硬変、動脈硬化症、腎硬化症などの生命予後の悪い難治性疾患に対する有効な治療法を、Transforming Growth Factor (TGF)-βの機能を中和するデルマタン硫酸プロテオグリカンであるデコリンを利用して確立することである。この目的を達成するための準備として、本年度は、各種臓器線維症のモデル動物の開発、デコリン分子あるいはデコリン遺伝子の生体内導入法の開発とその治療法への応用、サイトカインを含む種々の薬物による臓器線維症治療の検討を研究目標とした。

研究方法
結果と考察
結論
平成10年度の活動によって以下のごとき研究成果が得られた。
1. 強皮症皮膚硬化モデルの開発 
すでに、突然変異種であるタイトスキン(TSK)マウス、強皮症鶏が強皮症モデルとして報告されているが、いずれも入手が困難であるため、容易に、かつ簡便に利用できる動物モデルの確立が必要となっている。ブレオマイシンの連日反復皮下注射によって強皮症病変と類似する皮膚病変が作成できることが明かにされ、この皮膚硬化が、病理組織学的に強皮症が示す皮膚硬化と同一の所見を示すことから、強皮症の皮膚硬化モデルとして使用可能となっている。しかし、4週間にわたる連日反復注射を必要とすることから、より簡便な方法の確立を必要としている。そこで、異なった種のマウスを用い、また、ブレオマイシン投与スケジュールを変更して、より簡便に皮膚硬化を誘導することを試みた。Balb/cマウスでは、ブレオマイシンの連日4週間の皮下注射を繰り返す必要があったが、3回/週以上、4週間の投与で十分な皮膚硬化が得られ、また、C3Hマウスを用いた場合には、3回/週、2週間のブレオマイシン皮下投与によって十分な皮膚硬化を作成することができた。この皮膚硬化は、ブレオマイシン投与中止後も4週間以上にわたって持続することが明らかとなり、C3Hマウスでの皮膚硬化を利用することによって治療薬の検定が行うことができるようになった。このモデルを用いて、ペニシラミン、インターフェロンγ、抗TGF-β抗体の治療効果を検定した。ペニシラミンの4週間投与では、皮膚硬化の改善は見られなかったが、抗TGF-β抗体をブレオマイシン投与と同時にあるいは、ブレオマイシン投与前から投与することによって皮膚硬化形成を抑制した。また、インターフェロンγは、ブレオマイシン投与によって形成された硬化皮膚を改善した。
2. デルマトポンチンの強皮症病態における役割検討
強皮症の動物モデルとしてのTSKマウスは、細胞外マトリックス成分のファイブリリンの遺伝子異常によって引き起こされた病態であるが、この異常はヒト強皮症には見られない。しかし、TSKマウスの病態から、細胞外マトリックスを構成する分子の異常が線維化準備状況を招くことが考えられる。そこで、強皮症病変部位あるいは肥厚性瘢痕から得た線維芽細胞のマトリックス遺伝子について検索したところ、最近新しく見いだされた細胞外マトリックスであるデルマトポンチン遺伝子の極端な発現低下が見いだされた。デルマトポンチンは、デコリンとの結合能を有するだけでなく、サイトカインとも結合する性質を持つことから、この分子の産生低下は線維化のリスクファクターと考えられた。現在、デルマトポンチン遺伝子のKOマウスを作成中である。
3. 動脈硬化症におけるMetalloproteinase (MMP) -3の役割検討
