遅発性ウイルス感染

文献情報

文献番号
199800851A
報告書区分
総括
研究課題名
遅発性ウイルス感染
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
北本 哲之(東北大学医学部病態神経学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小船富美夫(国立感染症研究所)
  • 片峰茂(長崎大学医学部細菌学)
  • 堂浦克美(九州大学医学部脳研病理)
  • 高須俊明(日本大学医学部神経内科)
  • 品川森一(帯広畜産大学獣医学科公衆衛生学)
  • 中村健司(東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学)
  • 長嶋和郎(北海道大学医学部分子細胞病理学)
  • 保井孝太郎(東京都神経科学総合研究所微生物学免疫学)
  • 毛利資郎(九州大学医学部動物実験施設)
  • 黒田康夫(佐賀医科大学内科学)
  • 佐藤猛(国立精神神経センター国府台病院)
  • 志賀裕正(東北大学医学部附属病院神経内科)
  • 立石潤(老人保健施設春風)
  • 田中智之(和歌山県立医科大学微生物学)
  • 玉井洋一(北里大学医学部生化学)
  • 二瓶健次(国立小児病院神経科)
  • 檜垣惠(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 堀田博(神戸大学医学部微生物学)
  • 松田治男(広島大学生物生産学部免疫生物学)
  • 山内一也((財)日本生物科学研究所)
  • 三好一郎(東北大学医学部附属動物実験施設)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、プリオン病、SSPE、PMLの3疾患の病態解明と発症予防である。この目的を達成するために、プリオン病に関しては、診断法の確立、モデル動物の開発と病態解明をめざす基礎的研究を中心に行い、加えてプリオン病の全国調査の解析を行うとともに、今年度からは家族性及び外因性プリオン病の治療に対する取り組みを中心とした重点課題も開始された。一方、SSPEに関しては、臨床疫学調査に加えて、麻疹ウイルスと宿主の防御機構を中心に発病機構解明への糸口を探り、PMLに対してはHTLV-1のTaxがJCウイルスの調節領域の転写活性に及ぼす影響を明らかにすることと新しいDNA免疫法の確立をめざした。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1.プリオン病 a.イムノアッセイ法の確立 異常プリオン蛋白に対して、高感度なイムノアッセイを確立するための研究を行った。イムノアッセイにとって最も重要な要素は信頼できるモノクローナル抗体を多数保有することである。しかも、できるだけプリオン蛋白の異なるエピトープに対する抗体が必要である。今年度は、免疫原として主にレコンビナント蛋白を使用して抗体作製を行った。ウサギを用いたポリクローナル抗体の実績からヒト・プリオン蛋白23-230のみとした免疫原が最も高い力価の抗体を産生することが明らかとなり、マウス型の数種類の抗体の作製に成功した(田中智之、檜垣惠)。また、前年度成功したニワトリのモノクローナルはすでにファージ抗体系を確立しプリオン蛋白を効率よく免疫沈降させる系として今後の発展が期待できるようになった。これらのモノクローナルおよびポリクローナル抗体を駆使してプリオン蛋白の迅速な微量検出系の確立が現実のものとなりつつある。
b.モデル動物の開発 ヒトへの感染性を検討する上でヒト型のプリオン蛋白の遺伝子導入モデルの開発は不可欠である。このモデル動物作製のため、トランスジェニック(Tg)法(三好一郎、北本哲之)と遺伝子置換法(中村健司、北本哲之)を実施した。今年度特筆すべき成果があがったのがこのモデル動物である。作製したモデル動物の感染実験(毛利資郎、北本哲之)を行ったところ、ヒト型Tgマウスはマウスのプリオン蛋白が存在すると300-340日で100%発病した。これは、野生型のマウスを使用したヒト・プリオンの感染実験が600日の潜伏期間の後20-30%の発病率を示すことと比較すると充分な感受性であると考えられた。さらに、ノックアウトマウスと交配した完全ヒト型Tgマウスの潜伏期間は平均160日に短縮し、最短132日で発病するマウスの作製に成功した。これは、マウス・プリオンを用いたマウスへの感染実験に匹敵する高い感受性であり、ヒト・プリオンの感受性マウスとしては世界最短の潜伏期を示す。遺伝子置換法に関しても高感受性を示したTgマウスと同じヒト型プリオン蛋白の発現を中枢神経系で確認しており、現時点で完全なヒト型(ホモ・マウス)の作製にも成功して感染実験中である。
従来のマウス以外に、ラットやハムスターを使った感染実験でもアミロイド斑が出現することを示した(立石潤)。
