文献情報
文献番号
199800883A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関するリサーチ・リソース・バンク研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小早川 隆敏(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 橋本雄之(国立感染症研究所)
- 吉川泰弘(東京大学)
- 宮村達男(国立感染症研究所)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 政策的研究部門
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年のめざましい科学技術の発展に伴い、特定疾患に対する研究においても先端的技術を応用した新たなアプローチがなされている。即ち、疾患・病態の遺伝子レベルでの解析、遺伝子組換え技術や細胞融合法の応用による新しい医薬品の開発、更には遺伝子治療の導入などによって、従来は不治とされてきた疾病に対する画期的な治療法さえも可能となった。これら先導的科学技術を駆使しての疾病研究は、従来の医学研究と異なり、学際的な資料・資材・技術を投入しての先端的な生物学的研究が実施されることとなった。一方で先端的テクノロジーの更なる発展には、具体的な疾病研究を通じての絶えまざる問題提起が必須である。そのために本研究においては、先ずそれら生物系特有の研究用資材・資源の開発・保存・供給機能の実態の明確化、及び更なる資材・資源の開発促進のための整備強化方策の研究を行なうと同時に、応用研究現場からのテクノロジー開発への要請との橋わたしを行なう。
研究方法
各々の研究の進捗の整合性をはかり、全体の研究の方向性の調整を主として行った。
結果と考察
結果と考察及び遺伝子資材に関しては、ヒト遺伝子について、米国NCBIによる国際的データーベースdbEST、UniGeneによれば、100万個のESTが登録され3'末端のホモロジーに基づいて約5万個に分類され、うち3万はマッピングされている。これらESTクローンについてはATCC及び民間数社が取り扱い供給体制が確立している。さらに民間により完全長cDNAを開発してATCCが販売するなど機能解析に用いる動きが出ている。英国ではヨーロッパの登録された研究者を対象にUK Resource Centreが供給を行っている。フランスに於いては、複数の民間機関がYACによる遺伝子地図作りを行いほぼ全染色体について完成し、ESTやSTSマップと対応させて統合地図が出き国際的に汎用されている。又、家系DNAについても規模を広げることが計画されている。
日本では厚生省遺伝子バンクにおいて種々のヒト由来の組織からcDNAの断片をライブラリー化しそれぞれのクローンを収集・保管し始めている。
今後の遺伝子資材に関する課題としては、
1. ヒトゲノム計画への積極的参加を行うなかで各種疾病の原因・感受性遺伝子同定にむけたヒト遺伝子の多様性に関する研究を推進する。
2. 疾病遺伝子の単離のみでなく、疾病の起因となる変化解析するためのmutationデーターベース作りを国際的に協力しながら始める。
3. ヒトゲノム解析および遺伝子診断等に伴う社会的諸問題を検討し国民的コンセンサスの為の基準作りを推める。
細胞資材については特に正常ヒト2倍体細胞、初代培養細胞について調査した。プライマリー細胞としては米国の細胞バンクから分離されたWI38細胞が良く知られているが既に寿命が古く枯渇して来たため、我国で確立されたTIG細胞を維持分離して来た。しかしながらこれらの細胞も初代の細胞数が多くないことから代替細胞が必要となり継続的に確立しなければならぬことは明らかである。
また遺伝的マーカーを持った初代培養系については米国のCIMRが大規模なコレクションを有し、我国の研究者も多数寄託している。国内では樹立から分離までをシステムとして把握して研究の対象としている組織は厚生省細胞バンク以外にない。
しかしながら分譲が行われてきたのは繊維芽細胞の初代培養系のみで上皮細胞などの樹立、維持、分譲体制は未だ未整備である。
遺伝子発現ベクターの整備に関しては、バキュロウイルスを用いて、目的とする外来遺伝子を哺乳動物細胞で発現させるために、トランスファーベクターの多角体プロモーターをCAGプロモーターに変更した組み替えバキュロウイルスを作製した。CAGプロモーター下にレポーター遺伝子を組み込み、種々の哺乳動物細胞に感染させ、レポーターの活性を指標に宿主域を検討した。その結果、CAGバキュロウイルスはヒト肝細胞系、サル腎臓系、ブタ腎臓系細胞など多くの細胞系で遺伝子発現が可能であることが確認された。また、感染価を高くしても、感染細胞への細胞障害性は認められなかった。CAGバキュロウイルス発現系は、従来昆虫細胞でのみ活用されていた系を哺乳動物細胞への遺伝子導入技術として発展させたという点で大きな意味がある。
