難治性炎症性腸管障害

文献情報

文献番号
199800863A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸管障害
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
下山 孝(兵庫医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井俊弘(福岡大学筑紫病院)
  • 日比紀文(慶應義塾大学)
  • 樋渡信夫(東北大学)
  • 棟方昭博(弘前大学)
  • 馬場忠雄(滋賀医科大学)
  • 岡村登(東京医科歯科大学)
  • 金城福則(琉球大学)
  • 古野純典(九州大学)
  • 杉村一仁(新潟大学)
  • 高添正和(社会保険中央総合病院)
  • 西倉健(新潟大学)
  • 牧山和也(長崎大学)
  • 松本誉之(大阪市立大学)
  • 八木田旭邦(近畿大学)
  • 阿部淳(国立小児病院)
  • 中込治(秋田大学)
  • 名川弘一(東京大学)
  • 向田直史(金沢大学)
  • 山本正治(新潟大学)
  • 田村和朗(兵庫医科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 消化器系疾患調査研究班
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究対象を潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に絞り、患者のQOL 向上を目標に、病因の究明、新治療法の開発と再燃・再発の予防法確立を目指した。
研究方法
UCとCDに関して15のプロジェクト課題を掲げ、班員・研究協力者がそれぞれの責任者になり、全班員・研究協力者が参加して精力的に研究を進めた。
結果と考察
研究結果を15のプロジェクト毎にまとめてみる。
p 1.UCとCDの患者データベースの拡張・充実:大項目19,小項目61についてアンケート調査し、関連21施設からのUC2452例、CD1501例の電子化作業が終了した。さらに消化器病を診療している病院289 施設に対するアンケ-ト調査を行い、UC10089 例、CD6292例の新集計対象が追加された。
p 2.CD患者のQOL の検討:CD患者は健康人に比し、健康感・痛み・精神状態・活力・社会機能制限の面で、QOL が低下していることが判明した。
p 3.CD患者への情報伝達と治療法の解説普及:熊本、兵庫両県でCD患者のQOL 向上を目指す公開市民講座を開催した。班員・研究協力者、栄養士、患者の共同執筆で、患者と家族に対するCD解説書「クロ-ン病ってどんな病気」を発刊した。また、班員、研究協力者が、地方の説明会に多数参加してUCとCDの理解と啓蒙に努力している。またインタ-ネットを利用してUCとCDに関する情報を提供してる(E-mail adress、jfccapo,jah,ne,jp) 。
p 4.UCとCDの遺伝子背景:IL-1ra,IL-2(DNA),IL-18(RNA),TNF receptor1・2 のcytokine gene に関して、UC62家系69症例、CD116 家系120 症例を対象に、対照群と比較した。IL-18のcodon 18の多型分布で、CDはUCや対照群と明らかに異なっていた。またTNF receptor 1の遺伝子多型にも差がみられ、CDでは遺伝的背景に差のあることが判明した。
実験的には、IL-12 p40を過剰発現するtransgenic mouseの作成に成功した。またIL-1 ra 遺伝子欠損マウスでは、炎症感受性が亢進していることを明らかにした。
p 5.CD患者の発症関連食事因子の解析:CD患者82例に対し、性・年令をマッチさせた病院対照173 例で、発症前因子を症例対照研究した。CD患者では、発症前にファーストフードと砂糖菓子の摂取が対照群より有意に多いことが知られた。
p 6.CDの成分栄養療法における脂肪添加の影響:成分栄養剤に、大豆油を一日13.5gあるいは27.0g添加した脂肪負荷群を設け、CD患者を無作為に割りつけて、成分栄養療法における脂肪添加の影響を検討した。成分栄養剤のみでは75%が緩解となったが、13.5gまたは27.0gの脂肪付加では,30~40%の緩解率であった。以上、成分栄養剤に脂肪を添加すると、活動期CDに対する緩解導入効果が減殺されることが判明した。
