特発性造血障害

文献情報

文献番号
199800839A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性造血障害
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
溝口 秀昭(東京女子医科大学血液内科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野茂隆(東大医科研病態病理)
  • 小峰光博(昭和大学藤が丘病院内科血液)
  • 澤田賢一(北海道大学医学部第二内科)
  • 朝長万左男(長崎大学医学部附属原医研内科)
  • 仁保喜之(九州大学医学不第一内科)
  • 小澤敬也(自治医科大学血液学)
  • 村手隆(名古屋大学医学部第一内科)
  • 吉田弥太郎(京都大学東南アジア研究センター人間環境部門)
  • 浦部晶夫(関東逓信病院血液内科)
  • 大野竜三(浜松医科大学第三内科)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学第一内科)
  • 梶井英治(自治医科大学法医学・人類遺伝学)
  • 金倉譲(大阪大学医学部血液腫瘍内)
  • 厨信一郎(岩手医科大学第三内科)
  • 清水弘之(岐阜大学医学部公衆衛生)
  • 月本一郎(東邦大学医学部第一小児科学)
  • 堀田知光(東海大学医学部内科学第四教室)
  • 別所正美(埼玉大学第一内科)
  • 金丸昭久(近畿大学医学部第三内科)
  • 八幡義人(川崎医科大学血液内科)
  • 木村昭郎(広島大学原放医研血液内科)
  • 上田孝典(福井医科大学第一内科)
  • 原田実根(岡山大学第二内科)
  • 平井久丸(東京大学医学部無菌治療部門)
  • 木下タロウ(大阪大学微生物病研究所難治疾患バイオ分析部門)
  • 中尾真二(金沢大学医学部第三内科)
  • 三谷絹子(東京大学医学部第三内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 血液系疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成10年度は平成8年度から始まった当分科会の研究の最終年度であり、研究をまとめる方向へ持っていく。当分科会は再生不良性貧血(AA)、溶血性貧血(HA)、不応性貧血(MDS)、骨髄線維症(MF)の疫学、病因、病態、診断、治療、予後などにつき研究の展開を図る。各疾患の研究目的は以下のごとくである。
1.すべての疾患に共通:1)重症度基準の作成、2)微生物班と協力し、ウイルスの調査
2.再生不良性貧血:1)背景因子を明らかにするためのケースコントロールスタディのまとめ、2)全国の対象症例の単クローン性造血(クロナリティ)の検索、3)G-CSF投与と染色体異常の発生の関係の全国的調査、4)トロンボポエチンの臨床的有用性の検討。
3.溶血性貧血:1)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)①自己抗体の認識する抗原の同定に関する研究の継続、②AIHAの登録症例の長期の追跡調査、③クームス試験陰性AIHAの診断基準の作成、低力価寒冷凝集素症の診断基準の作成。2)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)①患者追跡調査の継続、②PIG-A遺伝子異常を加えた診断基準の作成の検討、③各個研究で遺伝子治療の可能性の検討。
4.不応性貧血:1)非定型MDSの病態の解明、2)鉄芽球性貧血に関するFAB分類の診断基準と我が国のそれの差異の検討、3)免疫抑制療法の有用性の検討、4)トロンボポエチンの有用性の検討。
5.骨髄線維症:重症度基準を作成し、それに基づく治療方針を検討する。