次にC型肝炎ウイルス(HCV)複製機構を解析する系の開発をめざして、T7プロモーターの下流に挿入した完全長のHCV遺伝子からORFを取り除き、代わりにレポーター遺伝子を組み込んだミニジーンプラスミドを構築し、HCVのミニジーンRNAの合成及び、レポーター遺伝子としてのルシフェラーゼ活性を種々の細胞で検討した。調べた細胞のなかで、ヒト肝細胞由来のJH細胞において最も高い活性が得られた。この肝細胞のなかでHCVの転写、蛋白発現が効率よくおこっていると考えられ、培養細胞で効率よく増殖する系を持たないHCVの研究に役だつ、簡便な系が確立された。
更に現在は、テトラサイクリンによって遺伝子の発現を自由に調節できる系を利用して、HCV固有のウイルス蛋白と細胞との相互作用を細胞レベルで開発している。HCVコア蛋白のように宿主細胞に対して多種の影響を持ち、かつ細胞障害性も強いような蛋白の機能を選択的に解析するには非常に有用である。また、レトロウイルスベクターで知られている様に、水疱性口内炎ウイルスのエンベローブ蛋白を粒子表面に被ったシュードタイプバキュロウイルスを作製し、感染効率の向上を試みた。従来のバキュロウイルスに比べて100-1000倍高い発現を示した。また、組織特異的なリガンドを持ったシュードタイプウイルスを作製すれば、ターゲッティングベクターの構築も可能と思われる。
ウイルスベクターの応用範囲は、遺伝子の大量発現や機能解析そして遺伝子治療を目的として、ますます広がっていくと思われる。今後、それぞれのウイルスベクターの特徴を整理し、広く公開することによって、応用体制の整備を進めてゆく必要がある。
現在ヒトの特定疾患としては血液、免疫、内分泌、代謝、神経・筋、感覚系、循環器、呼吸器、消化器、皮膚・結合組織、骨・関節、腎・泌尿器系疾患の37疾患が対象とされている。またCJDが緊急研究班として発足している。
こうした特定疾患に関するモデル動物開発としては、げっ歯類(マウス、ラット)を中心として研究が進められている。しかし、将来はヒトへのデータの外挿を考えると、イヌやサル類のような高等動物でのモデル開発も必要である。
げっ歯類の疾患モデルではトランスジェニック(TG)やノックアウト(KO)マウスの開発研究の進展が著しい。今後こうした傾向がさらに増大するとともにTGマウスの掛け合わせやKOマウスとTGマウスの交雑種、あるいはヒト型疾患遺伝子導入マウスのような複雑化したモデルマウスが登場する事になろう。
こうしたモデルマウスの作製は一部の動物業者や大学で受託開発されるようになっているが、まだ共通研究資源として供給されることはない。個々に開発される研究資源の整備、データーベース化、安定供給のためには、国家プロジェクトとしての位置づけが必要である。
動物個体以外に、凍結胚や配偶子として保存する方法が進められている。しかし、現時点ではげっ歯類(マウス)を除いて、多くの実験動物での配偶子及び胚の凍結保存技術は安定していない。
特定疾患モデル動物の開発状況に関しては37疾患のうちほぼ1/3には、適切なモデル動物が開発されていると思われる。また遺伝子工学や発生工学的手法を用いた、新しい疾患モデル動物の開発が進んでいる。しかし研究資源という点から見ると、国家プロジェクトとしての疾患モデル動物の開発やモデル動物の配偶子や胚の保存や安定供給のための方策は採られていないのが現状であり対応が急がれる。
日本では厚生省遺伝子バンクにおいて種々のヒト由来の組織からcDNAの断片をライブラリー化しそれぞれのクローンを収集・保管し始めている。
今後の遺伝子資材に関する課題としては、
1. ヒトゲノム計画への積極的参加を行うなかで各種疾病の原因・感受性遺伝子同定にむけたヒト遺伝子の多様性に関する研究を推進する。
2. 疾病遺伝子の単離のみでなく、疾病の起因となる変化解析するためのmutationデーターベース作りを国際的に協力しながら始める。
3. ヒトゲノム解析および遺伝子診断等に伴う社会的諸問題を検討し国民的コンセンサスの為の基準作りを推める。
細胞資材については特に正常ヒト2倍体細胞、初代培養細胞について調査した。プライマリー細胞としては米国の細胞バンクから分離されたWI38細胞が良く知られているが既に寿命が古く枯渇して来たため、我国で確立されたTIG細胞を維持分離して来た。しかしながらこれらの細胞も初代の細胞数が多くないことから代替細胞が必要となり継続的に確立しなければならぬことは明らかである。
