強皮症

文献情報

文献番号
199800869A
報告書区分
総括
研究課題名
強皮症
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
新海 浤(千葉大学皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡清(東京医科歯科大学皮膚科)
  • 片山一朗(長崎大皮膚科)
  • 岩本逸夫(千葉大学第二内科)
  • 石川治(群馬大学皮膚科)
  • 水谷仁(三重大皮膚科)
  • 畑隆一郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 稲垣豊(国立金沢病院内科)
  • 竹原和彦(金沢大学皮膚科)
  • 藤原作平(大分医科大学皮膚科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 皮膚・結合組織疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
強皮症は疾患の概念・診断基準は国際的にもほぼ確立しているものの、その病因は不明で随伴する症状が多彩であるため、各症状に対応した治療が行われているのが現状である。本研究の目的は本症の病因・病態解析と相まって、初期病症のマーカーや、リスクファクターを捉え、各病期に応じた線維化防御の治療の道を開くことである。本症の本態が皮膚、肺を始めとした結合組織の線維化であり、免疫異常を基盤とした細胞外マトリックスの異常蓄積と考えられているが、詳細な病態解析の必要がなお必要である。
研究方法
①免疫機構、T細胞の関与と線維芽細胞の活性化の関連。②線維化誘導とケモカイン、サイトカインの役割。③コラーゲン線維化機構の解明。④モデルマウスの開発とこれを用いた、コラーゲン線維化予防・治療剤の開発。
結果と考察
免疫異常と組織線維化の関連:1. 強皮症では末梢血のCD4-、CD8- (double negative) T細胞がクロナールに増殖し、CD4-、CD8- T 細胞はPHA刺激によりIL-17を分泌する。 強皮症の末梢血の単核細胞はPHA無添加においてもIL-17の発現が見られ、皮膚、肺にも同T-細胞の高度な浸潤とIL-17の発現が亢進していることが判明した。IL-17は細胞増殖を促進し、血管内皮細胞のアポトーシスの阻害、IL-6, IL-1b等の炎症性サイトカインの産生を誘導し、ICAM-1,VCAM-1の発現を誘導したことから強皮症の病態形成に関わっていることが判明した。
2. 強皮症の病態と 細胞外マトリックス関連遺伝子発現:強皮症の硬化した線維は可溶化することが困難であることから,コラーゲンの分子間架橋を検討した結果histidinohydroxylysinonorleucineは正常の約2倍に増加していることが判明した。 本症特有の硬化した線維を構成する細胞外マトリックスの各病期の変化は、病期初期で細胞外マトリックス関連遺伝子の発現は,マトリックス成分が蓄積する方向に傾いていることが判明した。すなわちコラーゲン、デコリン、コラゲナーゼ阻害分子(TIMPs) の遺伝子発現は亢進し、コラゲナーゼ遺伝子の発現は抑制されていた。コラーゲン前駆体の細胞内輸送に関連するheat shock protein 47はコラーゲン遺伝子発現と相関し、強皮症では両遺伝子、タンパク質の発現は亢進し、heat shock protein 47もTGF-β, IL-4によりその遺伝子発現は増加し, インターフェロンーγ により発現が抑制されることが判明した。 以上のことからインターフェロンーγ も本症の病期により治療薬として、線維化予防に用いれれる可能性を見出した。 本症病変初期の皮膚ではTGF-β, PDGF, IL-4が発現し、TGF-β, PDGF, IL-4のサイトカインはコラーゲン遺伝子の発現亢進、コラゲナーゼ遺伝子の発現抑制を来すことが判明した。これら遺伝子発現はp38MAPKのリン酸化を介して調整されることも判明した。 強皮症や肥厚性瘢痕では本研究班で見出したデルマトポンチンの遺伝子発現が著しく低下し、本タンパク質はTGF-β, PDGF, IL-4と結合する事が判明した。 このタンパク質は血清中にも存在することが判明したので、本分子の血清中の定量化が成功すれば、初期診断に有効と考えられた。
