脊柱靭帯骨化症

文献情報

文献番号
199800872A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
原田 征行(弘前大学医学部整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 河合伸也(山口大学)
  • 黒川高秀(日本医科大学)
  • 神宮司誠也(九州大学)
  • 三木哲朗(愛媛大学)
  • 岡島行一(東邦大学)
  • 守屋秀繁(千葉大学)
  • 酒匂崇(鹿児島大学)
  • 井形高明(徳島大学)
  • 今給黎篤弘(東京医科大学)
  • 植山和正(弘前大学)
  • 金田清志(北海道大学)
  • 佐藤光三(秋田大学)
  • 嶋村正(岩手医科大学)
  • 園田俊郎(鹿児島大学)
  • 玉置哲也(和歌山医科大学)
  • 中村孝志(京都大学)
  • 馬場久敏(福井医科大学)
  • 飛騨一利(北海道大学)
  • 藤村祥一(慶応義塾大学)
  • 藤原奈佳子(名古屋市立大学)
  • 米延策雄(大阪大学)
  • 藤井克之(東京慈恵会医科大学)
  • 井ノ上逸朗(群馬大学)
  • 岩田久(名古屋大学)
  • 猪子英俊(東海大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 骨・関節系疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト遺伝子解析から脊柱靭帯骨化原因遺伝子を同定する。また複合遺伝子の関与が考えられコラーゲン11A2遺伝子近傍に原因遺伝子を求める。研究班員を3つの研究グループ、すなわち遺伝子研究グループ、骨形成研究グループ、臨床研究グループ(頚髄症調査研究グループ、胸髄症調査研究グループ)に分けて、班員協力の下に研究を行う。EBMに基ずく脊柱靭帯骨化症の重症度を5段階分類を行う。
研究方法
結果と考察
研究の成果
1 遺伝子解析
1)ヒト遺伝子解析
・OPLL患者の性差による遺伝的背景の検索からコラーゲン11A2遺伝子は男性患者の発症と密接に関係した。(酒匂、古賀)
・候補遺伝子の異なる19の遺伝子変異コラーゲン11A2に見いだし、患者対照群とでは、イントロン6に存在する変異で最も高い有意差を有していた。(井ノ上、酒匂、古賀)
・ゲノム全域での連鎖解析によるOPLLの遺伝子同定を行い、コラーゲン11A2変異について患者対照群で関連試験の結果、5ヶ所の変異で強い有意差を得た。最も強い連鎖を認めたD6S276で検出した。(井ノ上、原田、猪狩)
・ヒト第6染色体p21,3-22領域の構造解析で、D6S276を含んだ150kbの領域をカバーし、周辺領域について相関解析と物理地図を作成中である。(猪子、園田)
・鹿児島地域の健常者とOPLL患者の白血球DNAを抽出した。OPLLの新規リスク座を探索したが、3p領域にOPLLの新規リスク座位は見いだされなかった。(三木)
・ヒト黄色靭帯靭帯骨化および骨折仮骨から得た脱灰標本から、骨折治癒や靭帯骨化において、軟骨細胞様細胞に於けるCDMP遺伝子発現が軟骨の増殖や過形成に関与している可能性がある。(米延)
2)動物の遺伝子解析
・ラットの培養骨芽細胞および骨折仮骨において骨芽細胞分化の初期にpro-a2(X1)collagen 遺伝子を発現していた。骨芽細胞のexon6-8 splicing pattern は軟骨細胞のそれとは異なっていた。( 神宮司)
・マウス脊椎成長課程および骨折治癒過程におけるX1型コラーゲン遺伝子発現の発現様式はα1鎖、α2鎖で異なっていた。骨芽細胞のα2鎖遺伝子発現は未熟な段階に限られ、exon6-8の部位の関与が推察された。(米延)
・モデルマウスの頸椎変形性変化発症過程で椎間板隅角の細胞に発現したBMP-6, PTHrP,osteopontinが関与していた。(米延)
2 骨形成因子
・ヒト黄色靭帯靭帯摘出標本では加齢とともにインテグリンα2が減少していた。(河合、森信)
・マウス関節症モデルで靭帯付着部骨化は、骨化過程の早期からIGF-1が発現し、骨化刺激因子として働いている可能性が示唆された。(神宮司)
・OPLL患者に経口糖負荷試験の結果、インスリン分泌の亢進がOPLLの発現・進展に関与している事が推察された。(川口、黒川、中村) 
・培養靭帯細胞からレプチンが直接骨化進展に関与している可能性があった。(守屋、山崎)
・OPLL女性ではレプチン抵抗性が生じ血清レプチンおよびインスリン濃度が上昇した。(河合、白倉)
・OPLL女性の血中レプチンは高値でまた摘出靭帯にレプチン受容体遺伝子が発現していた。レプチンが直接靭帯細胞に作用し骨化の発生・進展に関与している可能性があった。(相場、守屋)
・マウスでMC3T3-E1細胞でレチノイン酸は増殖を抑制し、分化・成熟を促進した。(永澤、佐藤)
