看護有資格者の動態を把握するためのシステム開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800830A
報告書区分
総括
研究課題名
看護有資格者の動態を把握するためのシステム開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
前田 樹海(長野県看護大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 太田勝正(長野県看護大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後の看護婦確保政策の立案やその評価に資する基礎データの収集を、低コストかつ継続的に実施するために現行の免許登録制度や従事者届制度を利用したシステムの検討および開発を行うこと
研究方法
看護有資格者の動態を把握するために必要な基礎的情報の種類(要素)およびそれらを収集するためのシステムについて、試験調査を行いながら検証する。その第一段階として、本年度は、1)入手可能な資料の検索と収集、2)現行看護関係免許システムについての情報収集(厚生省担当課への聞き取り調査)、3)看護有資格者の動態に関わる要素の探索、4)看護有資格者の動態に関わる要素を既存の制度の中で収集するための方法の検討、5)情報入力およびデータベース構築のためのシステムの検討、を実施した。
結果と考察
入手可能な資料の検索と収集に関して先行研究や文献レビューにより次のような結果が得られた。看護有資格者の動態を把握するための基礎資料として、現在厚生省報告例がある。これらの資料から得られる情報には、1) 保健婦(士)・助産婦・看護婦(士)・准看護婦 (士)の資格のうちで、調査時点で主として業務に使用している免許による分類に基づいて集計しているため、重複する免許についての活用状況などを詳細に見ることはできない。2)従事者届に記載する年齢は調査年の12月31日の満年齢であるが、統計資料上は60歳までの5歳年齢階級別に集計されるため、5年以内の期間で起こる就業動態に関する変化が反映されない。3)調査年の12月31日現在の就業者を対象とした断面調査であるため、前回調査時点からの就職者や離職者のインアウトの状況が把握できない。4)隔年実施の調査であるため、5歳年齢階級コホートの5年ごとの推移の把握には、非調査年の従事者数についての推計を余儀なくされるという動態を把握するうえでの問題点があると考える。一方、看護教育機関の卒業者名簿をもとに新たな情報を収集する際には、全体として名簿のメンテナンスの不備等により、対象者の把握率が極端に低くなるという調査そのものの有効性の問題や、継続性や全国的な調査を想定した場合、郵送や入力に莫大な費用がかかることは注意すべき点である。また、日本看護協会では会員を対象とした回収率の比較的高い調査を行っているが、調査対象が調査時点で協会員であるというサンプルの特殊性が考慮されなければならない。広範囲にわたる調査を安価に実施できるという点において、近年調査媒体としてにわかに着目されつつあるインターネットを利用した調査は、その普及率や回答者の自主性、サンプルの特殊性などのクリアすべき問題が多く、看護という特定の専門職を対象とした実態調査の媒体としては現状では使用できないと判断した。
現行看護関係免許システムの利用可能性について情報を得るために、厚生省健康政策局医事課試験免許室を対象として、看護職を中心とする現行の免許制度についてヒアリング調査を実施した。その結果、1)現行の免許制度は集計、統計を目的としたものではなく、免許に関する事項の登録のためのものであること、2)保助看法にもとづく免許申請書をもとに登録される事項は、本籍地、生年月日、試験の合格年月、免許の取り消しや業務の停止の処分に関する限られた事項であること、3)登録された内容および免許申請書記載内容からだけでは、看護有資格者の動態に関する多くの情報を得ることは困難であること、4)登録後の免許の管理は基本的に申請者本人の責任であり、抹消や改姓等の手続きが正しく行われているかどうかなどについて正確に把握することは困難であること、5)免許申請書には現住所の記入欄があるが、これを追跡調査等のために使用することは、当該申請書の目的外使用となり困難であること、6)他の免許がある場合については従事者届の備考欄に記載される方向であるが、免許制度として複数免許の関連を把握することは困難であるという実状がわかった。以上により、現行の免許登録制度そのものを利用して看護有資格者の動態を把握するための情報を得ることは困難であると判断した。
