呼吸不全

文献情報

文献番号
199800862A
報告書区分
総括
研究課題名
呼吸不全
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 喬之(千葉大学医学部肺癌研究施設第二臨床研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 白土邦男(東北大学医学部第一内科)
  • 大井元晴(京都大学再生医科学研究所生体機能調節学)
  • 国枝武義(慶應義塾大学伊勢慶應病院内科)
  • 福地義之助(順天堂大学医学部呼吸器内科)
  • 白日高歩(福岡大学第二外科)
  • 西村正治(北海道大学医学部第一内科)
  • 堀江孝至(日本大学医学部第一内科)
  • 金沢実(埼玉県立循環器・呼吸器病センター呼吸器内科)
  • 木村謙太郎(大阪府立羽曳野病院呼吸器科)
  • 白澤卓二(東京都老人総合研究所分子病理部門)
  • 橋本修二(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻)
  • 山谷睦雄(東北大学医学部老人科)
  • 瀬戸口靖弘(順天堂大学医学部呼吸器内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 呼吸器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、臨床的には、呼吸不全関連6疾患について、その
原因を究明し、同時に、新たな治療法を追求・開発することである。さらに、
病因の追求および治療法の開発につながる臨床研究課題、及び原因的治療法を
確立するための基礎研究課題をとりあげ、研究を推進することにある。
(1)若年性肺気腫;肺気腫の早期発見、およびそれによる呼吸不全への進展の防
止を目指すことが患者の予後およびQOLの改善につながると考えられる。臨床
的には、臨床疫学的検討、重症度基準の確立、喫煙の肺機能・気腫病変に及ぼ
す影響、外科的治療の適応およびその効果を明らかにすることを目的とする。
基礎的検討としては、肺気腫発症・喫煙の感受性に関連する遺伝子の検討、好
中球・サイトカイン・細胞外マトリックスの面からの発症機序の検討、増悪時
のウイルス感染の関与に関する研究を行う。さらに、呼吸不全に陥った際の治
療応用の可能性を考慮して、ヘモグロビン分子の酸素親和性を、遺伝子工学的
手法を用いることにより変位させ、呼吸不全状態の組織呼吸を改善を図ること
を目標にする。
(2)肥満低換気症候群・肺胞低換気症候群;臨床的には、重症度基準の確立、予
後の解析、在宅人工呼吸療法の現状の把握、集積された症例の遺伝学的解析、
near fatalエピソードを起こした症例の解析、血中レプチンと病態との関係、合
併症の発症機序を解明してそれらに対する治療方法を確立すること等を目的と
する。とりわけ、在宅人工呼吸器療法の治療体系を確立するための一環として、
鼻マスクによるNIPPV、およびnasal CPAP療法の確立を目指す。さらに、基礎
的検討としては、中枢性ヒスタミンの呼吸調節機構への影響の解析、低酸素換
気抑制に関与する抑制性神経伝達物質の解析、中枢化学受容機構の炭酸ガス受
容機構の解析を行うことにより、病因解明のための基礎的検討を行う。
(3)原発性肺高血圧症・慢性肺血栓塞栓症;臨床的には、重症度基準の確立、血
管拡張療法の適応および効果を明らかにすること、血液凝固線溶系の異常の検
討を通して、原発性肺高血圧症・慢性肺血栓塞栓症の病因解明・治療指針の確
立を目的とする。基礎的検討としては、炎症細胞からのサイトカイン分泌が肺
循環障害に及ぼす影響を検討する。 
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
研究の成果を項目別に以下に述べる。
対象疾患全てにおいて、重症度基準を作成した。
[1] 若年性肺気腫
● 臨床疫学的検討;胸部X線画像を集積しえた若年性肺気腫症例は、必ずし
も同一の臨床病理学的範疇には属さないことが示唆された。典型的肺気腫の症
例は全例男性・早期からの喫煙者であり、それら症例の肺気腫成立に関しては、
喫煙に対する感受性が亢進している可能性が示唆された。
● 発症機序ー好中球関与の可能性ー;胸部CT所見にて早期気腫病変のある喫
煙者では、気腫病変のない群と比較して、BAL液中の好中球特異的顆粒由来で
あるHNL濃度およびMMP-8・MMP-9の量は有意に高値であり、早期肺気腫病
変の形成における好中球関与が示唆された。
● 発症機序ー喫煙に対する感受性ー
○ HO-1の遺伝学的検討; ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)は強力な抗酸化作
用を持つ。喫煙による肺気腫発症のしやすさとHO-1遺伝子の酸化ストレス時
の発現し難さ、即ちGT反復配列の長短が関係している可能性が考えられる。
○ ミトコンドリア(mit)遺伝子型Mt 5178A/Cの検討;喫煙による酸化的ス
トレスという観点からミトコンドリア(mit)遺伝子型Mt 5178A/C に関して検
討した。肺気腫発症に関しては、C型(Mt 5178C)は喫煙に対する感受性がA
型(Mt 5178A)に比較して強い可能性が推測された。
● ウイルス感染と気道炎症;ICAM-1およびLDL受容体の発現抑制を介した
治療法の開発により、肺気腫の急性増悪を制御しうる可能性が示唆された。
● VRSの適応基準、臨床的意義;臨床プロフィール、画像診断、肺機能検査
