文献情報
文献番号
199800881A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大野 良之(名古屋大学医学部予防医学)
研究分担者(所属機関)
- 永井正規(埼玉医科大学)
- 稲葉裕(順天堂大学)
- 田中平三(東京医科歯科大学)
- 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
- 橋本修二(東京大学大学院医学研究科)
- 川村孝(名古屋大学医学部)
- 橋本勉(和歌山県立医科大学)
- 能勢隆之(鳥取大学医学部)
- 辻一郎(東北大学大学院医学系研究科)
- 中村好一(自治医科大学)
- 山本正治(新潟大学医学部)
- 青木伸雄(浜松医科大学)
- 豊嶋英明(名古屋大学医学部)
- 松本美富士(豊川市民病院)
- 中川秀昭(金沢医科大学)
- 廣田良夫(九州大学医学部)
- 森満(佐賀医科大学)
- 星恵子(聖マリアンナ医科大学)
- 児玉和紀(放射線影響研究所)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 社会医学研究部門
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口集団内における各種難病の頻度分布を把握し、その分布を規定している要因(発生・発生関連/予防要因)を明らかにすることを通して、難病患者の発生・進展・死亡を防止し、患者の保健医療福祉の各面、さらには人生および生命の質の向上に資するための方策を疫学的手法を駆使して確立すること、および難病の保健医療福祉対策の企画立案と実施のために有用な行政科学的資料を提供し、難病対策の評価にも関わることである。
研究方法
研究はすべてプロジェクト方式とし、研究課題は①構築された特定疾患情報システムの発展的活用、②難病の全国疫学調査の実施と成績報告、③構築された定点モニタリング・システムの具体的運用、④分析疫学研究(症例対照研究)資料の最終分析の実施、 ⑤難病疾患の予後調査の実施と成績報告、⑥難病に共通なQOL研究の最終報告、⑦世界の難病研究の文献検索とレビューによるまとめ冊子の作成、⑧特定疾患難病疫学研究連絡会議の開催、および⑨治療研究対象疾患の見直しに関する調査研究(本年度の単年度研究)と⑩1997年度の医療受給者の全国調査の実施、である。
結果と考察
①について:構築された特定疾患情報システムでは、基礎情報・臨床情報・疫学情報・福祉情報・予後情報・医療費情報および研究協力の同意情報を全国統一的に収集する。しかし、現場における電算機入力作業の問題と全国的実施おける財政的問題が本システムの運用の大きな障害であることが判明したので、本システムの発展的活用のために難病患者のQOLおよび保健福祉サービスへの患者側ニーズ調査を併せて地域ベースで継続的に実施するための「地域ベースにおける難病患者コーホート研究」を企画し、一部実施に移した。
②ついて:本年度明らかにされた年間受療患者推計数(95%信頼区間)は、急速破壊型股関節症650 (500-800)名、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の確実例2,260 (1,900-2,600)名と疑い例680 (520-840)名、抗リン脂質抗体症候群3,700 (3,300-4,000)名、側頭動脈炎690 (400-980)名、特発性副甲状腺機能低下症900 (690-1,100)名、偽性副甲状腺機能低下症430 (330-520)名、自己免疫性(リンパ性)下垂体炎170 (120-220)名、Kallmann症候群80 (50-120)名、家族性中枢性尿崩症90 (45-140)名、原発性アルドステロン症1,450 (1,250-1,650)名、クッシング症候群1,250 (1,100-1,400)名、副腎性preclinicalクッシング症候群290 (230-350)名、アジソン病660 (460-860)名、褐色細胞腫1,030 (860-1,200)名、副腎酵素欠損症(先天性副腎過形成)1,070 (800-1,350)名、先天性アジソン病(先天性副腎低形成)70 (50-100)名、偽性低アルドステロン症1型25 (10-40)名である。
③について:呼吸不全6疾患の患者数の推移を目的にした定点モニタリングの実行可能性が示唆され、実施上の留意点として診断基準と情報提供が挙げられた。神経線維腫症Iの定点モニタリングでは、患者数の推移を目的の場合は実行可能、個々の患者の詳細な情報を含む場合には実施上の対処によりある程度実行可能と判断された。実施上の留意点は協力施設厳格な規定と情報提供であった。特発性大腿骨頭壊死症の定点モニタリングは昨年度に開始され、症例は確実に収集されつつある。
④について:プールドコントロールによる12難病(特発性拡張型心筋症、混合性結合組織病、全身性硬化症、特発性間質性肺炎、フォン・レックリングハウゼン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、後縦靭帯骨化症、膿疱性乾癬、突発性難聴、非ステロイド投与の特発性大腿骨頭壊死症、クローン病)の症例対照研究資料を同一尺度を用いて解析し、発生要因と予防要因についての総括成績が示された。その成績を総合的にみると、多くの難病で洋風食事が発生危険要因で、和風食事が発生予防要因であった。これらは難病発生・再発予防に対して極めて重要な疫学情報の一例である。