看護有資格者の動態に関わる要素の探索に関する検討を実施した。ほとんどが女性で占められる看護有資格者において、結婚、出産、育児、家人の介護等の事情とともに、仕事自体の満足感、自己効力感、および人間関係ならびに経済的な理由や進学が就業の継続に大きな影響を与えることは、以前より指摘されている。これらの要素の比重が増し、バランスが保てなくなったとき離職という結果が生じると考えられるが、これはもう一つの要素である個人の価値観、成熟度による影響を受けると考える。これらの要素がそれぞれどのように就業の継続に影響するかは、別の研究の成果を待つこととする。しかし従来、単に調査時点で就業しているかどうかだけを見ていた従事者届の情報、すなわち、就業=1、未就業=0と単純に数えていた情報を0~1の値に段階的に調整する就業継続見込係数によって、より現実に即した将来予測に向けて改良できる可能性があると考えられる。就業見込係数は、次の2つの方法によって推測可能と考えている。1)教育背景、就業年数などを変数として、現状の就業状況から推測する、2)今後の就業継続意志、就業見込みについての質問文への回答から推測する。これらの点については、平成11年度の予備調査を含む研究の中でさらに検討を行う予定である。
平成11年度に計画している長野県内のほぼ全看護職員を対象とした動態調査は、総件数約2万件を想定し、また、全国規模の従事者届を念頭に置いてシステム構築を進める必要がある。このため、対象者の回答時間および回答結果の入力時間の短縮化を図るために、光学式読み取り装置に対応した調査票(以下マークシート)を採用することとした。光学式読み取りは、マーク読み取り(OMR=Optical Marksheet Reader)と文字読み取り(OCR=Optical Character Reader)とに大別される。OMRおよびOCRは、現在、膨大な事務処理作業が発生している流通業界、マーケティング領域等を中心に情報入力の基礎的な技術としてほぼ確立しつつある。また、教育現場では、センター試験をはじめとして、日常的な試験の採点や授業等への学生評価の集計作業の効率化のために普及しつつある。定型化されたデータのコンピュータへの取り込み作業の効率化という観点からは特に大きな問題はないと考えるが、アンケートの回答のように回答者の協力の有無(回収率)や信頼性に調査票や回答用紙のデザインが大きく影響を与えると考えられるものについては、OMRおよびOCRのもつ特性を十分に踏まえながらデザインを行うことが必要である。しかしながら、医療保健を含む領域での文献はほとんどなく、今回、限られた先行研究の成果をもとに、著者らが新たに回収率や回答の信頼性を念頭に置きながらデザインを考案する必要があることが判明した。また、調査票の枚数も調査の回収率に大きな影響を与えるものであり、従来の従事者届が1ページの調査票であることを考えると、基本的に1ページという枠の中で、調査項目のレイアウトを行うことが必要であると考えた。以上のように、調査票にもとづく情報の入力のマークシート化を前提として、今回の研究におけるシステム仕様を検討した結果、次の条件を満たすハードウエア、ソフトウエアを導入することにした。1)文字、マークのどちらでも取り扱うことのできるのもであること、2)マークシートのデザインを独自に行うことができること、および操作性が優れていること、3)約2万件のデータをある程度短期間に処理でき、しかも予算上の制限に収まること、4)SEなどへの全面委託ではなく、ある程度の情報処理技術で利用可能なシステムであること(これは、マークシート読み取りや分析を外注化することによる個人データの漏洩リスクをなくすという倫理上の前提以外に、著者らが自ら取り扱い可能なシステムとすることで、研究の進捗に伴うさまざまな知見をその都度反映することを可能にするためである)
結論
従事者届をベースとした看護有資格者の動態予測には様々な限界がある。一方、看護有資格者を把握するためのもう一つの制度である免許登録制度を利用することは困難であると判断した。そこで就業見込について新たな推計指標を導入することによって従事者届の制度のみを利用して、より精度の高い動態予測のための情報を入手するシステムについて検討を進めている。

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