文献情報
文献番号
199800868A
報告書区分
総括
研究課題名
稀少難治性皮膚疾患
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小川 秀興(順天堂大皮膚科)
研究分担者(所属機関)
- 大河原章(北海道大)
- 金田安史(大阪大遺伝子治療)
- 田上八朗(東北大)
- 玉井克人(弘前大)
- 西川武二(慶応大)
- 吉仲由之(医科歯科大疾患遺伝子)
- 北島康雄(岐阜大)
- 飯塚一(旭川医大)
- 池田志斈(順天堂大)
- 小澤明(東海大)
- 佐久間正寛(国府台病院)
- 田中俊宏(京都大)
- 橋本公二(愛媛大)
- 村松勉(奈良医大)
- 稲葉裕(順天堂大)
- 中村晃一郎(東京大)
- 橋本隆(久留米大)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 皮膚・結合組織疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1.表皮水疱症
1)平成6年度に行われた全国調査の結果と昭和64年度のそれを比較する。また2)重症度判定基準の作成を試みる。更に3)栄養障害型表皮水疱症の責任遺伝子である7型コラーゲン遺伝子の変異パターンの検出と臨床像との関係の解析を計66症例まで症例を増やして、解析を続けその相関性を検討する。また4)遺伝子治療のための基礎的研究の継続、および5)遺伝子導入培養表皮シートの作成を試みる。
2.膿疱性乾癬(GPP)
1)重症度判定基準の作成およびその妥当性の検討、2)現時点における病態と治療の評価のまとめを行う。3)HLA解析のまとめを行う。4)角化マーカーを用いた膿疱性および尋常性乾癬の組織構築の比較、および5)膿疱化機序の検討を継続して行う。
3. 天疱瘡
1)QOL・ADL・予後調査の解析を行う。2)各種天疱瘡抗原解析の継続、3)棘融解性水疱形成機序の解明を継続して行う。
1)平成6年度に行われた全国調査の結果と昭和64年度のそれを比較する。また2)重症度判定基準の作成を試みる。更に3)栄養障害型表皮水疱症の責任遺伝子である7型コラーゲン遺伝子の変異パターンの検出と臨床像との関係の解析を計66症例まで症例を増やして、解析を続けその相関性を検討する。また4)遺伝子治療のための基礎的研究の継続、および5)遺伝子導入培養表皮シートの作成を試みる。
2.膿疱性乾癬(GPP)
1)重症度判定基準の作成およびその妥当性の検討、2)現時点における病態と治療の評価のまとめを行う。3)HLA解析のまとめを行う。4)角化マーカーを用いた膿疱性および尋常性乾癬の組織構築の比較、および5)膿疱化機序の検討を継続して行う。
3. 天疱瘡
1)QOL・ADL・予後調査の解析を行う。2)各種天疱瘡抗原解析の継続、3)棘融解性水疱形成機序の解明を継続して行う。
研究方法
結果と考察
研究成果=1.表皮水疱症
1)疫学調査・重症度判定基準:稲葉らは、S64年度とH6年度に行われた疫学調査の比較を行い、患者数の変化は余りないが病型別には単純型の報告が減少したこと、加齢とともに軽快している割合が増加していることを報告した。また池田・小川は、重症度判定基準案(新生児用、病型別、全般用)を作成、10年度第1回総会時に各班員・研究員と意見を交換し、改訂版を作成した。第2回総会において再度意見を求め、それをもとに重症度判定基準案(新生児用、病型別)を一応完成した。2)遺伝子解析:玉井らは、研究班を通じて集積した栄養障害型表皮水疱症本邦症例における・型コラーゲン遺伝子(COL7A1)の解析を行い、66例中39症例に、35種類の異なる変異を同定し得た。また同定した変異パターンと臨床像・遺伝形式にある程度の相関が見られること、家系内孤発例における遺伝形式の鑑別、優性栄養障害型での初の出生前遺伝子診断の成功例についても報告した。