3. コラーゲン遺伝子と強皮症発症のリスクファクター:I 型コラーゲンを構成するCOL1A2鎖遺伝子の転写制御配列に2つのマイクロサテライトの存在と、これらのマイクロサテライトの組み合わせがCOL1A2鎖遺伝子の転写を活性化することが判明した。 強皮症患者のゲノムの解析からトポイソメラーゼ抗体を有する男性患者で、これらのマイクロサテライトの組合せの分布が正常と異なり、転写促進活性の高い組合せが正常人より有意に多いことが判明した。この結果はCOL1A2鎖遺伝子の転写制御配列に見出されたマイクロサテライトは単なる遺伝子多型ではなく、強皮症のリスクファクターの一つであることが示唆された。
4. 臓器によるコラーゲン遺伝子転写の差異:強皮症は全身臓器の線維症をしばしば合併するが、肝の線維化を伴うことは稀である。皮膚線維芽細胞と肝実質細胞におけるI型コラーゲン遺伝子の転写調節機構の差異について、線維芽細胞ならびに肝細胞から核タンパクを抽出し、コラーゲン遺伝子上流-313から-286塩基間に結合するSp1が両細胞種間で共通して認められたのに対して、-271から-255塩基間に結合するSp1のco-factorには両細胞種間で差異が認められた。このco-factorがSp1の転写促進作用を調節している可能性が示唆された。すなわち肝実質細胞におけるCOL1A2発現の相対的低下ならびにTGF-β反応性の欠如が、少なくとも一部においては、TbREに結合する核タンパクの細胞種特異的な修飾に基づく可能性が示唆された。
5. 皮膚硬化症モデルの開発:マウスにTGF-βを投与することにより肉芽形成、線維化誘導を惹起せしめることが判明し、ことにTGF-β 2, 3に顕著であり、TGF-β単独では、線維化持続は出来ないが、FGFを加えることにより、CTGFの発現が持続し、線維化が促進されることが判明した。 ブレオマイシンの皮下反復注射による皮膚硬化は、病理組織学的に強皮症の皮膚硬化と極めて類似する所見を呈し、その発症機序にスーパーオキサイドが一部関与していることが示唆された。 皮膚硬化過程のサイトカイン発現の検討から、皮膚硬化形成初期にPDGFが作用し、続いてTGF-βが作用することが明かとなった。
6. 治療法開発:TGF-β産生に抑制的に働くMannose-6 phosphateをブレオマイシン誘導硬化マウスに投与し、ペプシン消化コラーゲン量の減少、真皮膠原線維の肥厚の改善が見られた。 長時間作用型ソマトスタチンアナログでIGF-1と拮抗的に働くOctreotide acetateを100ng/日のマウス硬化性病変部位に7日間連続投与すると、真皮肥厚の有為な減少を見出した。組織中のヒアルロン酸の増加を認めたが、デルマタン硫酸は有為な変化を認めなかった。ブレオマイシン誘導後の線維化組織にたいして、インターフェロン α, γ の投与では前者は後者に比べてコラーゲンの膨化・肥厚、均質化の緩和効果は弱く、後者は皮膚硬化の所見は消失させるが、著明な炎症細胞浸潤に伴う線維芽細胞の増生がみられ、やがて線維化過程に移行することが考えられた。限局性強皮症患者に同意を得て、局所投与(100g/日を1回/2週間)を試み、約5回の投与後より皮膚の硬化性病変は臨床的、病理組織学的に著しい改善を示した。 強皮症治療に有効であるトコレチネートはテネイシン発現を介した線維芽細胞の収縮抑制だけでなく,MMP7の誘導を介した組織再構築を促進して皮膚硬化を改善することが示唆された。
結論
T細胞の関与と線維芽細胞の活性化の関連、線維化誘導とケモカイン、サイトカインの役割、コラーゲン線維化機構の解明、モデルマウスの開発とこれを用いたコラーゲン線維化予防・治療剤の開発が施行されたが、なおこの成果をもとにさらなる詳細な研究成果が待たれる。

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