特発性大腿骨頭壊死症

文献情報

文献番号
199800873A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性大腿骨頭壊死症
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
二ノ宮 節夫(埼玉医科大学整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 高岡邦夫(信州大学整形外科学)
  • 居石克夫(九州大学病理学)
  • 糸満盛憲(北里大学整形外科学)
  • 長澤浩平(佐賀医科大学内科学)
  • 松野丈夫(旭川医科大学整形外科学)
  • 廣田良夫(九州大学公衆衛生学)
  • 松本忠美(金沢大学整形外科学)
  • 渥美敬(昭和大学整形外科学)
  • 大園健二(大阪大学整形外科学)
  • 久保俊一(京都府立医科大学整形外科学)
  • 野口康男(九州大学整形外科学)
  • 樋口富士男(久留米大学整形外科学)
  • 長谷川幸治(名古屋大学整形外科学)
  • 入佐隆彦(九州大学整形外科学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 骨・関節系疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究方法
結果と考察
【当該研究期間における主な研究の概要及び成果】
1.腎移植における症例・対照研究
特発性大腿骨頭壊死症(ION)の患者ではアルコール愛飲歴を有する者、ステロイド服用歴を有する者、両者の既往を有しない者がそれぞれ1/3ずつであることが報告されたが(1)、その後、ステロイドの服用歴を有する者の割合が増加している(2)。アルコールとIONの関係については、週当りエタノール摂取量が400mlを越えるとリスクが10倍に増大すること、またそのリスク増大には明瞭な量反応関係を認めることを明らかにしている(3)。一方、ステロイドと本疾患との関連を明らかにする目的で、SLE患者を対象に症例・対照研究をしたところ、最も強い関連を示すのは1日平均投与量であり、16.6mg以上はそれ未満に比べて約4倍のリスクの上昇を認めた。一方総投与量はリスクにあまり関連しないという結果を得た(4)。今期は腎移植を取り上げて症例・対照研究を行い、ステロイドとの関連をしらべたが、SLEと同様に1日平均投与量は明らかな関連を認め、約5倍のリスクを認めたが、総投与量や1日最高投与量との関連は認めなかった(総括研究報告概要参照)。このような事実から、ステロイド剤による特発性大腿骨頭壊死症の発生は大量のステロイド投与の後には速やかに維持量に減量することによってある程度防止できることがわかった。また、その後、維持量の投与を長期間続けても特発性大腿骨頭壊死症の発生率を増加させるものではないことがわかった。これはSLEにおけるステロイド治療開始後、あるいは腎移植後の特発性大腿骨頭壊死症の発生が数カ月以内という極めて早期に起こる事実と符合するものである(5),(6)。
2.急速破壊型股関節症(RDC)の症例の集積と解析
明らかな誘因がなく、しかも急速に大腿骨頭の破壊、寛骨臼の破壊が生じる急速破壊型股関節症(RDC)の存在が知られている。エックス線像上、大腿骨頭の破壊は特発性大腿骨頭壊死症と類似するがより広範であり、かつ寛骨臼にも高度の破壊を生じるため、人工関節置換術以外に治療法がない。本疾患の疫学、病態を明らかにし、また特発性大腿骨頭壊死症との関連を調べるため、班員施設からの症例を集積して検討することにした。
登録された症例は65例 (男9例、女56例)で、年齢は51-83歳であった。股関節痛の発症から関節破壊までの期間は1年以内が49例(75.45%)であった。大腿骨頭の破壊は1/3(17股 )、1/2(13股 )、1/2以上(14股 )、完全消失(21股 )で、極めて高度の破壊消失が特徴的であった。寛骨臼の破壊は臼蓋拡大型(32股 )、荷重部破壊亜脱臼型(21股)、混合型(12股)に分類された。エックス線学的に骨量を検討したが、高齢者の女性に好発するとはいえ、RDCは骨量の減少を背景とする病態ではない可能性が示唆された。血液生化学的にも際立った異常所見は示さなかった。従来報告されているよりも関節破壊にいたる期間が長い亜急性型の存在が明らかとなった(7)。
3.急速破壊型股関節症の全国疫学調査
エックス線学的に高度な関節破壊を急速に生じる本疾患は稀なるが故に、その疫学、病態に関する報告は世界的にもない。そこで、全国疫学調査を実施することにした。「特定疾患に関する疫学調査班」において確立されたプロトコールに従って実施された(総括研究報告概要参照)。1997年における年間全国病院受療患者数は650人(95%信頼区間
500-800)と推計された。この値は特発性大腿骨頭壊死症患者数の約1割弱に相当する。高齢の女性に好発すること、男性の罹患年齢が約5歳若いこと、血液検査所見で女性例に赤血球数低値がみられる以外著しい異常はみられないこと、などの所見から特発性大腿骨頭壊死症とは病像がかなり異なることが判明した。
