文献情報
文献番号
199800852A
報告書区分
総括
研究課題名
運動失調症
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
金澤 一郎(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 佐々木秀直(北海道大学医学部)
- 真野行生(北海道大学医学部)
- 小野寺理(新潟大学脳研究所)
- 服部孝道(千葉大学医学部)
- 柳澤信夫(国立中部病院)
- 水澤英洋(東京医科歯科大学医学部)
- 宇川義一(東京大学医学部附属病院)
- 長谷川一子(北里大学東病院)
- 湯浅龍彦(国立精神・神経センター国府台病院)
- 神田武政(東京都立神経病院)
- 岩田誠(東京女子医科大学)
- 山田正夫(国立小児病院)
- 黒岩義之(横浜市立大学医学部)
- 岩淵潔(神奈川県総合リハビリテーションセンター)
- 永松正明(名古屋大学医学部神経内科)
- 柳本真市(奈良県立奈良病院)
- 中島健二(鳥取大学医学部)
- 酒井徹雄(国立療養所筑後病院)
- 有村公良(鹿児島大学医学部)
- 滝山嘉久(自治医科大学)
- 天野殖(滋賀医科大学)
- 垣塚彰(大阪バイオサイエンス研究所)
- 田邊勉(東京医科歯科大学医学部)
- 阿部訓也(熊本大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
研究目標=運動失調症調査研究班の対象疾患は昭和50年に本班の前身の「脊髄小脳変性症調査研究班」が発足(班長・祖父江逸郎・6年間(昭和56年~61年)は班名も「運動失調症調査研究班」(班長・飯塚禮二・順天堂大学教授)と変更になり、それに合わせるように脊髄性運動失調はもとより、末梢神経障害に基づく運動失調、さらには変性のみならず炎症性など原因が明らかな二次性運動失調までも対象とすることになった。また次の5年間は(昭和62年~平成3年)は基本的には同じく「運動失調症調査研究班」の名のまま(班長・平山恵造・千葉大学教授)主たる対象疾患を脊髄小脳変性症に戻すとともに広義の脊髄小脳変性症に含められるシャイ・ドレーガー症候群もその対象疾患とすることにした。それに付随して自律神経症状をも積極的に本班での対象症候とした。続く平成4年からは厚生省による班構成システムの変更をはさんで7年間を金澤がお世話をさせて頂いたが、対象疾患については前の平山班と大きく変えなかったが、少し脊髄小脳変性症へのウェイトを大きくした。班研究の目標の第一に遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子同定とその病態解析を挙げた。第二には脊髄小脳変性症の治療について、現在では小脳性運動失調症状に対するTRHの注射治療があるのみであることに鑑み、新しいアイディアや経験による治療法の開発・発見を目標とした。その他、本班の伝統である小脳を中心とた、生物学的基礎研究あるいは小脳性運動失調にかかわる臨床生理学的研究を広く推進することを第三の目標とした。
研究方法
結果と考察
研究成果=平成10年度の研究成果
遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子異常に関する研究:遺伝性脊髄小脳変性症の多くは、常染色体優性遺伝形式をとり、CAGリピートの異常伸長を原因とするものである。最近、こうしたCAGリピート病の多くに共通する病理学的所見として核内封入体があることが知られてきた。特に、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、マシャド・ジョセフ病(MJD)、脊髄小脳萎縮症6型(SCA6)など我が国に多い病型を対象として研究が進められてきている。本年度の本班の研究の中で、特筆すべきものは以下の通りである。1)脊髄小脳萎縮症6型(SCA-6)の原因遺伝子はカルシウムチャンネルa1Aであり、その遺伝子内のCAGリピートがわずかではあるが異常に伸長することによって遺伝性皮質小脳萎縮症(遺伝性CCA)が生じることが最近我が班の班員によって確認されたが、本症においてなぜ小脳プルキンエ細胞が選択的に変性・脱落するか不明であった。それに対して、カルシウムチャンネルa1A遺伝子の発現がプルキンエ細胞で著しく高いことを明らかにした。