3)遺伝子治療法開発のための基礎実験:吉仲らは、劣性栄養障害型患者由来線維芽細胞では変異・型コラーゲンが発現され、正常のものと比較して伸展性・単層形成時の密度が低いことなどの特徴を報告している。今回は正常・型コラーゲンを患者由来線維芽細胞に添加培養することにより、正常線維芽細胞様の性状を示す結果が得られたことにより、線維芽細胞の基質への接着・増殖に正常・型コラーゲンが必要であり、欠損細胞ではいくつかのマトリックス蛋白質が一部代替えしている可能性を示唆した。また金田は、HVJ-1 liposomeを用いた遺伝子導入の研究を継続し、HVJ-1 liposomeによるマウス羊水中への遺伝子導入により胎児の全身の皮膚組織への遺伝子導入と発現が可能であること、EB virusのEVNA-1とOri-P配列を有するplasmidはヒト細胞中で自律増殖が可能であり長期遺伝子発現が得られたこと、およびHVJ-1 liposomeとEB virusレプリコンベクターの導入系による皮膚疾患の遺伝子治療の可能性を報告した。4)3次元培養皮膚への遺伝子導入の試み:橋本(公)らは、線維芽細胞を含むゲル上にadenoviral vectorを用いて遺伝子導入した表皮細胞を播種・2ー3日液相培養後、空気曝露にて重層させる方法で、遺伝子導入3次元培養皮膚を作成した。導入5日目後には遺伝子が発現していることが確認された。
2.膿疱性乾癬(GPP)
1)重症度判定基準、病態と治療のまとめ:大河原らは、昨年度作成した重症判定基準(案)を用いて多施設での症例の臨床データ、治療およびその効果を解析し、その妥当性につき検討を行った結果、本案は概ねGPPの重症度を反映することが示唆された。また小澤らは、H7年度の疫学調査個人票をもとに本重症度基準案に沿って検討を行い、本案の妥当性を認めた。さらに重症度と予後に相関が見られた。2)基礎研究:大河原は、好中球の経内皮細胞遊走能をin vitroで定量化するモデルを用いて検討し、GPP患者では病勢に拘わらずTNF刺激した血管内皮細胞に対する経内皮細胞遊走能が亢進する傾向をみとめた。またHLA-DRB1*0803が高頻度に認められ、健常邦人と有意差を認めた。飯塚らは、3次元モデルと各種角化マーカーを用いて膿疱性および尋常性乾癬の組織構築の比較を行った結果、膿疱性乾癬は尋常性乾癬に匹敵する増殖亢進を起こしていること、また(正常では見られないが)尋常性では強く、一方膿疱性では弱くSKALP/elafinの発現がみられることは、好中球elastaseやproteinase3との相互作用を意味すると推測した。田上らは、培養ヒト樹状細胞に種々の細菌毒素(superantigen)を添加培養し検討したところ、それらに毒素よりCD86分子の発現が増強されること、その増強はデキサメサゾンにより強く、シクロスポリンでは弱く抑制されることを示した。中村は、今回は掌蹠膿疱症患者の膿疱内と末梢血のLTB4濃度につき検討し、GPPあるいは掌蹠膿疱症における膿疱形成にはIL-8関連蛋白ケモカイン、アラキドン酸代謝産物が関与していると考えた。
3.天疱瘡
1)疫学・QOL調査:稲葉らは、病理剖検輯報を利用した天疱瘡、類天疱瘡の死因を分析し、17年間での癌の合併率が各々15.7%、15.4%であることを報告し、これは他の自己免疫疾患とほぼ同程度であった。佐久間らはQOL調査の解析を行い、a)多くの患者が中等症~軽症、寛解例として長期間フォローされていることを明らかにした。一方b)重症例においては主観的QOLの低下が顕著であり、社会、精神的支援が重要であることを示した。2)各種天疱瘡抗原の解析:西川らは、paraneoplastic pemphigus (PNP)にも尋常性天疱瘡抗原(Dsg3)および落葉状天疱瘡抗原(Dsg1)に対する抗体が存在し、さらにその抗体がマウス皮膚において棘融解性水疱を惹起するため、PNPも古典的天疱瘡として分類し得ると考えた。