免疫性神経疾患

文献情報

文献番号
199800854A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫性神経疾患
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
納 光弘(鹿児島大学第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 有村公良(鹿児島大学第三内科)
  • 斎田孝彦(国立療養所宇多野病院)
  • 田平武(国立精神神経センター神経研究所疾病研究第六部)
  • 高守正治(金沢大学神経内科)
  • 出雲周二(鹿児島大学難治性ウイルス疾患研究センター)
  • 犬塚貴(新潟大学神経内科)
  • 岩崎祐三(国立療養所宮城病院)
  • 梶龍兒(京都大学神経内科)
  • 菊地誠志(北海道大学神経内科)
  • 吉良潤一(九州大学脳神経病研究施設内科)
  • 楠進(東京大学神経内科)
  • 斎藤豊和(北里大学内科)
  • 酒井宏一郎(金沢医科大学神経内科)
  • 錫村明生(奈良県立医科大学神経内科)
  • 園田俊郎(鹿児島大学ウイルス学)
  • 永松正明(名古屋大学神経内科)
  • 中村龍文(長崎大学第一内科)
  • 服部孝道(千葉大学神経内科)
  • 藤井義敬(名古屋市立大学二外科)
  • 藤原一男(東北大学神経内科)
  • 松尾秀徳(国立療養所川棚病院神経内科)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学神経内科)
  • 吉野英(国立精神神経センター国府台病院神経内科)
  • 高昌星(信州大学第三内科)
  • 山村隆(国立精神神経センター神経研究所疾病研究第六部)
  • 結城伸泰(獨協医科大学神経内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、本班が研究対象としている多発性硬化症(MS)、重症筋無力症(MG)、HAM、免疫性末梢神経障害(CIDP、ギランバレー症候群など)、Crow-Fukase症候群、癌などに伴う傍腫瘍性神経症候群、多発性筋炎などの炎症性筋肉病ならびにその他の免疫性神経疾患(Isaacs症候群など)について、病因、病態解明、診断基準の設定、治療法の指針と新しい方法の開発、疫学、動物モデルその他の基礎的実験成果の臨床への応用を行い、分子生物学、生物工学、分子免疫学、遺伝子工学の新しい概念と技術を駆使しつつ、班研究としてのグループワークを統合して難病に取り組むことを目標とする。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
本研究班の成果は、新たな構成で平成8年度に発足した本班の最終年度の3年目にあたる平成10年度の研究では、極めて大きな成果を上げることができた。特に大きな成果として、1)本邦の多発性硬化症をアジア型と西洋型の異なる2つの疾患としてとらえるべきであることがHLAアリルの分析から明らかとなったこと、2)新しい疾患概念としてアトピー性脊髄炎が提唱されたこと、3)本研究班で発見されたHAMの病態の解明が大きく前進し、治療への展望がさらに開けてきたこと、4)重症筋無力症ならびにLambert-Eaton筋無力症候群の病態と治療の研究がさらに進展したこと、5)Isaacs症候群と抗K+チャネル抗体の関連が明らかにされたこと、6)Crow-Fukase症候群の病態におけるVEGFの役割が明らかにされたこと、7)Guillain-Barre症候群やCIDPにおける抗ガングリオシド抗体の役割がさらに深く明らかにされたことが上げられるが、この他にも多くの大きな成果が得られたので、それらの詳細について以下に述べる。多発性硬化症(MS)=東北大学藤原、糸山らは横断性脊髄炎(TM)を呈した重症の視神経脊髄型は、減少傾向がみられることを明らかにした。吉良らも1960年代生まれになって急に西洋型の比率が1930?195O年代生まれに比し有意に増加していたことを明らかにした。また視神経脊髄型MSはHLA-DPBl*O5Ol遺伝子により規定されたTh1 diseaseと結論した。吉良らはアトピー性皮膚炎(AD)の有無にかかわらず, 高IgE血症を伴う脊髄炎アトピー性脊髄炎(atopic myelitis)は、ダニ特異的IgEが陽性、脊髄症候が長期間残存し易い等の共通の特徴を呈することを報告した。錫村らは、MSに対するフォスフォジエステラーゼ阻害剤の効果をオープントライヤルにより検討し、その結果MSの再発率は2年後に1/3に減少し、βインターフェロンと同等の効果が得られることを明らかにした。