治療研究事業未対象疾患の疫学研究

文献情報

文献番号
199800887A
報告書区分
総括
研究課題名
治療研究事業未対象疾患の疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大野 良之(名古屋大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本修二(東京大学大学院医学研究科)
  • 永井正規(埼玉医科大学)
  • 川村孝(名古屋大学大学院医学研究科)
  • 玉腰暁子(名古屋大学大学院医学研究科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の背景=いわゆる難病は病因論あるいは症候論的な概念ではなく、原因不明かつ治療法が未確立であり、経済や介護の面で家族の負担が大きく社会的支援を要するという多分に社会政策的な概念である。そのような難病に対して対策を立てる際には、各難病の患者数やその動向、基本的属性や病態の分布を知ることが不可欠である。しかし、調査研究対象疾患(広義の特定疾患)であっても治療研究対象疾患(医療受給を受ける狭義の特定疾患)となっている40あまりの難病以外は、その静態・動態を明らかにする制度が構築されていない。
研究の目的=本研究は、特定疾患調査研究対象疾患でありながら実態が十分把握されていない難病に焦点を当て、その受療患者数や基本的疫学像・臨床像を全国レベルで把握することによって今後の難病対策の基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
研究の方法=特定疾患調査研究対象疾患118疾患の中から、すでに治療研究対象になっている43疾患(受給対象疾患名としては41疾患)を除き、さらに受給疾患以外で1993年度以降特定疾患に関する疫学研究班による全国疫学調査が行われた、あるいは行う予定の30疾患を除外した45疾患70病態を調査対象とした。
はじめに、既存の調査研究や症例報告から対象疾患の症例数の概算と診断基準の確認を行い、疫学調査実施の適否を審査して調査疾患を抽出した。
調査は、1)厚生省の病院リストから病床規模に応じて所定の割合(大学付属病院および500床以上=100%、400~499床=80%、300~399床=40%、200~299床=20%、100~199床=10%、99床以下=5%)で抽出した全国の医療機関に、初診・再診合わせて98年1年間に受療した患者数を尋ねる「患者数調査」と、2)患者の性・年齢や受療状況、公費負担の有無、および主要な症状、検査値、合併症の有無、臨床経過など、疫学的あるいは臨床医学的特性を、臨床班が推薦した全国の特定の医療機関に問う「疫学・臨床像調査」からなる。データの入力・解析を容易に行うため、調査項目はすべて数字記入または多肢選択式とした。
回答者の便宜を考慮して、「患者数調査」の調査票は調査対象の多数の疾患を診療科ごとに整理・再編成した。また「疫学・臨床像調査」の調査票は、症例ごとの疫学・臨床像を疾患単位でまとめた。これらを依頼状や診断基準、返信用封筒とともに郵送した。回収されたデータはコンピュータに入力する。
調査を行うすべての疾患のひとつひとつについて以下の解析を行う。「患者数調査」では、従来の全国疫学調査に準じた方法で抽出率および返送率を勘案して患者数の推計を行い、その95%信頼区間も算出する。「疫学・臨床像調査」では、各種の疫学的あるいは臨床医学的指標の分布、指標間の相互の関連の大きさについて分割表やロジスティック回帰、相関分析などの統計学的手法を用いて解析を行う。
なお、調査は医療機関に対して実施し、情報収集は個人名を特定しない形で行う。また病院名は公表しない。本研究によって個人名が表に出たり、研究者が患者個人の情報に接することはなく、患者のプライバシーが侵害されるおそれはない。
平成10年度の主な成果=本年度は、各特定疾患に関する調査研究班(臨床班)と共同で、診断基準の確認・確立、および今までに行われた種々の調査研究で把握された疫学像の整理・確認を行った。その結果、特定疾患調査調査研究対象疾患ではあるが、一例ごとに症例報告されるほど患者数が少ないものが5疾患(グルココルチコイド抵抗症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、致死性家族性不眠症、膵嚢胞性線維症、前縦靭帯骨化症)、診断基準が確立していないものが5疾患(特発性血栓症、フィッシャー症候群、多発限局性運動性末梢神経炎、単クローン抗体を伴う末梢神経炎、好酸球性筋膜炎)、他の調査研究対象疾患に含まれるものが1疾患(特発性ステロイド性骨壊死症)であった。また、今回の調査を機に診断基準の整備が行われたものが数疾患あった。その結果、疫学調査の対象は34疾患59病態となった。
患者数調査と疫学・臨床像調査の2種類の調査票を完成した。前者はおもに葉書を用い、診断名ごとに男女別患者数を記入するものとした(診療科単位で23種類)。疾患分類が階層性を持っているものは、どのレベルまで診断がついている場合でも回答できるようにした。後者は各疾患の患者ごとに、性、生年月、初診年月、最終受診年月、推定発症年月、受療状況、医療公費負担状況、身体障害者手帳の有無、臨床経過、死亡時の死因と年月、生存時の日常生活活動度(ADL)、の共通11項目と、疾患に特異的な臨床的質問項目(5項目以内)で構成した(疾患単位で17種類)。
「患者数調査」の対象医療機関(診療科単位)23,401施設の抽出、および「疫学・臨床像調査」の対象医療機関1,404施設の登録を完了した。平成11年1月、両調査の調査様式一式を発送した。年度末までに調査票の回収を終える予定である。
次年度の研究計画=平成11年度には回収データの電算入力を行い、「患者数調査」の報告患者数から橋本らの推計式で全国の受療患者数を推計する。また、「疫学・臨床像調査」から患者の属性や医学的特性の分布を明らかにする。今回の調査結果と従来の特定疾患調査研究成績とを合わせ、難病の実態が一覧できるようにまとめる。
結果と考察
考察=この種の広範な研究は世界的にも例がない。人口動態統計や患者調査では傷病名の特性から難病のみを抽出することが難しく、さらに前者は死亡例に限定され、後者は特定日だけの調査であることから、捕捉率や普遍性に問題が残る。また剖検輯報は病理学的情報は詳しいものの、病理解剖を受けた一部の症例に限定される。健康保険・国民健康保険の診療報酬請求書の情報は、全医療機関を網羅するものの病名の信頼性に欠ける。また通常の臨床研究では、特定の医療機関で行うため、症例の偏りは避けられない。したがって、既存のどの資料からも難病患者の全体像を把握することはできない。本研究は、全国規模であり、かつ調査対象機関数が多いため、全数調査に近い高い精度が得られることが期待される。
特定疾患の疫学に関する研究班が設立されて以来20余年の間に、主任研究者らは数多くの難病について全国疫学調査を行い、その患者数や疫学像を明らかにしてきた。調査を実施したのみならず、調査対象の選出や推計方法など、大規模疫学調査方法そのものの合理性の検証も行ってきた。またいくつかの難病については、全国疫学調査を繰り返し行って発生頻度の推移を明らかにし、さらに一部の疾患では、定点モニタリングによる動向調査を試みている。治療研究対象疾患については、病態や障害程度別の患者数の推計も行える情報システムを提案した。一部地域で試験的に運用を開始し、その成果が期待されている。これらは難病の総合政策を立案するための情報を入手する上できわめて重要なシステムである。
今回の未受給特定疾患の全国調査は、従来の調査研究では不明であった各種難病の実態を初めて明らかにするものである。既刊の報告とあわせて難病の疫学像を総合的に捉え、今後の難病対策に資することが期待される。





結論

公開日・更新日

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