橋本(隆)らは、天疱瘡患者血清中にIgG抗デスモコリン抗体が存在すること、またPNP以外の自己免疫性水疱症血清が、天疱瘡抗原以外のdesmosomeの構成成分の一つであるエンボプラキン・ペリプラキンと反応することを確認した。3)棘融解性水疱形成機序の解明:北島らは、a)抗原抗体結合後20分後にはDsg3がセリンリン酸化されplakoglobin (PG)から解離すること、b)このリン酸化はPKC非依存性であること、c)Dsg3のみが細胞膜から20分後に消失し、30時間後にはdesmosomeからも消失すること、さらにd)Srcも活性化されることを報告した。橋本(公)らは、変異E-cadherin、Dsg3、desmocollin3遺伝子をadenoviral vectorを用いてHaCaT細胞に導入し、細胞接着に対する影響を検討したところ、desomocollinはadherence junctionとdesmosomeの両方の形成に重要である可能性が示唆された。村松らは、ヒト皮膚器官培養系に尋常性あるいは落葉状天疱瘡患者血清を添加培養した結果、本系は天疱瘡の皮膚病変モデルになりうることを報告した。田中は、水疱症のトランスジェニックモデルを作成する目的で、小動物に実験的水疱を惹起する単クローンを作成し、そのcDNAを単離した。現在そのcDNAを培養細胞に導入・検討中である。
1)疫学調査・重症度判定基準:稲葉らは、S64年度とH6年度に行われた疫学調査の比較を行い、患者数の変化は余りないが病型別には単純型の報告が減少したこと、加齢とともに軽快している割合が増加していることを報告した。また池田・小川は、重症度判定基準案(新生児用、病型別、全般用)を作成、10年度第1回総会時に各班員・研究員と意見を交換し、改訂版を作成した。第2回総会において再度意見を求め、それをもとに重症度判定基準案(新生児用、病型別)を一応完成した。2)遺伝子解析:玉井らは、研究班を通じて集積した栄養障害型表皮水疱症本邦症例における・型コラーゲン遺伝子(COL7A1)の解析を行い、66例中39症例に、35種類の異なる変異を同定し得た。また同定した変異パターンと臨床像・遺伝形式にある程度の相関が見られること、家系内孤発例における遺伝形式の鑑別、優性栄養障害型での初の出生前遺伝子診断の成功例についても報告した。3)遺伝子治療法開発のための基礎実験:吉仲らは、劣性栄養障害型患者由来線維芽細胞では変異・型コラーゲンが発現され、正常のものと比較して伸展性・単層形成時の密度が低いことなどの特徴を報告している。今回は正常・型コラーゲンを患者由来線維芽細胞に添加培養することにより、正常線維芽細胞様の性状を示す結果が得られたことにより、線維芽細胞の基質への接着・増殖に正常・型コラーゲンが必要であり、欠損細胞ではいくつかのマトリックス蛋白質が一部代替えしている可能性を示唆した。また金田は、HVJ-1 liposomeを用いた遺伝子導入の研究を継続し、HVJ-1 liposomeによるマウス羊水中への遺伝子導入により胎児の全身の皮膚組織への遺伝子導入と発現が可能であること、EB virusのEVNA-1とOri-P配列を有するplasmidはヒト細胞中で自律増殖が可能であり長期遺伝子発現が得られたこと、およびHVJ-1 liposomeとEB virusレプリコンベクターの導入系による皮膚疾患の遺伝子治療の可能性を報告した。4)3次元培養皮膚への遺伝子導入の試み:橋本(公)らは、線維芽細胞を含むゲル上にadenoviral vectorを用いて遺伝子導入した表皮細胞を播種・2ー3日液相培養後、空気曝露にて重層させる方法で、遺伝子導入3次元培養皮膚を作成した。導入5日目後には遺伝子が発現していることが確認された。
2.膿疱性乾癬(GPP)