4.骨髄移植後の特発性大腿骨頭壊死症
現在まで骨髄移植後の特発性大腿骨頭壊死症の発生についての報告はない。そこで、名古屋骨髄移植グループの協力を得て、骨髄移植例を対象にエックス線検査、MRI検査を行い、特発性大腿骨頭壊死症の検索を行った。症例は60例で、移植時年齢は16~50歳、基礎疾患は慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病が全体の76%を占めていた。壊死は14例(23.3%)に認められ、両側発生例が3/4を占めていた。壊死群の移植時平均年齢は26.1歳であった。壊死群では急性・慢性GVHD、出血性膀胱炎が高率に発生し、パルス療法の施行率が極めて高かった(壊死群81.8%、非壊死群14.7%)。これらの事実をさらに究明するため、現在予見的研究を開始している(8)。
5.多発性骨壊死例の集積と検討
特発性骨壊死は大腿骨頭に好発するが、肩関節(上腕骨頭 )、膝関節(大腿骨顆部)、距骨などに多発する例が報告されている(9)。このような多発例の病態、病像を調査して大腿骨頭単独発生例との差を解明することが、本症の成因の解明に迫る一手段となりうる可能性がある。現在までに班員施設から55例の多発例が報告された。39例(70.9%)は股関節と膝関節の組み合わせであった。また、ステロイド使用例が47例(85.5%)と大多数を占めていた。今後、これらの症例を使い、症例・対照研究を計画している。
6.治療成績の検討
可及的に大きな母集団で、かつ、長期の術後成績、エックス線学的成績、患者のADL評価を検討し、その手術適応を明らかにして的確な治療指針を確立することが重要と考える。調査対象施設数を増やして重点研究として多施設共同研究が開始されたので、その研究に委ねることにした。
7.予防薬の検討
特発性大腿骨頭壊死症はSLEのステロイド治療に関連して出現する重要な合併症の1つであり、MRI検査によれば、その発生率は30~40%であり、発症率は10%と思われる(10)。従って、この合併症の予防は患者のADLを考えると重要である。SLEに対する初期ステロイド大量投与に起因する血液凝固異常や血管の異常が特発性大腿骨頭壊死症の発生要因の1つであることが示唆されている(11)。そこで、予見的に抗凝固薬による予防効果を検討した。現在までの結果はワーファリン使用により特発性大腿骨頭壊死症が発生しても壊死範囲が小さく、発症に至らない可能性が示唆された(総括研究報告概要参照)。
8.動物実験モデルによる原因の究明
当研究班で開発した動物実験モデルは、①家兎への馬血清注射によるArthus反応を応用した血清病型骨壊死モデル(12、13)、②Schwartzman反応にステロイドを併用する家兎モデル(14)、③大量のmethyl-predonisolone1回投与による家兎モデル(15)、である。これらの動物実験モデルを用いて骨壊死病変の病理組織学的検討、高脂血症抑制剤や免疫抑制剤投与による骨壊死発生抑制の実験が行われた。(総括研究報告概要参照)。
結論
【残された課題】
1. 動物実験モデルを使用した特発性大腿骨頭壊死症の病因解明と発生抑制実験
確立された動物実験モデル、特にステロイド1回大量投与モデルを用いることにより病因の解明に迫ることができるだけでなく、高脂血症抑制剤(Probucol、など)や免疫抑制剤(FK506,Cyclosporine、など)を投与することによって特発性大腿骨頭壊死症の発生抑制を証明できる可能性がある。これは発症後の手術による治療ではなく、内科的治療への道を開くものである。
2. 多発性骨壊死例に対する症例・対照研究
55例の多発性骨壊死症例が集積されたので、これを用いた症例・対照研究を行い、病態や危険因子を明らかにしたい。これはまた、臨床面から特発性大腿骨頭壊死症の病因の解明につながる研究と考える。
3. 骨髄移植後の特発性大腿骨頭壊死症発生に関する予見的研究
今後、ますます臓器移植が盛んになることが予想されるが、その結果として発症する特発性大腿骨頭壊死症は患者のADLを極めて損なうものである。骨髄移植では特発性大腿骨頭壊死症の両側発生例が極めて高率であり、かつ、主として若年者がこの治療の対象となっていることは誠に問題である。今後、骨髄移植例での予見的研究を進める必要があろう。
4. 予防薬の検討
SLEに対する抗凝固薬の使用による予見的研究を継続し、症例数を増やしてその発症予防効果が確認できれば、内科的治療にとって多大の貢献が期待される。
5. 病型分類と予後に関する研究
現在、病型は大腿骨頭表面の壊死病巣の範囲から分類されているが、壊死の深さがその予後に大きく関係すると思われる。手術適応を考慮する際にも重要な要素になりうると考えられる。そこで、登録された多数の症例を用いて、病巣の位置と深さを考慮した新しい病型分類を作成したい。
6. 一般向けの解説書の作製
特発性大腿骨頭壊死症の病態、診断、治療、予後、再診の研究成果を記載した一般向けの解説書の発行を行う。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)