特発性拡張型心筋症の重症例に対するバチスタ手術の有効性評価に関する臨床研究

文献情報

文献番号
199800892A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性拡張型心筋症の重症例に対するバチスタ手術の有効性評価に関する臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
米田 正始(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 西村和修(京都大学)
  • 腰地孝昭(京都大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はバチスタ手術 (左室縮小形成術)の縮小の程度や部位および対象・適応を明らかにし、より優れた術後心機能をもたらす術式を開発改良することで特発性拡張型心筋症(DCM)患者の生命予後とQOLの改善をもたらす事にある。勿論家族の受益や社会の受益にも好ましい影響を及ぼしうるものである。本研究によって最も心機能の改善する手術を患者に提供できる。また同手術に適した患者と不適な患者をより確実に選別できる根拠を提供する。
特発性拡張型心筋症は自然予後が極めて悪く、効果的治療法である心移植を部分的に肩代わりする治療法として期待を集めるバチスタ手術は現在までに安定した成績を挙げていない。この原因として1.術前どのような心機能上の特性を持つ患者が同手術によって利益を受けるかという適応の問題や 2.どの部位の心筋をどの程度切除すれば最も優れた術後心機能をもたらすかという術式の問題の両者について科学的データがない事が挙げられる。これらをメカニズムと共に明らかにすることが、同手術を真に患者のための治療法とならしめるために是非とも必要である。またこうした実験研究を行なうために必要な動物モデル、すなわち手術に耐えるようなDCMモデルが報告されていないため、まずこの動物モデルの開発が必要である。患者のみを対象とした研究ではクリーブランドクリニックからの報告等に見るように得られる情報の質と量の両面において不十分であること、および本研究が手術法や左室機能評価などにおいて臨床に近い性質を持ち、しかも臨床例より遥かに高精度の生理学的・分子生物学的データが得られるため本研究は方法論では実験研究ではあっても臨床に直結した、臨床研究を上回る価値があるものと考える。
研究方法
1:うっ血型心筋症(DCM)外科治療モデルの作成。18匹のダール食塩感受性ラットに対し、高食塩食を異なる時期から(生後7週、8週、9週)から投与開始し、それぞれの群の血圧と左心室の拡張を経時的に計測した。この結果生後第9週から高食塩食を開始したラットが左室の著明な拡大をきたしながら手術侵襲に耐えられる事が判明し、本研究の以下の部分ではこのDCMモデルを用いて左室縮小形成術の検討を行なうこととした。
2:DCM外科モデルを用いての左室縮小形成術 (バチスタ手術)における治療効果の研究。上記のDCM外科治療モデルを用いて、縫縮法を用いた左室縮小形成術をこれまでに7匹のラットに対し行なった。術前術後に小動物に適した高精度エコー探触子を用いて左室内腔(左室拡張末期径、左室収縮末期径、左室短径短縮率など)をミラーカテーテルによる左室圧測定とともに計測・算出した。
結果と考察
1:うっ血型心筋症(DCM)外科治療モデルの作成。生後9週から高食塩食を開始した群は第14週から血圧196±15mmHg (平均±標準偏差)、第20週から血圧219±16mmHgの高血圧を生じ、正常では5mm程度の拡張末期左室短径は第20週には6.9±0.3mm、第25週には7.9±1.1mm、また正常では68±3%の左室短径短縮率は第20週には61±4%、第25週には48±12%へと悪化し、ヒトDCMの左室拡張と左室収縮機能不全に十分比肩する拡張性病変を来たした。しかも致死性心不全に至るまでの時間が従来報告されていたDCMモデルより長く(従来の2-3日に対し本モデルでは約2-3週間)、外科治療を含めた治療手段の侵襲・体力的負担に耐え、かつ比較的長期にわたる治療効果判定が可能であることが判明した。ちなみにこのような動物モデルは私共の知る限りこれまでに報告されていない。本研究ではこのモデルを用いて左室縮小形成術の検討を行なうこととした。
2:DCM外科モデルを用いての左室縮小形成術 (バチスタ手術)の治療効果の研究。上記のDCM外科治療モデルを用いて、縫縮法を用いた左室縮小形成術を行なった。左室拡張末期径は術前の8.6±0.5mmから術後は7.0±0.5mmへ、同様に左室収縮機能のパラメータである左室短径短縮率は35.6±1.1%から51.5±6.1%へといずれも有意に改善した。これらのうちカテーテル検査を併用した3匹では左室拡張機能の指標であるタウが術前の35.3msから41.8msへとやや悪化の傾向を示した。現在はさらに多数のDCMラットに左室縮小形成術を行ない多様なサイズ・状態の左室に対し、様々な縮小率の左室形成術を行い、術前術後心機能の変化を左室のサイズや壁厚、壁張力、直接左室圧などと共に測定しつつある。十分な数のラットのデータが得られた時点でMultiple Linear Regression分析を行う事で、術前心機能や左室縮小術の術後心機能に対する影響が明らかになると考えられる。さらにこれらのラットから得た左室や血液検体を用いて顕微鏡的(組織検査や繊維化の定量も含む)あるいは分子生物学的変化(各種サイトカインやホルモンなど)を測定評価中である。また術直後のみならず術後慢性期の左室サイズ・機能の変化を血圧などと共に経時的に測定・フォローしており、慢性期の分子生物学的パラメータの変化とあわせて検討している。
結論
1.ダールラットを用いてうっ血型心筋症(DCM)の外科治療モデルを作成した。DCMに比肩する左室の拡張と収縮機能不全、そして手術侵襲に耐え遠隔期の心機能評価が行えるだけの予備力を持ち、左室縮小形成術の評価に好適なモデルと考える。2.同モデルを用いて左室縮小形成術(バチスタ手術)を行い、左室の縮小と収縮機能の改善を認めた。今後さらに例数を増やすことで術前の左室状態や手術における縮小程度が術後心機能におよぼす影響が分子生物学的変化・効果とともに明らかになると考えられる。

公開日・更新日

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