所見の点からVRSの適応基準を設定した。VRSによる肺機能改善は2-3年は保
たれると考えられ、VRSを施行しなかった場合に比較して、予後が数年間延長
される可能性が示唆された。
● 変異ヘモグロビンの遺伝子工学的作成;酸素解離曲線において右方移動を
示す変異ヘモグロビンは、末梢組織への酸素運搬に優位性があると考えHb
Titusville型変異導入マウス、Hb Presbyterian型変異導入マウスの作製、さらに
重炭酸の蓄積によって著明な酸素親和性の低下を示すワニ特異的アミノ酸配列
導入マウスの作製を行った。Presbyterian型変異導入マウスは標的遺伝子改変ベ
クターを作製後、変異導入ES細胞を確立、キメラマウスを作製した。Titusville
型変異導入マウスは標的遺伝子改変ベクターを作製後、変異導入ES細胞を確
立した。ワニ特異的アミノ酸配列導入マウス作製戦略ではαおよびβグロビン
標的遺伝子改変ベクターを作製した。
[3] 肥満低換気症候群
● 内臓脂肪量と血中レプチン濃度;レプチンは脂肪細胞から分泌され、内臓
脂肪量・エネルギー代謝ひていは肥満に関係し、また交感神経系活動にも影響
を及ぼすと考えられている。NCPAP治療は、閉塞性無呼吸症候群患者において、
内臓脂肪量減少療法の一つである可能性があり、中枢神経系を介してレプチン
に対する感受性を高めることが内蔵脂肪の減少につながる可能性が示唆された。
● 予後の解析;無治療かつ重症群における検討から、OSAS群の最重症型と考
えられるOHS群では、非OHS群と比べ予後は不良であった。また、重症OSAS
症例では、nasal CPAP、口蓋垂口蓋咽頭形成術、歯科装具のいずれかの治療を
施した群(治療群)は無治療群と比べて生命予後が良好であった。OHS群を含
めた重症OSAS症例では、適切な治療を施すことは生命予後の観点からも重要
であることが明らかとなった。
[4] 肺胞低換気症候群
● 全国疫学調査ー在宅人工呼吸療法ー;在宅人工呼吸は1997年1月現在では、
人口10万対1.2と推定されたが、1998年6月末の調査では10万対2.8と急増
していた。全国で在宅例は、NIPPVで1800例、TIPPVで1000例であった。
● 発症機序ー遺伝学的検討ー;全国疫学調査にて集積されたPAHS 15症例を
対象にHLA解析を行った。 クラスII DNAタイピングでは、 DQB1*0301保有
率は、対照群より高率であった。また、DPB1*0501の保有率は、対照群より低
率であった。 PAHSは稀少疾患であるがために解析症例は少数例にはとどまっ
たものの、その発症に遺伝学的素因が関与しうる可能性が示唆された。
● 治療ーNIPPVの重要性ー;慢性呼吸器疾患の急性増悪時に人工呼吸管理を
要する、いわゆる『near fatal エピソード』回復後の生存例では、死亡例に比べ
てHOT単独治療の割合は低率であったが、NIPPVは高率に施行されており、
NIPPVの呼吸管理における重要性が確認された。
● 発症機序
○ 中枢性抑制性伝達物質と低酸素換気抑制;新生ラット摘出脳幹脊髄標本に
より、延髄・呼吸中枢内におけるグリシン及び内因性オピオイドが低酸素換気
抑制に関与することが示唆された。
○ 中枢性ヒスタミンの呼吸調節への関与;内因性中枢性ヒスタミンは、高体
温時の呼吸数を増加させることにより、呼吸調節系に影響を及ぼすことが示唆
された。
[5] 原発性肺高血圧症
● 予後の検討;以上の重症度基準に基づき、原発性肺高血圧症(PPH)の重症度
基準の妥当性を予後の点から検討した。昨年度の全国疫学調査により収集し得
たPPH症例を対象に、NYHA分類を基本とした重症度基準に従い5段階に分類
し、診断時の肺循環諸量並びに予後について比較検討した。Stage 2までの軽症
例とStage 3以上の重症例との間で、Kaplan-Meier法による累積生存曲線に有意
差(P<0.01)が認められた。ゆえに、NYHA分類を原則とした今回の重症度基準
は、肺循環諸量による重症度とも矛盾しないものであり、Stage 3以上で予後不
良であった。
[6] 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
● 病態の解析;基礎疾患の主なるものは、膠原病様疾患15%、凝固線溶系異
常11%であった。慢性肺血栓塞栓症は、急性肺血栓と比較して痩せ型であった。
● 外科治療ー肺血栓内膜摘除術(PTE)の適応基準ー;生存例および術後1ヶ月
以内に死亡した手術関連死例間で、手術の術前危険因子について検討した。死
亡例は、生存例に比して有意にPVRが高く、CIが低い症例であった。非著効
例の多くは、遠位血栓のため十分な血栓摘除が不能な症例であった。本邦にお
いて、PVR < 1100 dyn・sec・cm-5の症例が、危険性の低いPTEの適応と考えら
れた。
● 発症機序
○ 血管内皮細胞異常と凝固線溶系の異常;肺高血圧症を伴う肺血栓症では凝
固線溶系と血管内皮マーカーの異常を認め、肺微小血管における循環障害が病
態の発症誘因のひとつとして関与していることが示唆された。
○ サイトカインの関与; MCAF/MCP-1レベルは肺血管抵抗と正相関を示し、
MCAF/MCP-1は肺高血圧の病勢の一部を反映すると考えられた。炎症性因子以
外にも、機械的因子(sheer stress)がMCAF/MCP-1の産生を促し、 肺内Mφ
の遊走・活性化を亢進させ、 これが炎症性因子を含めた病態を増強する可能性
が推測された。
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