混合性結合組織病

文献情報

文献番号
199800870A
報告書区分
総括
研究課題名
混合性結合組織病
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
東條 毅(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本尚(名古屋市立大学)
  • 三森経世(慶応義塾大学)
  • 鳥飼勝隆(藤田保健衛生大学)
  • 国枝武義(慶応義塾大学)
  • 近藤啓文(北里大学)
  • 原まさ子(東京女子医科大学)
  • 高崎芳成(順天堂大学)
  • 湯原孝典(筑波大学)
  • 大久保光夫(埼玉医科大学)
  • 三崎義堅(東京大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 皮膚・結合組織疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.プロジェクト臨床研究
1)MCTDの自然歴の解明 : MCTD 304例、全身性エリテマトーデス(SLE)104例、全身性強皮症(SSc)85例、多発性筋炎・皮膚筋炎(PM・DM)85例の臨床経過調査票も回収されているので、これらを解析して、MCTDの自然経過を明らかにする。
2)MCTDの肺高血圧症の臨床病態の解明と治療法の開発 : 肺高血圧はMCTDの主死因とされるが、その臨床病態の特徴は把握されていない。この点を解明して、肺高血圧の治療指針を立てる。
2. 難病の疫学班との協同研究
1)MCTDの生命予後調査 : 生命予後調査票を最終集計し予後規定因子を解明する。
2)膠原病4疾患における肺高血圧症の合併頻度に関する全国疫学調査 : SLE、SSc、PM・DMと比較して、MCTDで肺高血圧症がより高率かを全国疫学調査で明らかにする。
3.抗U1RNP抗体検出法の問題点の検討
現在のELISAのリコンビナント蛋白抗原の問題点を探り、改良の方向を示す。
4.抗U1RNP抗体の産生機序および病態形成機構の解明(各個研究)
MCTDの免疫学的特徴は、抗U1RNP抗体の持続的な産生にある。その産生機序と病態形成への関与の解明は、病因・病態の解明への有力な手掛かりとなり得る。また新しい治療法の導入にも繋ぎうる。同抗体産生の免疫遺伝学的要因を探り、持続的な抗体産生の背景となる遺伝子発現機構を解明する。
研究方法
プロジェクト臨床研究と各個研究に分けて研究を進めた。また難病の疫学調査研究班との協同研究により、全国疫学調査を郵送法で行った。
結果と考察
1.プロジェクト臨床研究の成果
1)MCTDの自然歴の解明 (近藤、東條)
MCTD 304例(観察期間8.6±5.1年)を同様の観察期間の対照群(SLE 112, SSc 95、PM・DM 101例)と比較し、本症は他とは異なる特異な臨床経過を辿ることが示された。発症初期の炎症性病変は経過とともに減少し、SSc病変は増加したが、その割合は高くない。本症に特徴的な手指・手背腫脹は、長く高率に持続した。肺高血圧症の頻度は経過とともに増加した。MCTDの長期経過成績はなく、本成果は重要である。多変量解析でも抗U1RNP抗体陽性と特異的所見とが共通するクラスターが分離された(湯原)。
2)MCTD肺高血圧症の臨床病態と治療
肺高血圧を合併するMCTD 105例の予後調査で、「予後不良群」36例、「比較的予後良好群」30例が把握された。多変量解析で、肺高血圧自体の重篤度、関節炎、筋炎、肺拡散機能障害、等が予後規定因子として抽出された(鳥飼)。精査しえた14例では、5例(36%)が慢性マクロ血栓塞栓性肺高血圧症と分類された(国枝)。しかし膠原病診療科では、肺血流シンチ等の実施例が少ない実態も明らかにされた。今後はその診断精度を高める必要がある。また、MCTD肺高血圧症の治療概要と治療指針とが示された(国枝)。
2. 難病の疫学班との協同研究の成果(東條、鳥飼)
1)MCTDの生命予後調査 : 1992年の全国疫学調査850例の5年後を追跡調査し、最終的に798例(回収率93.9%)の生命予後とその規定因子を明らかにした。
2)膠原病4疾患における肺高血圧症の合併頻度に関する全国疫学調査 : 全国疫学調査により、膠原病4疾患の17793例が把握され、肺高血圧症例は284例であった。合併率はMCTDで3.94%、SScで1.91%、SLEで1.06%、PM・DMで0.70% となり、MCTDでの比率が有意に高いことが明らかにされた。また、分科会員の所属施設での平成10年8~9月の2月間の受診全患者調査を行い膠原病性肺高血圧46例が把握されたが、 MCTDでの合併率が有意に高値であった。これらの成果は、これまでにない新しい成績である。
3. 抗U1RNP抗体検出法の問題点の検討
蛋白抗原を現在のβ-galactosidase融合蛋白から、His tagged 蛋白に変更し、さらに発現系を工夫すれば、よりよいELISAの開発が可能であることが示された(東條)。
4.抗U1RNP抗体の産生機序・病態形成機構の解明(各個研究)
三崎はトランスジェニックマウスを樹立し、U1RNPに対する自己免疫応答と病像形成機構の解明を進めた。また正常マウスにおいて、樹状細胞によって免疫寛容が破られうることを示した。通常の免疫応答は特に異常でないMCTD患者においても、何らかの機会にU1RNPが放出され、樹状細胞によって抗原提示される状態が生じれば、抗U1RNP抗体が出現する可能性があることを示唆している。
大久保は、U1RNP-A分子のT細胞エピトープには、U2RNP-BB"分子内にホモロジーのあることを示した。これより抗体の持続産生の機序を検討するために、その合成アミノ酸でT細胞レセプターを解析した。自己反応性T細胞はこのホモロジーを持つエピトープが互いのアナログとなるためにアネルギーに陥り難く、抗体持続産生となると推測した。
高崎はMCTDのB細胞上にCD80とCD86のcostimulatory molecules が発現し、T細胞上にも発現していることを明らかにしてた。抗CD80モノクローナル抗体は抗U1RNP抗体の産生を抑制することをスキッドマウスで示した。
三森はHLA-クラスⅡ遺伝子と抗U1RNP抗体の抗原エピトープ反応性との関連をみたが、顕著な相関は認められなかった。抗U1RNP抗体産生はエピトープ反応性に関わらず、共通する免疫遺伝学的要因で規定されていると推測している。
NF-κBのp65 sububit は53BP2 と結合して、53BP2 によるアポトーシスを抑制する。この53BP2遺伝子の染色体局在領域は、米国で家族性SLEの解析から得られた疾患感受性遺伝子座位と重なっていた。そこで岡本はMCTD家族発症例で遺伝子解析を試みたが、変異は認められなかった。
MCTDの血管病変の病態解析の成果として、エンドセリン1(ET-1)とそのレセプター(ET-1-RB)およびムスカリン様アセチルコリンレセプターを指標に、培養肺動脈内皮に対する血清因子の関与が推測された(鳥飼)。 ET-1の血中濃度はMCTDとSScで上昇しているが、一酸化窒素(NO)濃度はMCTDが強皮症より高い(原)。
5. MCTDの重症度基準が作成された。
結論
MCTDはSLE,SScおよびPM・DMとは別個に分類されるべき疾患単位と考えられる。本症が混合・重複の観点から捉えられてきたために、疾患概念が確立されなかった。疾患分類は結局は患者のためのものである。肺高血圧症という重篤な合併症が有意に高率に起こるMCTDを分類することは、臨床的な意義が大きい。

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