高班員は、接着分子の一つであるB7?1を標的とした治療法の開発の可能を示した。一方永松班員はTMEV脳炎で出現するオリゴデンドロサイトの抗原に対する自己抗体の中にミエリン再生を促進するものがあることを発見した。山村班員はNKT細胞の除去がEAEの発症を著しく促進し、発症までの期間が4ー5日と著しく短縮されることを発見した。HAM=炎症性matric metalloprotainase(MMP)とHAMの病態発現との関連を梅原ら(納班)は明らかにした。神原ら(中村班)は、VCAM-1接着によるMMP-2の発現は、HAM患者のTリンパ球でつよくおこり、無症候性キャリアのTリンパ球のMMP2活性と有意差を示した。松岡ら(出雲班)は、HAM患者の末梢血単核球ではCD44v6が高率に発現していることを明らかにした。宇宿ら(納班)は、HLA-DRB1*0101を保有するHAM患者では末梢血リンパ球中のHTLV-Iウイルス量がHLA-DRB1*0101を保有しないHAM患者に比し少ないことを証明した。またHAMの新たな治療薬として、緑茶ポリフェノールの抗HTLV-I作用が屋敷ら(園田協力班)により報告された。ギランバレー症候群、慢性炎症性脱随性多発神経炎=斉藤班員は我が国におけるGBSの疫学調査の第一次調査結果について報告した。過去5年間の症例数は2947例であり、男女比は約3:2であった。斎田班員は、抗GM1抗体やカンピロバクター感染よりも、抗GalNAc-GD1a抗体が純粋運動型GBSにより密接に関連していることを明らかにした。服部班員は、抗GM1 IgG抗体陽性のGBSは軸索変性型か早期可逆性伝導障害を伴うかのいずれかであることを示した。楠班員は、GD1bのみを特異的に認識する抗
体が発症ウサギで有意に高く上昇していることを明らかにした。吉野班員は、球麻痺を伴うGBS症例の血中抗体が認識する新たなガングリオシド(GglX)について報告した。梶班員はLewis-Sumner症候群の臨床診断に電気生理学的に運動神経の伝導ブロックの存在が極めて重要であることを指摘した。結城班員は、GBSで検出されたIgA抗ガングリオシド抗体はすべてIgA1で、分泌型でなく骨髄由来という結果を得た。水澤らは患者血清中抗HNK-1抗体のPoについての抗体活性は低い結果を得た。重症筋無力症(MG)=高守らは、抗原(シビレエイAChR)特異的T細胞のpassive transferを受けたラットには,自己抗体(抗ラットAChR抗体)産生の機序が成立することを明らかにした。また、ヒトに近い情報を得る動物として,機能を担ったT,B細胞をもたないSCIDマウスがMG研究に有用であることをはじめて明らかにした。Paraneoplastic syndromeならびにLambert-Eaton筋無力症候群 (LEMS)=中村班員は、本邦における110症例というきわめて多数の症例を用い臨床的特徴を明らかにした。高守班員はLEMSにおける抗P/Q型VGCCα1-subunit domainIII S5-S6 linkerリコンビナント蛋白を作製し、LEMS患者の51.4%に同部に対する抗体をイムノブロット法で検出した。電位依存性カリウムチャネル抗体 (抗VGKC抗体)=有村班員はすでにIsaacs症候群において抗VGKC抗体の存在と、患者のγ-globulinによる培養神経細胞のK+電流の抑制を発見し、さらに原因の明らかではない筋痙攣やmyokimaを有する患者の一部にも同様の機序が関与していることを明らかにした。抗Hu抗体認識抗原の性質と機能=犬塚班員は、HuD蛋白はPC12細胞のNGF添加による神経分化に関わる可能性を示した。酒井班員は抗Hu抗体によって認識される神経抗原ELAV-like蛋白が、サイトカインの一つであるTNFαの3'非翻訳配列構造のAREと結合することを証明した。有村班員はCrow-Fukase症候群における血中のvasucular endothelial growth factor (VEGF)が高値であることを発見したが、今年度は、そのVEGFが血漿より血清中で高いこと、血小板が主な産生細胞であることを明らかにした。水澤班員は、IL-1やTNFなどの炎症性サイトカインがバリアー機能を障害することを示した。菊地班員はIFN?とTNF?の両者がsynergisticに働き?ケモカインを誘導することを示した。犬塚班員は免疫抑制剤サイクロスポリンによる脳症を3例報告し、免疫抑制剤使用時の注意を喚起した。

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