ギラン・バレー症候群発症におけるカンピロバクターの関与を解明し、予防法・治療法を開発する研究

文献情報

文献番号
199800896A
報告書区分
総括
研究課題名
ギラン・バレー症候群発症におけるカンピロバクターの関与を解明し、予防法・治療法を開発する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
結城 伸泰(獨協医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮武正(昭和薬科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ギラン・バレー症候群は人口10万人あたり年間1-2名の発症を数え、ポリオが激減した今日、急性に弛緩性の運動麻痺を呈する疾患の中で最も頻度が高い。(本邦での統計はないが)イギリスでは90年代に入ってからも、発症後1年の時点で患者の8%が死亡、4%が寝たきり、9%が支えなしでは歩行できない、17%が走れない状態である。したがって、発症機序の解明に基づいた新しい治療方法の導入が待たれている。本邦ギラン・バレー症候群患者におけるCampylobacter jejuniの先行感染の頻度は約30%を占め、他のギラン・バレー症候群よりも転帰が不良であり、その予防法、治療法の開発が切実に望まれている。
現在、ギラン・バレー症候群の治療として、血漿交換、免疫グロブリン大量静注療法などの特異性の低い治療が行われている。しかしながら、血漿交換には置換液として大量のアルブミン製剤を、免疫グロブリン静注療法では大量の免疫グロブリン製剤を要し、血液製剤の使用を削減しようとする時代の流れに逆行するものである。また、いずれの血液製剤もウイルス不活化が完全であるという保証はなく、最近アメリカで、免疫グロブリン静注療法後にC型肝炎が100例以上発生した事実を重視しなければいけない。本研究によりC. jejuni感染後ギラン・バレー症候群のモデル動物が樹立されて病態の解明がさらに進めば、免疫抑制剤、抗接着分子抗体、抗サイトカイン抗体などのより特異性の高い、効率的な治療法の開発に結びつく。樹立した動物モデルを用いて、それらの薬剤の効果を評価できる。動物モデルによる検討のステップは、治験において患者が受ける不利益、リスクを軽減せしめる。
並行して、IgG抗GM1抗体が運動神経の機能を障害してギラン・バレー症候群発症を惹起することをin vitroで明らかにし、その自己抗体の産生機構を実際の患者の視点から推測し、モデル動物で詳細な解明を試みたい。

研究方法
結果と考察
結論
(1) ギラン・バレー症候群モデル動物の樹立。本研究では、ギラン・バレー症候群患者から分離されたC. jejuni菌株を用いて抽出したリポ多糖や、ウシ脳ガングリオシドの主要成分であるGM1ガングリオシドをウサギに免疫することにより、ギラン・バレー症候群モデル動物の作成を試みた。GM1で免疫したウサギ10羽すべてで運動マヒが生じ、血中抗GM1抗体(IgG、IgM)が検出された。リポ多糖を免疫したウサギでも血中抗GM1抗体(IgG、IgM)が検出されたが、運動マヒをきたしたウサギはなかった。GM1の免疫にて運動マヒを生じたウサギがギラン・バレー症候群の動物モデルであることが病理組織学的にも確認されれば、ヒトでは行えない発症機序の検索や、新たな治療法の開発に取り組むことが可能となる。
(2) ギラン・バレー症候群患者血清による神経・筋接合部の伝導障害。われわれは、IgG抗GM1抗体が運動神経の伝導を障害し、運動麻痺を惹起し、ギラン・バレー症候群発症に至ると考えている。本研究ではIgG抗GM1抗体が運動神経、神経・筋接合部の機能を障害するかを検討した。方法は、ラットの胎児から筋と脊髄を取り出し、神経・筋接合部を形成した。そこに、ギラン・バレー症候群患者血清 (5例) を投与すると、筋収縮数が減少し、液を還流すると筋収縮数が元に戻った。補体を非働化したギラン・バレー症候群血清や精製したIgG抗GM1抗体を投与しても同様の結果だった。正常対照、筋萎縮性側索硬化症では、筋の自動収縮は抑制されなかった。神経・筋接合部の系にギラン・バレー症候群患者の血清を投与すると自動収縮が抑制された。このことに補体は関与していないと考えられ、IgG抗GM1抗体が重要であることが示唆された。
(3) Campylobacter腸炎後ギラン・バレー症候群における血中IgA抗GM1抗体の由来臓器。ギラン・バレー症候群の中でも最も予後不良とされるC. jejuni腸炎後ギラン・バレー症候群で、血中IgA抗GM1抗体が高頻度に検出されることをわれわれは以前に報告した。今回の検討で、ギラン・バレー症候群で検出されるIgA抗GM1抗体のサブクラスはすべてIgA1であり、分泌型ではないことを見い出した。これは、IgA抗GM1抗体が腸管ではなく、骨髄由来であることを示唆する。今後、骨髄におけるIgAへのクラススイッチ機構を明らかにする必要がある。また、ギラン・バレー症候群の予後不良因子と従来から考えられているIgG抗GM1抗体よりも、IgA抗GM1抗体の方がより強い予後不良因子であることが報告されている。今回の検討でもIgA抗GM1抗体陽性の患者では軸索障害を来たしやすいことがわかった。今後、IgA抗GM1抗体の重要性が広く認識されると考えられ、本抗体の病的意義につき、検討を要する。
1
2

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-