⑤について:現在進行中の予後調査の対象難病は、IgA腎症、混合性結合組織病、天疱瘡、特発性間質性肺炎、サルコイドーシス、再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、肝内結石症、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、パーキンソン病、後縦靭帯骨化症である。調査が進行中あるいはデータ収集後間もないので詳細な成績は今後示される。現在までの短期的解析による成績を例示すると、IgA腎症では比例ハザード・モデルによる多変量解析によれば血清クレアチニン値の逆数が低値であることが慢性透析導入の独立したリスク要因であることが明らかとなった。混合性結合組織病の生命予後決定要因は年齢、肺高血圧症、筋炎、腎糸球体病変、リウマチ様関節病変の存在である。特発性門脈圧亢進症の生命予後関連要因は男性、診断時年齢58.3歳、肝炎既往、食道静脈瘤の合併などであり、脾臓摘出が低リスクである。
⑥について:難病患者に共通の主観的QOL測定のための最終的質問項目は、「毎日が楽しいですか」、「まわりの人があなたの病気をどう思っているか気になりますか」、「あなたは今の自分が好きですか」、「将来に希望がありますか」、「病気に対するまわりの人の偏見を感じますか」、「毎日の生活に張り合いを感じますか」、「あなたは生きる目標をもっていますか」、「急に具合が悪くならないかと、いつも心配ですか」、「あなたは今いきいきしていると感じますか」の9項目である。主観的QOL評価尺度のスコアー化は、すべての回答は1.はい、2.いいえ、3.どちらともいえないとし、質問2.・5.・8.では回答(1.2.3.)を得点(0.2.1)、それ以外の質問では回答(1.2.3.)を得点(2.0.1)に変換した後、全質問の得点を合計するという方法で行われる。
⑦について:世界の難病関連(疫学・成因・病理・診断・治療・ケアー・QOL)論文(1986-1996年分)をMEDLINEを利用して検索した文献を利用しつつ単行本を作成中である。
⑧について:本年度は平成10年9月7日に東京にて開催した。連絡会議は全臨床分科会の班長および/あるいは疫学担当研究者と当班の班員および研究協力者全員の出席のもとに開催され、疫学研究班と各臨床分科会とのより一層きめ細かで緊密な連絡・連携のもとに共同疫学研究が実施されきた。
⑨について:本研究課題は本年度単年の研究課題で、現在研究対象となっている118疾患すべてについて、稀少性(患者数)、病因、治療法、日常生活面介助必要者割合、5年生存率、診断基準と重症度基準、ここ10年間の患者数の動向、初診時年齢、入院外来比、通院者の割合、専門医数、就業困難者割合の12項目を各臨床分科会長に質問票調査した。回答の不備などを再調査や追加質問の後、調査資料を整備し、治療対象事業の対象難病の選定方法の原案を提示した。(この研究はエイズ・疾病対策課との共同研究課題である)
⑩について:全国の特定疾患医療受給者の悉皆調査を1997年度分について行うものである。調査は都道府県の難病担当者に依頼した。調査対象は医療受給証を1997年4月1日~1998年3月31日に交付されたすべての者(39疾患)で、調査項目は給付開始年度、受給者番号、性別、生年月日、居住市区町村、保険の種類、入院通院の別、受診医療機関と診療科である。本年度末までに全都道府県の受給者データの電算機入力を終え、明年度に基本集計と受療動向に関する集計など実施し、報告書を作成する。
②ついて:本年度明らかにされた年間受療患者推計数(95%信頼区間)は、急速破壊型股関節症650 (500-800)名、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の確実例2,260 (1,900-2,600)名と疑い例680 (520-840)名、抗リン脂質抗体症候群3,700 (3,300-4,000)名、側頭動脈炎690 (400-980)名、特発性副甲状腺機能低下症900 (690-1,100)名、偽性副甲状腺機能低下症430 (330-520)名、自己免疫性(リンパ性)下垂体炎170 (120-220)名、Kallmann症候群80 (50-120)名、家族性中枢性尿崩症90 (45-140)名、原発性アルドステロン症1,450 (1,250-1,650)名、クッシング症候群1,250 (1,100-1,400)名、副腎性preclinicalクッシング症候群290 (230-350)名、アジソン病660 (460-860)名、褐色細胞腫1,030 (860-1,200)名、副腎酵素欠損症(先天性副腎過形成)1,070 (800-1,350)名、先天性アジソン病(先天性副腎低形成)70 (50-100)名、偽性低アルドステロン症1型25 (10-40)名である。