1)重症度判定基準、病態と治療のまとめ:大河原らは、昨年度作成した重症判定基準(案)を用いて多施設での症例の臨床データ、治療およびその効果を解析し、その妥当性につき検討を行った結果、本案は概ねGPPの重症度を反映することが示唆された。また小澤らは、H7年度の疫学調査個人票をもとに本重症度基準案に沿って検討を行い、本案の妥当性を認めた。さらに重症度と予後に相関が見られた。2)基礎研究:大河原は、好中球の経内皮細胞遊走能をin vitroで定量化するモデルを用いて検討し、GPP患者では病勢に拘わらずTNF刺激した血管内皮細胞に対する経内皮細胞遊走能が亢進する傾向をみとめた。またHLA-DRB1*0803が高頻度に認められ、健常邦人と有意差を認めた。飯塚らは、3次元モデルと各種角化マーカーを用いて膿疱性および尋常性乾癬の組織構築の比較を行った結果、膿疱性乾癬は尋常性乾癬に匹敵する増殖亢進を起こしていること、また(正常では見られないが)尋常性では強く、一方膿疱性では弱くSKALP/elafinの発現がみられることは、好中球elastaseやproteinase3との相互作用を意味すると推測した。田上らは、培養ヒト樹状細胞に種々の細菌毒素(superantigen)を添加培養し検討したところ、それらに毒素よりCD86分子の発現が増強されること、その増強はデキサメサゾンにより強く、シクロスポリンでは弱く抑制されることを示した。中村は、今回は掌蹠膿疱症患者の膿疱内と末梢血のLTB4濃度につき検討し、GPPあるいは掌蹠膿疱症における膿疱形成にはIL-8関連蛋白ケモカイン、アラキドン酸代謝産物が関与していると考えた。
3.天疱瘡
1)疫学・QOL調査:稲葉らは、病理剖検輯報を利用した天疱瘡、類天疱瘡の死因を分析し、17年間での癌の合併率が各々15.7%、15.4%であることを報告し、これは他の自己免疫疾患とほぼ同程度であった。佐久間らはQOL調査の解析を行い、a)多くの患者が中等症~軽症、寛解例として長期間フォローされていることを明らかにした。一方b)重症例においては主観的QOLの低下が顕著であり、社会、精神的支援が重要であることを示した。2)各種天疱瘡抗原の解析:西川らは、paraneoplastic pemphigus (PNP)にも尋常性天疱瘡抗原(Dsg3)および落葉状天疱瘡抗原(Dsg1)に対する抗体が存在し、さらにその抗体がマウス皮膚において棘融解性水疱を惹起するため、PNPも古典的天疱瘡として分類し得ると考えた。橋本(隆)らは、天疱瘡患者血清中にIgG抗デスモコリン抗体が存在すること、またPNP以外の自己免疫性水疱症血清が、天疱瘡抗原以外のdesmosomeの構成成分の一つであるエンボプラキン・ペリプラキンと反応することを確認した。3)棘融解性水疱形成機序の解明:北島らは、a)抗原抗体結合後20分後にはDsg3がセリンリン酸化されplakoglobin (PG)から解離すること、b)このリン酸化はPKC非依存性であること、c)Dsg3のみが細胞膜から20分後に消失し、30時間後にはdesmosomeからも消失すること、さらにd)Srcも活性化されることを報告した。橋本(公)らは、変異E-cadherin、Dsg3、desmocollin3遺伝子をadenoviral vectorを用いてHaCaT細胞に導入し、細胞接着に対する影響を検討したところ、desomocollinはadherence junctionとdesmosomeの両方の形成に重要である可能性が示唆された。村松らは、ヒト皮膚器官培養系に尋常性あるいは落葉状天疱瘡患者血清を添加培養した結果、本系は天疱瘡の皮膚病変モデルになりうることを報告した。田中は、水疱症のトランスジェニックモデルを作成する目的で、小動物に実験的水疱を惹起する単クローンを作成し、そのcDNAを単離した。現在そのcDNAを培養細胞に導入・検討中である。
結論
公開日・更新日
公開日
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更新日
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