原発性高脂血症

文献情報

文献番号
199800849A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性高脂血症
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤康(千葉大学)
  • 松沢祐次(大阪大学)
  • 馬淵宏(金沢大学)
  • 山田信博(東京大学)
  • 及川真一(東北大学)
  • 太田孝男(琉球大学)
  • 佐々木淳(福岡大学)
  • 横山光宏(神戸大学)
  • 永井良三(群馬大学)
  • 寺本民生(帝京大学)
  • 大内尉義(東京大学)
  • 井藤英喜(東京都老人医療センター)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 代謝系疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成10年度は以下の5点に研究の目標をおいた。すなわち、
(1)原発性高脂血症の実態調査と病態解析の対象としては以下の三つの疾患に焦点を絞り検討した。
a)家族性高コレステロール血症については、LDL受容体遣伝子の変異部位と病態との関係をはっきりさせ予後判定、治療方針へ反映させる。
b)家族性複合型高脂血症(FCHL)の病態解析については、特定のフィールドでまずFCHLが含まれることを前提としたゆるい診断規準を設定し、その疫学調査を行った。そこから症例の絞り込みをはかり、最終的にはFCHLの頻度、病態、病因にせまることを目標とした。また、アポCIII、リポタンパクリパーゼ、ミクロゾームトリグリセリド転送蛋白などの遺伝子に異常があるかを検討をする。
c)高HDL血症の解析については、原因として明らかにされてきたCETP遺伝子異常、肝性トリグリセリドリパーゼ遣伝子異常の頻度調査を目指した。また、動脈硬化との関連の不明なCETP欠損症について、疫学調査を中心に動脈硬化との関連につき検討を進めた。
(2)我が国における高脂血症について遣伝子レベルでの解析を行い、遣伝子異常が病態とどの様に関わるかを解明する。
(3)高脂血症及び粥状動脈硬化発症進展の分子機構の解析ならびに発生工学的手法を用いた新たな動物モデルの作出を通じて基礎研究の推進、および発生工学的手法を用いた脂質代謝異常の病態解析を通して、高脂血症の病態解析および治療法への応用を考える。
(4)高脂血症治療薬の副作用調査については、最近広く利用されるようになってきたHMG-CoA還元酵素阻害剤ならびにフィブラート系薬剤について副作用としての横紋筋融解症の定義がはっきりしていないこと、実施医に十分理解されていないこと、本症が起こりやすい基礎疾患などについての情報が不足している。これらの点につき調査を試みた。 
(5)高脂血症治療法のガイドラインの作成については、従来比較的検討が遅れていた食事療法などを中心に諸外国との整合性を含めて班員全体で検討していく。
研究方法
(略)
結果と考察
(1)原因が明らかにされてない原発性高脂血症の実態調査と病態解析については家族性複合型高脂血症(以下FCHL)、及び原発性高HDL血症の粥状動脈硬化との関連を重点的に調査した。その結果、千葉県安房地区の住民検診受診者を対象に、FCHLの特徴的高脂血症表現型であるIIb型高脂血症について検討した結果、過去3年間で2回以上TC220mg/dl、TG200mg/dlを呈する住民を抽出することによりFCHLの患者絞り込みに有用であるという結論に至った。この方法で抽出したIIb型高脂血症を呈する住民118名の家系調査を行い、FCHL32家系を同定した。現在疫学班と共同で頻度について解析中である。また、Bモード超音波法による総頚動脈平均内膜中膜複合体肥厚度(mean IMT)を測定した結果、FCHL群では、頚動脈硬化の進展がみられ冠動脈硬化の高いリスクを有すると考えられた。病因遺伝子としては,LDLレセプター共通変異,アポB遺伝子変異,およびリポタンパクリパーゼ遺伝子変異等は考えにくいことが明らかになった。また、高脂血症小児を調査した結果、小児と成人では同じ遺伝的背景があってもその表現型には大きな違いが認められ、何らかの環境因子が遺伝因子に加わる事で成人の表現型が完成される可能性が強いことが明らかになった。また、小児のIIb型高脂血症は殆どが家族性複合型高脂血症であった。コレステロール転送蛋白(以下CETP)欠損症における動脈硬化症の発症に関しては、1)CETP欠損症に肝性リパーゼ活性低下を伴った高HDL血症症例において、著名な動脈硬化性疾患の合併が認められた。また、2)CETP欠損症や高HDL血症の集積が認められる秋田県大曲地区の一般検診受験者を対象とした種々の検討より、CETP欠損症に起因する高HDL血症は動脈硬化防御的には働いておらず、むしろ動脈硬化促進的である可能性が示唆された。従来、HDLは抗動脈硬化作用を有しているため高HDL血症はリポ蛋白代謝上好ましい状態と考えられてきたが、本研究により、CETP欠損症に起因した高HDL血症症例においてはコレステロール逆転送系が障害され、むしろ動脈硬化が進行することが証明された。
(2)わが国における脂質代謝異常症の遺伝子解析の集計と登録については、家族性高コレステロール血症(FH)ホモ接合体19症例、ヘテロ接合体641例が登録された。黄色腫の合併率はホモ接合体で全例、ヘテロ接合体で87%であった。冠動脈疾患合併率はホモ接合体で73%、ヘテロ接合体で24%であった。34種類のLDL受容体の遺伝子変異が登録され、このうちのT1874C,K790X,P664L,C317Sの頻度が高く、全FHの15%であり、本邦におけるFHのcommon mutationと考えられた。CETP欠損症の遺伝子異常は6種類発見されており、スプライシング異常とミスセンス変異の2種類が大部分を占めることが明らかにされた。また、LPL欠損症にもcommon mutationの存在が明らかになった。北陸地区においては家族性高コレステロール血症の約20%を説明する,LDLレセプター遺伝子共通変異(K790X in Exon 17)を見出した。 これらの遺伝子形と薬剤との治療効果との相関を検討中である。
(3)高脂血症及び粥状動脈硬化発症進展の分子機構の解析ならびに発生工学的手法を用いた新たな動物モデルの作出においては3家系のアポA-I欠損症を見出し、それぞれの変異遺伝子の病態に及ぼす影響を解析した。このうちプロモーター領域の変異によるアポA-Iの合成低下は、各種アポ蛋白、リポ蛋白関連酵素を含め今回の発見が初めてである。また、新しい腎疾患であるリポ蛋白糸球体症患者が、アポ蛋白Eの新たな変異体を有していることを見いだし、これらがリポ蛋白代謝障害のみならず、腎障害を発症する遺伝的要因として重要であることが示唆された。さらにSREBP1と2によるコレステロールと脂肪酸代謝の調節の差異を明らかにし、さらにSREBPを介する新規薬物の開発を進めた。動物モデルとしてはスカベンジャー受容体欠損マウスの樹立とその解析、LPLおよびアポE過剰発現の抗動脈硬化作用の解析を行った。
結論
原発性高脂血症の臨床症状との関連がかなり明確になってきた。今後は合併症の防止を中心とした研究も必要であると考えられる。また、これまで進めてきた原発性高脂血症の病態調査の延長としては特に家族性複合型高脂血症に注目し、これまで進められてきた家系調査の解析を進めたい。また、小児の解析についてはIIb型高脂血症とFCHLの関係を明確にし、成人の解析をあわせて動脈硬化性疾患との関連を考慮した新たな臨床指標の確立が望まれる。

公開日・更新日

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