また遺伝的マーカーを持った初代培養系については米国のCIMRが大規模なコレクションを有し、我国の研究者も多数寄託している。国内では樹立から分離までをシステムとして把握して研究の対象としている組織は厚生省細胞バンク以外にない。
しかしながら分譲が行われてきたのは繊維芽細胞の初代培養系のみで上皮細胞などの樹立、維持、分譲体制は未だ未整備である。
遺伝子発現ベクターの整備に関しては、バキュロウイルスを用いて、目的とする外来遺伝子を哺乳動物細胞で発現させるために、トランスファーベクターの多角体プロモーターをCAGプロモーターに変更した組み替えバキュロウイルスを作製した。CAGプロモーター下にレポーター遺伝子を組み込み、種々の哺乳動物細胞に感染させ、レポーターの活性を指標に宿主域を検討した。その結果、CAGバキュロウイルスはヒト肝細胞系、サル腎臓系、ブタ腎臓系細胞など多くの細胞系で遺伝子発現が可能であることが確認された。また、感染価を高くしても、感染細胞への細胞障害性は認められなかった。CAGバキュロウイルス発現系は、従来昆虫細胞でのみ活用されていた系を哺乳動物細胞への遺伝子導入技術として発展させたという点で大きな意味がある。
次にC型肝炎ウイルス(HCV)複製機構を解析する系の開発をめざして、T7プロモーターの下流に挿入した完全長のHCV遺伝子からORFを取り除き、代わりにレポーター遺伝子を組み込んだミニジーンプラスミドを構築し、HCVのミニジーンRNAの合成及び、レポーター遺伝子としてのルシフェラーゼ活性を種々の細胞で検討した。調べた細胞のなかで、ヒト肝細胞由来のJH細胞において最も高い活性が得られた。この肝細胞のなかでHCVの転写、蛋白発現が効率よくおこっていると考えられ、培養細胞で効率よく増殖する系を持たないHCVの研究に役だつ、簡便な系が確立された。
更に現在は、テトラサイクリンによって遺伝子の発現を自由に調節できる系を利用して、HCV固有のウイルス蛋白と細胞との相互作用を細胞レベルで開発している。HCVコア蛋白のように宿主細胞に対して多種の影響を持ち、かつ細胞障害性も強いような蛋白の機能を選択的に解析するには非常に有用である。また、レトロウイルスベクターで知られている様に、水疱性口内炎ウイルスのエンベローブ蛋白を粒子表面に被ったシュードタイプバキュロウイルスを作製し、感染効率の向上を試みた。従来のバキュロウイルスに比べて100-1000倍高い発現を示した。また、組織特異的なリガンドを持ったシュードタイプウイルスを作製すれば、ターゲッティングベクターの構築も可能と思われる。
ウイルスベクターの応用範囲は、遺伝子の大量発現や機能解析そして遺伝子治療を目的として、ますます広がっていくと思われる。今後、それぞれのウイルスベクターの特徴を整理し、広く公開することによって、応用体制の整備を進めてゆく必要がある。
現在ヒトの特定疾患としては血液、免疫、内分泌、代謝、神経・筋、感覚系、循環器、呼吸器、消化器、皮膚・結合組織、骨・関節、腎・泌尿器系疾患の37疾患が対象とされている。またCJDが緊急研究班として発足している。
こうした特定疾患に関するモデル動物開発としては、げっ歯類(マウス、ラット)を中心として研究が進められている。しかし、将来はヒトへのデータの外挿を考えると、イヌやサル類のような高等動物でのモデル開発も必要である。
げっ歯類の疾患モデルではトランスジェニック(TG)やノックアウト(KO)マウスの開発研究の進展が著しい。今後こうした傾向がさらに増大するとともにTGマウスの掛け合わせやKOマウスとTGマウスの交雑種、あるいはヒト型疾患遺伝子導入マウスのような複雑化したモデルマウスが登場する事になろう。
こうしたモデルマウスの作製は一部の動物業者や大学で受託開発されるようになっているが、まだ共通研究資源として供給されることはない。個々に開発される研究資源の整備、データーベース化、安定供給のためには、国家プロジェクトとしての位置づけが必要である。
動物個体以外に、凍結胚や配偶子として保存する方法が進められている。しかし、現時点ではげっ歯類(マウス)を除いて、多くの実験動物での配偶子及び胚の凍結保存技術は安定していない。
特定疾患モデル動物の開発状況に関しては37疾患のうちほぼ1/3には、適切なモデル動物が開発されていると思われる。また遺伝子工学や発生工学的手法を用いた、新しい疾患モデル動物の開発が進んでいる。しかし研究資源という点から見ると、国家プロジェクトとしての疾患モデル動物の開発やモデル動物の配偶子や胚の保存や安定供給のための方策は採られていないのが現状であり対応が急がれる。
結論
公開日・更新日
公開日
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更新日
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