p 7.病因としての腸管微生物の検索:CD患者の腸組織から、抗麻疹抗体と反応する物質が発見され、これがヒト由来タンパクであることを証明し、CD患者の1/3がこの物質に対する抗体を有していることが知られた。また、複数の細菌性ス-パ-抗原の遺伝子検索とス-パ-抗原に対する中和抗体測定により、これらがCDの病態を修飾している可能性が示唆された。一方、腸内細菌の産生するn-酪酸はTNF-αの NF-κB、 NF-IL6、 AP-1 などの転写因子活性化を強力に抑制して、抗炎症作用を発揮することが明らかになった。
p 8.UC,CDの病因・病態と免疫異常の関係の解明:9 施設からなる免疫プロジェクトチームがUC患者154 例の血清を集め、自己抗体を検索した。抗tropomyosin 抗体31%、抗ムチン抗体12%、抗好中球細胞質抗体38%の自己抗体陽性率であった。UCの白血球除去療法有効例と無効例の臨床的に免疫学的相違点を確認した。有効例ではHLA DR陽性の白血球や接着因子CD 11bが陽性の白血球が有意に多く除去された。また、好中球と反応して活性酸素産生能を増加させるP-selectin陽性活性化血小板も有意に多く除去されていた。
CD患者のIL-18 による腸粘膜リンパ球増殖効果を検討した。CDの粘膜固有層では、リンパ球に未知のIL-18 受容体の発現が増強があり、これがIL-12 受容体発現を誘導することにより、IL-2を介するCDの異常増殖病態が想定された。
p 9.診断基準の評価と改訂:従来のUC診断基準の重症度判定を見直し、生検検査の緩解期の所見や除外診断を含む改訂案を作成した。CDについても内視鏡的重症度分類と活動指数について検討して、診断基準と治療に関するQ&A を発行した。
p10.UCの治療指針の評価と改訂:UCの軽症と中等症の治療について検討し、改訂案を提出するとともに、重症患者認定基準と5 段階の重症度区分を検討して、成案を厚生省エイズ疾病対策課に提出した。
p11.CDの治療指針の評価と改訂:現行のCDの治療指針を評価して、新たに重症度を考慮した治療指針を改訂し、案として提出した。ことに外科治療指針では、手術適応、術前・術後管理と栄養管理、病変部別術式を加味した指針を、新たに設定した。またCDについても、重症患者認定基準と5 段階の重症度区分を検討して、成案を提出した。
p12.UC治療法としての白血球除去療法の確立:UCの重症や難治中等症の症例を、無作為に白血球除去療法群と従来の完全静脈栄養・ステロイド強力静注療法群に割りつけて、治療効果を群間比較した。白血球除去療法群は有意に高率(74 %) に緩解に導入できた(従来のステロイド療法群では緩解導入は44%)。副作用の発現も、白血球除去療法群は23%と、従来のステロイド強力静注群の47%に比し、有意に少なかった。
p13.UC患者のQOL を高める外科療法の検討:外科療法の進歩にも拘わらず、UCの術後合併症として腸閉塞が18%、 回腸嚢炎10%あり、late abscessも2.5 %にみられた。
p14.UCのDysplasia 発生とガンサーベイランス実現:癌抑制遺伝子であるp53 の異常発現が、UCの非腫瘍性上皮にも見いだされた。DNA の塩基配列をPCR-direct sequence 法で検討した結果、p53 遺伝子異常が高率にみられ、変異様式は随伴する癌と同一であった。
p15.UCとCDの新治療法の開発:CD患者の血中の抗ブタ膵アミラーゼ抗体価が、UCや健常者に比し有意に高値で、有意に高い陽性率であった。CD患者の病勢がこの抗体価とよく平行するので、CD患者ではこの抗体と反応する蛋白を吸着する治療法が必要と考えられる。さらに、パンの酵母菌Saccharomyces cerevisiaeに対する血清中抗体もUC、CD患者で、健常者と比較して有意に高値であり、これらを含めて腸管内の難消化蛋白を吸着するために、活性炭末を投与する治療法が検討された。
結論
疫学的事項として、デ-タベ-スの拡張、QOL の検討は順調に進んでおり、経年的な調査を継続することが大切である。病因の解明は、CDでは発病前食事内容の偏りが確認され、免疫学的にはUCにもCDにも、一連の免疫異常の存在することが知られた。また、腸管内微生物および代謝産物の発病・増悪因子としての関与が、明らかにされた。治療ではUCに対して白血球除去・吸着療法の有効性が確認され、CDではサイトカイン療法などの新しい治療法の開発・治験が実施されている。いずれも、患者のQOL 向上に役立つ治療法である。今後、病因がさらに詳らかにされ、それに基づいた治療法や予防法が確立されることを期待し、その目的達成のための精力的研究を続ける必要がある。

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