・ヒト脊柱靭帯、筋組織からえられたnogginは靭帯骨化に抑制的に作用していた。(松下、中村)
・ヒストン蛋白のアセチル化作用をもつp300転写因子と複合体を形成する RXR,RARは様々な遺伝子発現に関与していると言われている。ヒストン蛋白のアセチル化はALP活性に関与していた。(南、玉置)
・頸椎黄色靭帯に認めたBMP isoform とreceptorは骨化群、非骨化群に認められ,明らかな差はなかった。(嶋村)
・OPLL患者の骨化部位と非骨化部位におけるNKκBは、PDGF -βや PDGF-ABと同様に共通の細胞内伝達経路を介して骨化発症に関係していた。(小坂、今給黎)
・OPLL患者では細胞性免疫能の低下があり、CD4陽性細胞の関与が推定された。(安田、岡島)
3 細胞基質
・摘出黄色靭帯靭帯のプロテオグリカン分析で既知の物とは異なるスモールプロテオグリカンが見いだされた。分子サイズは85000Daでデコリンと同程度であった。アミノ酸配列は一部はチロシンキナーゼと相似性を示し、膜貫通性の情報伝達に関与している物と推察できた。(湯川、原田、植山)
・骨化過程に於けるコラーゲン代謝は、微小血管新生をともなった分子種ならびに分子内に生じる旺盛な変化が、骨化の進展に関与していた。(藤井)
4 慢性脊髄圧迫の実験的研究
・マウス慢性脊髄圧迫では前角細胞機能を反映するコリン・アセチル基転移酵素(CAT)は脊柱管狭窄が進行するほど減少していた。(藤村)
・TWYマウスの慢性脊髄圧迫で、脊髄の生存、維持の機序は神経細胞自体がBDNF,NT-3を産生し、その受容体発現も増加させる。(内田、馬場)
・OPLL患者の髄液のグルコース代謝を高分解能PET(18FDG-PET)で観察した。頚髄圧迫の重症度とグルコース標準平均摂取量とは相関した。(馬場)
5 その他の実験的研究
・db/dbマウスでは8ケ月令までは明らかな骨化は認められなかった。(中島、守屋)
6 臨床的研究
・MRI画像で脊髄変形をboomerang型、 triangle型 、tear-drop型に分類した。 boomerang 型、 tear-drop型は手術後脊髄横断面の改善、症状改善へと反応した。(松山、岩田)
・多椎間での圧迫性脊髄障害に於ける責任高位診断に、画像診断と、電気生理学的診断が有用であった。(窪田、玉置)
・OPLL患者は軽微な外傷で重篤な頚髄損傷を来す。手術的治療で改善する可能性があった。(小柳、阿部)
・術後10年以上経過したOPLL患者では脊柱管拡大術の成績が安定していた。(井尻、酒匂)
・頸椎OPLLの10年以上経過中の骨化の進展について検討した。(梶浦、井形)
・胸髄症の術後QOLは班員分担で207例について検討した。(金田、胸髄症研究グループ)
・胸椎OPLLに対する手術的治療法は未だ確立されていない。後方経由前方除圧が 有用であった。(鐙、金田)
・頸椎OPLLの手術例を班員が分担協力した。262例の術後QOLを検討した。(藤村、頚髄症研究グループ)
・OPLL患者のADLとQOLに関して班員の協力のもとに、467名の患者から414名(88.8%)の高い回答率を得た。アンケート調査の分析を行い、その結果をまず患者サイドへのフィードバックとして返送した。(藤原、班員)
7 その他
頚髄症、胸髄症の重症度をJOAスコアから5段階に分類した。本疾患治療効果を具体的に評価し、重症度を分類することによって患者はじめ一般への理解度が深まるものと期待できる。また治療効果が数値で明らかとなりEBM(Evidence Based Medicine)にもかなう。
8 まとめ
班員各自年度計画書に添った研究を行い成果を得た。班員は遺伝子研究グループ(グループ長・・酒匂)、骨形成研究グループ(グループ長・・黒川)、臨床研究班・頚髄症調査研究グループ(グループ長・・藤村)、・胸髄症調査研究グループ(グループ長・・金田)、にそれぞれ関連する班員が所属して共同研究を行いその成果は班総会で発表された。
さらに疫学横断調査研究班との共同研究で班員および班員の関連病院で診療したOPLL患者の1)重症度スコアと患者の主観的病状把握、2)QOL,3)糖尿病既往について調査した。今年度中に患者にフィードバック出来る予定である。
頚髄症・胸髄症の重症度をJOAスコアから5段階に分類し、治療効果を客観的に分かりやすくした。またこの分類は患者には治療効果を理解し易くしており、また治療関連施設が整形外科、脳神経外科、神経内科、ならびにリハビリテーション、およびコメデカルにも治療方針と、治療効果、術後経過観察に一連の判定基準に基づいて判定可能であり、また評価も行うことが出来る。
結論

公開日・更新日

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