この事実が細胞変性の選択性を決めている可能性を示唆している。今後のより詳細な検討が必要である。2)DRPLAの分子病態学的解析が進んだ。DRPLAは我が国に比較的多い脊髄小脳変性症として世界から注目されている。単一精子におけるCAGリピート数を計測することによって、DRPLA遺伝子のCAGリピートの異常な伸長が精子産生の段階で生じることが明らかになっているが、どの分化過程で実際に起こるかを確かめる方法が確立した。一方、培養細胞にDRPLA遺伝子のほぼ リピート部のみを強制発現させることにより、細胞核内に封入体が出現しアポトーシスによる神経細胞死が生じることが知られていたが、細胞が異なると封入体が形成されても必ずしも神経細胞死が生じるものではないことも分かった。
脊髄小脳変性症の薬物治療に関する研究:本班で脊髄小脳変性症に対する薬物として取り上げたのは4種類である。まずMJDに対するテトラヒドロビオプテリンにつては、現在二重盲検群間比較試験が公式に行われているので、最終かつ論はそれにゆだねたい。次に、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝アミノ酸投与の効果については、緩やかな改善効果を認めた症例が多く期待できるものであった。さらに、ノルアドレナリン代謝促進効果をもつ抗うつ薬methlphenidate(商品名、リタリン)の効果については、多くの症例に何らかの自他覚的効果を認めた。また、acatazolamideについては、カルシウムチャンネル異常によるSCA-6の小脳性運送失調に対して運動失調評価スケールを用いて検討したところ効果が期待できることを示した。
脊髄小脳変性症の病態把握のための臨床生理学的研究:本年度も様々な観点から臨床生理学的研究が行われたが、脊髄小脳変性症の病態に直接関係する重要課題の結果は以下の通りである。1)視覚的事象関連電位は認知機能の異常検出に有効であるとされている。脊髄小脳変性症には比較的大脳高次機能障害は少ないとされてきたが、この方法により得られるP300に注目してでき髄小脳変性症患者について検討したところ、P300の潜時延長、振幅低下、反応時間延長などの異常が高頻度に認められた。この結果は、大脳-小脳関連の障害によることが推定された。2)脊髄小脳変性症、特に多系統萎縮症(MSA)においては声帯麻痺を伴うことが多く、生命予後を決定する重要な症状として注目されている。まず、MSAにおいては声帯外転筋単独麻痺が多いことが突然死に結びつく可能性が高いことが分かったので、気管切開を決定するためのガイドラインを作成することを考えて検討した。その結果、MSA患者に「いびき」を認めた場合、喉頭ファイバースコープでその音が声帯から発することを確かめ、そうであれば終夜酸素分圧モニターを行いそれが90%以下となる時間が睡眠時間の約15%以上になった場合は気管切開を行う時期であることを提唱することができた。3)リハビリテーションの立場からは、運動機能制御におけるフィードバックの入力として体性感覚、視覚、平衡感覚が知られている。これまであまり検討されていなかった音刺激が運動失調に与える効果を調べたところ、小脳性運動失調にはあまり大きな効果はなかったが、脊髄性運動失調症状に対しては運動軌跡のスムーズさと規則性が改善した。4)脊髄小脳変性症の中で最も多い、多系統萎縮症(MSA)についてその自律神経症状を系統的に検討し、MSAに最も多い自律神経症状は従来考えられてきたような起立性低血圧ではなく排尿症状であることを見出した。また、最も早期に出現するものも、起立生低血圧ではなく排尿症状であった。
遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子異常に関する研究:遺伝性脊髄小脳変性症の多くは、常染色体優性遺伝形式をとり、CAGリピートの異常伸長を原因とするものである。最近、こうしたCAGリピート病の多くに共通する病理学的所見として核内封入体があることが知られてきた。特に、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、マシャド・ジョセフ病(MJD)、脊髄小脳萎縮症6型(SCA6)など我が国に多い病型を対象として研究が進められてきている。