③について:呼吸不全6疾患の患者数の推移を目的にした定点モニタリングの実行可能性が示唆され、実施上の留意点として診断基準と情報提供が挙げられた。神経線維腫症Iの定点モニタリングでは、患者数の推移を目的の場合は実行可能、個々の患者の詳細な情報を含む場合には実施上の対処によりある程度実行可能と判断された。実施上の留意点は協力施設厳格な規定と情報提供であった。特発性大腿骨頭壊死症の定点モニタリングは昨年度に開始され、症例は確実に収集されつつある。
④について:プールドコントロールによる12難病(特発性拡張型心筋症、混合性結合組織病、全身性硬化症、特発性間質性肺炎、フォン・レックリングハウゼン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、後縦靭帯骨化症、膿疱性乾癬、突発性難聴、非ステロイド投与の特発性大腿骨頭壊死症、クローン病)の症例対照研究資料を同一尺度を用いて解析し、発生要因と予防要因についての総括成績が示された。その成績を総合的にみると、多くの難病で洋風食事が発生危険要因で、和風食事が発生予防要因であった。これらは難病発生・再発予防に対して極めて重要な疫学情報の一例である。
⑤について:現在進行中の予後調査の対象難病は、IgA腎症、混合性結合組織病、天疱瘡、特発性間質性肺炎、サルコイドーシス、再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、肝内結石症、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、パーキンソン病、後縦靭帯骨化症である。調査が進行中あるいはデータ収集後間もないので詳細な成績は今後示される。現在までの短期的解析による成績を例示すると、IgA腎症では比例ハザード・モデルによる多変量解析によれば血清クレアチニン値の逆数が低値であることが慢性透析導入の独立したリスク要因であることが明らかとなった。混合性結合組織病の生命予後決定要因は年齢、肺高血圧症、筋炎、腎糸球体病変、リウマチ様関節病変の存在である。特発性門脈圧亢進症の生命予後関連要因は男性、診断時年齢58.3歳、肝炎既往、食道静脈瘤の合併などであり、脾臓摘出が低リスクである。
⑥について:難病患者に共通の主観的QOL測定のための最終的質問項目は、「毎日が楽しいですか」、「まわりの人があなたの病気をどう思っているか気になりますか」、「あなたは今の自分が好きですか」、「将来に希望がありますか」、「病気に対するまわりの人の偏見を感じますか」、「毎日の生活に張り合いを感じますか」、「あなたは生きる目標をもっていますか」、「急に具合が悪くならないかと、いつも心配ですか」、「あなたは今いきいきしていると感じますか」の9項目である。主観的QOL評価尺度のスコアー化は、すべての回答は1.はい、2.いいえ、3.どちらともいえないとし、質問2.・5.・8.では回答(1.2.3.)を得点(0.2.1)、それ以外の質問では回答(1.2.3.)を得点(2.0.1)に変換した後、全質問の得点を合計するという方法で行われる。
⑦について:世界の難病関連(疫学・成因・病理・診断・治療・ケアー・QOL)論文(1986-1996年分)をMEDLINEを利用して検索した文献を利用しつつ単行本を作成中である。
⑧について:本年度は平成10年9月7日に東京にて開催した。連絡会議は全臨床分科会の班長および/あるいは疫学担当研究者と当班の班員および研究協力者全員の出席のもとに開催され、疫学研究班と各臨床分科会とのより一層きめ細かで緊密な連絡・連携のもとに共同疫学研究が実施されきた。
⑨について:本研究課題は本年度単年の研究課題で、現在研究対象となっている118疾患すべてについて、稀少性(患者数)、病因、治療法、日常生活面介助必要者割合、5年生存率、診断基準と重症度基準、ここ10年間の患者数の動向、初診時年齢、入院外来比、通院者の割合、専門医数、就業困難者割合の12項目を各臨床分科会長に質問票調査した。回答の不備などを再調査や追加質問の後、調査資料を整備し、治療対象事業の対象難病の選定方法の原案を提示した。(この研究はエイズ・疾病対策課との共同研究課題である)
⑩について:全国の特定疾患医療受給者の悉皆調査を1997年度分について行うものである。調査は都道府県の難病担当者に依頼した。調査対象は医療受給証を1997年4月1日~1998年3月31日に交付されたすべての者(39疾患)で、調査項目は給付開始年度、受給者番号、性別、生年月日、居住市区町村、保険の種類、入院通院の別、受診医療機関と診療科である。本年度末までに全都道府県の受給者データの電算機入力を終え、明年度に基本集計と受療動向に関する集計など実施し、報告書を作成する。
結論
本研究班の性格(横断班)とその本来的研究目的のために研究課題は多種多様である。そのため研究はすべてプロジェクト方式とし、厚生省エイズ・疾病対策課および臨床研究班(分科会)と緊密な連絡・連携をとりながら研究を進めてきた。プロジェクト研究課題は方法論的に異質であるので各研究課題の進捗程度も異なるが、いずれも着実に進捗した。上記した成績はいづれも、難病患者の医療・福祉・保健サービスの向上とわが国における難病対策の基本的資料として欠くことのできないものであると考える。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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