動脈硬化症の病態において、硬化巣形成の為のマトリックスの蓄積に、マトリックスの産生と分解のバランスが関与していることが考えられている。硬化巣での線維化機構の一つに、分解酵素MMPの機能調節が知られている。特にMMP-3は硬化巣で高発現し、その発現分泌を調節するシグナル伝達系を明らかにすることは線維化機構の解明およびその治療に重要である。そこで、遺伝子導入によりブタ大動脈由来内皮細胞にPDGF受容体を安定発現させ、これにPDGF刺激を加え、MMP-3に対するPDGFの調節機構を検討した。MMP-3mRNAの発現は、PDGF刺激によりPDGF-αおよびβ受容体を共に発現した細胞において著明に亢進した。しかし、この亢進作用はPLC-γ結合部位を欠失させたαおよびβ変異受容体を発現する細胞では認められなかった。一方、MMP-3蛋白の細胞外分泌亢進作用はβ受容体発現細胞のみに認められ、この作用はPI3キナーゼ結合部位を欠く変異受容体を発現した細胞には認められなかった。このことから、PDGFによるMMP-3のmRNA発現の細胞内シグナル伝達はPLC-γを介して行われており、また、MMP-3蛋白の分泌にはPI3キナーゼを介して行われていることが明らかとなった。
4. 遺伝子治療のためのVirosomeの開発と利用
腎硬化症の遺伝子治療のために、TGF-βを中和できるデコリンの遺伝子をHVJーリポソームに組み込んだ。リポソームをThyー1抗体投与によって誘導した腎炎ラットの骨格筋に導入したところ、骨格筋内にデコリン遺伝子の強い発現がみられ、腎糸球体を中心としたデコリンの強い沈着を認めた。同時に、腎糸球体でのTGF-βmRNA発現が低下し、細胞外基質の増生が抑制された。特にTGF-βによって増加するフィブロネクチンの産生が抑制され、I型コラーゲン、テネイシンの増加が抑制された。さらに、TGF-βの可溶型受容体ーIgGキメラを同様の手法で骨格筋に投与し、骨格筋より持続分泌させることによって腎硬化症の実験的治療に成功した。また、新たに開発したHVJーAVEリポソームは組織での遺伝子発現を従来型HVJーリポソームの約10倍増強できるが、このベクターに組み込んだ遺伝子をラット尿細管より注入すると腎間質に遺伝子発現が認められた。この方法で尿細管結紮による水腎症モデルラットの腎間質にTGFーβの可溶型受容体ーIgGキメラ遺伝子を発現させると水腎症に伴う腎の線維化の進展を抑制できた。
5. 変異型TGF-β受容体を用いた細胞外マトリックス蓄積抑制
臓器線維症においてTGF-βが重要な役割を果たすことが予測されている。TGF-βの作用発現に必要とされるTGF-β受容体の細胞内ドメインに変異を加えた変異型受容体遺伝子を作成した。この遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み生体内に導入することによって、野生型の受容体機能を抑制し、ブレオマイシンによる実験的肺線維症の治療を行った。その結果、変異型受容体遺伝子を導入された動物の肺線維症の改善が見られ、その動物には特別な異常はみられなかった。
6. 作用機序の異なるTGF-βアンタゴニスト併用による肺線維症治療
肝細胞増殖因子(HGF)のリコンビナントタンパクの投与によって、外因性HGFによる実験的肺線維症の制御に成功し、また、肺障害が完成した後にHGFを投与することによっても、肺線維化を有意に改善できることが見いだされている。そこで、HGFの発現アデノウイルスベクター(Ad-vector)を肺線維症動物に投与することによって、肺線維症の治療を試みた。HGFの持続的発現がみられ、肺線維症の改善がみられ、HGFの肺線維化抑制機序の一つがTGF-βの発現抑制であることが見いだされた。一方、デコリン(DC)はTGF-βの捕捉という別の機序により臓器線維化を抑制すると考えられている。そこで、線維化に対して中心的役割を担っているTGF-βに対し、異なった作用機序を有する2種のアンタゴニスト(HGFとDC)を併用してより強力に肺の線維化を抑制する目的で、DCを発現するAd-vectorを作製した。今後、実験的肺線維症におけるDCの外来性発現と効果、およびHGFとの相加・相乗効果を検討する予定である。

公開日・更新日

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