本年度の本班の研究の中で、特筆すべきものは以下の通りである。1)脊髄小脳萎縮症6型(SCA-6)の原因遺伝子はカルシウムチャンネルa1Aであり、その遺伝子内のCAGリピートがわずかではあるが異常に伸長することによって遺伝性皮質小脳萎縮症(遺伝性CCA)が生じることが最近我が班の班員によって確認されたが、本症においてなぜ小脳プルキンエ細胞が選択的に変性・脱落するか不明であった。それに対して、カルシウムチャンネルa1A遺伝子の発現がプルキンエ細胞で著しく高いことを明らかにした。この事実が細胞変性の選択性を決めている可能性を示唆している。今後のより詳細な検討が必要である。2)DRPLAの分子病態学的解析が進んだ。DRPLAは我が国に比較的多い脊髄小脳変性症として世界から注目されている。単一精子におけるCAGリピート数を計測することによって、DRPLA遺伝子のCAGリピートの異常な伸長が精子産生の段階で生じることが明らかになっているが、どの分化過程で実際に起こるかを確かめる方法が確立した。一方、培養細胞にDRPLA遺伝子のほぼ リピート部のみを強制発現させることにより、細胞核内に封入体が出現しアポトーシスによる神経細胞死が生じることが知られていたが、細胞が異なると封入体が形成されても必ずしも神経細胞死が生じるものではないことも分かった。
脊髄小脳変性症の薬物治療に関する研究:本班で脊髄小脳変性症に対する薬物として取り上げたのは4種類である。まずMJDに対するテトラヒドロビオプテリンにつては、現在二重盲検群間比較試験が公式に行われているので、最終かつ論はそれにゆだねたい。次に、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝アミノ酸投与の効果については、緩やかな改善効果を認めた症例が多く期待できるものであった。さらに、ノルアドレナリン代謝促進効果をもつ抗うつ薬methlphenidate(商品名、リタリン)の効果については、多くの症例に何らかの自他覚的効果を認めた。また、acatazolamideについては、カルシウムチャンネル異常によるSCA-6の小脳性運送失調に対して運動失調評価スケールを用いて検討したところ効果が期待できることを示した。
脊髄小脳変性症の病態把握のための臨床生理学的研究:本年度も様々な観点から臨床生理学的研究が行われたが、脊髄小脳変性症の病態に直接関係する重要課題の結果は以下の通りである。1)視覚的事象関連電位は認知機能の異常検出に有効であるとされている。脊髄小脳変性症には比較的大脳高次機能障害は少ないとされてきたが、この方法により得られるP300に注目してでき髄小脳変性症患者について検討したところ、P300の潜時延長、振幅低下、反応時間延長などの異常が高頻度に認められた。この結果は、大脳-小脳関連の障害によることが推定された。2)脊髄小脳変性症、特に多系統萎縮症(MSA)においては声帯麻痺を伴うことが多く、生命予後を決定する重要な症状として注目されている。まず、MSAにおいては声帯外転筋単独麻痺が多いことが突然死に結びつく可能性が高いことが分かったので、気管切開を決定するためのガイドラインを作成することを考えて検討した。その結果、MSA患者に「いびき」を認めた場合、喉頭ファイバースコープでその音が声帯から発することを確かめ、そうであれば終夜酸素分圧モニターを行いそれが90%以下となる時間が睡眠時間の約15%以上になった場合は気管切開を行う時期であることを提唱することができた。3)リハビリテーションの立場からは、運動機能制御におけるフィードバックの入力として体性感覚、視覚、平衡感覚が知られている。これまであまり検討されていなかった音刺激が運動失調に与える効果を調べたところ、小脳性運動失調にはあまり大きな効果はなかったが、脊髄性運動失調症状に対しては運動軌跡のスムーズさと規則性が改善した。4)脊髄小脳変性症の中で最も多い、多系統萎縮症(MSA)についてその自律神経症状を系統的に検討し、MSAに最も多い自律神経症状は従来考えられてきたような起立性低血圧ではなく排尿症状であることを見出した。また、最も早期に出現するものも、起立生低血圧ではなく排尿症状であった。
結論
公開日・更新日
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