研究方法
結果と考察
結論
1.すべての疾患に共通の研究:1)AA、AIHA、PNH、MDS、MF の各疾患について重症度基準案を作成し、厚生省に提出した。この基準は治療法あるいは介護の指針となると考える。2)特発性造血障害におけるウイルスの検索:微生物班と協力し、特発性造血障害の患者骨髄組織あるいは末梢血から採取し、ウイルスゲノムを解析した。AA(11例)、赤芽球癆(5例)、MDS(45例)、HA(1例)で検索した結果、パルボウイルスB19ウイルス(B19)感染5例、HHV6感染を1例同定した。HHV8はMDSの5例で検出され、今後症例を増やしこれらのウイルスと疾患の関係を明らかにする必要がある。
2.再生不良性貧血
1)ケースコントロール研究に登録された患者数は64例でコントロールの数は391例であった。その両者の比較でオッズ比が2.0を超えた因子は、①肝疾患の既往、②喘息の既往、③リウマチの既往である。2)AAならびにMDSにおけるクロナリティの検討を全国規模で調査を行った。解析可能であったAA例50例中35例(70.0%)、不応性貧血疑診52例中42例(80.8%)、急性白血病25例中全例で単クローン性造血を認めた。AAと診断される例の中に高率に単クローン性造血を認める例があり、このような症例はMDSへ移行する可能性があること、さらにこの方法は不応性貧血疑診例を確診するのに有用と考えられた。3)G-CSFが投与された96例のAA患者で、登録後12か月にわたって検討し、染色体異常は18.5%(12/64例)、FISH法によるモノソミー7は9.86%(7/71例)、形態学的なMDSへの移行は7.04%(5/71例)であった。ヒストリカルコントロールに比し、有意には高頻度ではない。このような異常の出現がG-CSFによるものかどうかは重点領域研究の成果を待つ必要がある。4)トロンボポエチンの治療上の有用性の検討を開始したが、米国における副作用情報により一時中断している。5)各個研究において、Fanconi貧血において、FAA遺伝子産物のリン酸化、FAA/FAC複合体の形成、ついでその核への移行がこれらの産物の機能の発現に必要であることを明らかにした。再生不良性貧血-PNH症候群の病態をPIG-A遺伝子欠損の造血幹細胞を有するマウスを作成し検討中である。AAで長期生存例60例中8例(13%)にPNHクローンが見られ、AAの中にはPNHの病態と密接に関連する例が多いことを明らかにした。シクロスポリン依存性AAの病態に強く関与しているT細胞クローンの単離と不死化に成功した。このT細胞クローンはCD4陽性で自己の抗原提示細胞を介して、何らかの抗原を認識している可能性がある。
3.溶血性貧血
1)AIHA①検討した例の半数の抗体がRh抗原系を認識することが明らかにした。②クームス試験陰性AIHAについて、赤血球上のIgGの結合量で診断する診断基準を決定した。高齢者に多い傾向があり、ステロイドホルモンによく反応した。低力価寒冷凝集素症の診断基準について新しい有力な知見が得られず従来の基準を利用することとした。③レトロスペクティブ調査し把握したAIHAの患者集団185例(特発性 152例、続発性 33例)ついて検討を加え病態を明らかにした。特発性の生存率は2年で90%、5年で80%、10年で70%、20年で60%であり、25年の生存率は特発性の例で49%、続発性の例で15%である。特発性の例のクームス試験陰性化率は2年で15%、5年で25%、10年で35%、20年で45%である。20年間の病型移行は30%で、ほとんどがSLEであった。摘脾施行例は22%である。2)PNH①PNH患者の追跡調査:200例以上が全国の施設から登録されているが、その検討は次期以降の持ち越すことにした。②PNH診断基準は平成2年に作成されたものが用いられている。PIG-A遺伝子の異常を診断基準に加えるのは今後の課題としたい。③各個研究で、遺伝性球状赤血球症において種々の遺伝子異常のあることを明らかにした。PNHの患者に双生児の同胞から末梢血幹細胞移植を行い成功した。
4.不応性貧血
1)登録された不応性貧血251例を細分類し、RCは貧血は軽微であるが好中球や血小板減少を認めるrefractory cytopenia(RC)が比較的予後良好であることを示した。2)鉄芽球性貧血のFAB基準による診断例は赤芽球のみの異常を認め白血病になり難く、班の基準による診断例は3系統の血球が障害され前白血病状態にある例を含むことを明らかにした。3)不応性貧血においてシクロスポリンを投与したところ9例中4例(44%)で著効を呈した。不応性貧血例にメチルプレドニゾロンのパルス療法を行ったところ28例中8例(29%)で著効を呈した。4)トロンボポエチンのMDSに対する有用性の検討は、米国での副作用ほうこくのため治験を中断している。5)各個研究でMDSにおいて15/INK4Bのプロモーター領域が高率にメチル化していることを明らかにした。このメチル化は病態の進展と関与していると考えられる。ビタミンK2がMDSの芽球のアポトーシスを起こすことを明らかにし、治療に用いられる可能性も示した。MDSの病態の進展に関わる因子として、GSTT-1遺伝子の欠失、Evi-1の変異やMEN遺伝子発現異常がある可能性が示された。
5.骨髄線維症
1)本年度作成した重症度基準にしたがった治療指針の作成を目指した検討を開始した。2)各個研究で巨核球系前駆細胞の質的異常を示唆する結果を得ている。     

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