c.基礎的研究 グルタミン酸トランスポーターのうち小脳プルキンエ細胞で特異的に発現されるEAAT4の発現量をプリオン蛋白のノックアウトマウスと正常マウスで比較したが、その発現量に差異は認められなかった(黒田康夫)。ライソゾーム機能を修飾する薬剤および A Kinaseの阻害剤が異常プリオン蛋白の産生に関与していることをスクレピー感染細胞株を用いて明らかにし、マウスプリオン株である福岡1株の感染型プリオン蛋白を高塩濃度が不安定にすることをin vitroにおいて明らかにした(堂浦克美)。cDNAサブトラクション法で同定したCJD感染脳に特異的に発現する遺伝子群の発現細胞を同定し組織内での局在を調べ、lysozyme M、hexaminidase、Mpg-1はミクログリア特異的に発現し、その局在は病理変化と一致することを見出した(片峰茂)。また、CJD感染脳で発現上昇が認められるiNOSに対してその遺伝子をノックアウトしたマウスに感染実験を行い若干の潜伏期の延長をみたが、対照群同様に発病した(玉井洋一)。また、プリオン感染の滅菌法として、昨年度液化エチレンオキサイドが有効であることを報告したがさらにプリオン蛋白の抗原性を指標に薬剤効果を調べたところ、グリシドールが有望であることが明らかとなった(品川森一)。
d.臨床疫学調査 厚生省が実施している「クロイツフェルト・ヤコブ病及びその類縁疾患調査」に報告された患者を解析し、以下のような特筆すべき結果を得た(中村好一)。79例の性別内訳は男32例、女47例であった。出身都道府県、主に生活した都道府県、発病時に居住していた都道府県に特別の集積性はなかった。発症時の年齢は平均63.3歳、標準偏差11.2歳であった。これらの症例について性・年齢をマッチさせた対照を選び、情報収集を行い、症例・対照研究として解析した。症例52例に対して100例の対照に関する情報が得られた。職業歴、動物との接触歴は危険因子ではなかった。既往歴ではヒト乾燥硬膜移植の既往を持つ症例が7例に対し、対照ではこのような既往を持つ者はおらず、種々の検討の結果、高いオッズ比が観察された。硬膜を使用しない脳神経外科的手術、輸血歴、鍼治療歴などは危険因子とは認められなかった。この調査を引き続き行うことが重要で、現在は危険因子と同定されていないような低い関連因子を今後同定できる可能性が示唆された。
また、硬膜例の解析では、硬膜移植の確認された52例全例がアルカリ処理導入前のライオデュラが使用されており、他の製品あるいはアルカリ処理をされた硬膜移植者は1例も発見されていない(佐藤猛)。また、硬膜例のなかで新型CJDと類似のアミロイド斑を持つ症例は今年度新たに2例が加わり全部で5例となった(長嶋和郎、佐藤 猛、立石 潤、北本哲之)。
臨床的な早期診断として、拡散強調像MRIの重要性が議論されており、研究班でも検討したが、早期診断として有効であるが必ずしも全例で有用であるわけでないことが明らかとなった(志賀裕正)。
2.SSPE 臨床研究として、284例のSSPEのうちアンケートに回答された178例のSSPEについて1972年から1996年までに死亡した78例について検討したが、死亡率は無治療群では94.4%、イノシプレックス使用群で50%、イノシプレックスとIFN使用群では31.3%と低下し、平均生存期間も延長しており治療の効果が示唆されている(二瓶健次)。海外でのSSPEの多発地での検討では、SSPE患者の麻疹罹患年齢に1歳未満の者が非常に多いことが明らかとなった(高須俊明)。
基礎的研究では、サルモデルを用いた麻疹ウイルスの感染初期のウイルス排除機構に関わる免疫機構の解析を行いIL-8の感染初期の上昇が確認された(山内一也)。また前年度に確立した脱髄病変を引き起こす麻疹ウイルス感染マウス・モデルを用いてさらに向神経性と持続感染性を検討した(小船富美夫)。麻疹ウイルスの同一親株に由来する継代株で向神経性の異なるウイルス株3組のM、F、H遺伝子解析を行い継代に伴う点突然変異をM遺伝子とH遺伝子に見出した(堀田博)。
3.PMLいままで、JCウイルスの有効な培養系が開発されていないため、ウイルスの持続感染機構の解析が遅れていたが、JCウイルスの構造蛋白をT抗原持続産生細胞内で発現させることにより、偽JCウイルス粒子をついに作製することができた。これにより、新しい手法でJCウイルスの感染増殖機構、感染者の免疫応答などの研究の発展の期待ができる。また、JCウイルスの構造蛋白を発現する発現体DNAを用いて、動物に効率よく免疫応答を誘導させる新しいDNA免疫法の開発も行った。この手法は、単にPMLに限らず、SSPEやプリオン病の新しいワクチン治療法として期待できる(保井孝太郎)。PMLの発症には、免疫不全状態が関わっていることは広く知られているが、最近HTLV-1患者にPMLを発症した症例と、HTLV-1の重感染のため高度の脳病変を生じた症例の経験からHTLV-1のTaxがJCウイルスの調節領域に働き転写活性を直接亢進させている可能性を検討した。その結果予想通り、HTLV-1 TaxがJCウイルスの初期と後期の両蛋白を著明に発現亢進させることを明らかとした。よってHTLV-1感染患者は免疫不全状態がなくてもPML発症の危険があることを指摘した。

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