専門看護師・認定看護師の看護ケア技術とその結果、および退院促進事例の分析

文献情報

文献番号
199800828A
報告書区分
総括
研究課題名
専門看護師・認定看護師の看護ケア技術とその結果、および退院促進事例の分析
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岡谷 恵子(社団法人日本看護協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はI. WOC認定看護師に関する研究、II. 専門看護師に関する研究、III.文献研究で構成されている。それぞれの研究目的は以下の通りである。I.認定看護師に関する研究の目的:創傷・オストミー・失禁(WOC)看護認定看護師の導入前後を比較検討し、直接的看護ケア技術が退院促進にどのように影響しているか明らかにすること。II. 専門看護師に関する研究の目的:専門看護師の退院を促した看護ケア技術とその要素および実践能力について明らかにすること。III.文献研究の目的:諸外国のクリニカル・ナース・スペシャリスト(CNS)、ナース・プラクティショナー(NP)等の歴史的発展経過からの現状と評価、将来の展望について文献検討により明らかにすること。
研究方法
I. WOC看護認定看護師に関する研究:WOC認定看護師が初めて導入された病院において、直腸がんで腹会陰式直腸切断術(APR)を受けた患者を対象に、それらの患者が受けた看護ケアとその結果を、WOC看護認定看護師の導入前後で比較した。調査用紙を作成し、WOC認定看護師の協力を得て診療録や看護記録からデータを収集した。
II. 専門看護師に関する研究:2名のがん専門看護師を対象に、彼女らが退院に関わった事例についてがん看護専門看護師の記録・看護記録からデータを収集した。また、それらの分析をもとにした半構成的インタビューを実施した。すべての記述データを内容分析し、退院に関わるがん看護専門看護師の援助技術の要素を明らかにした。
III.文献研究::1995年から1998年の3年間における米国、イギリス、カナダ、ヨーロッパ諸国などのCNS、NPをはじめとするスペシャリストに関する文献を分析対象とした。文献検索はCINALで、“Clinical nurse specialist"、“Nurse practitioner"、“Advanced practice nurses"のキーワードで検索した。その中からCNS46件、NP164件、APN39件の合計249文献を選出した。
結果と考察
I. WOC看護認定看護師に関する研究:26病院のAPRを受けた患者100人が対象。100人のうちWOC看護認定看護師導入前群54人、導入後群46人であった。対象者の性別は導入前群は男性39人、女性15人。導入後群は31人と15人であった。平均年齢は導入前群が63.6歳、導入後群が60.3歳で、両群間には差がなかった。2群の患者が術前に受けたケアを比較すると、導入後群は導入前群に比べて、術前の患者教育、マーキング、心理状態の査定をよく受けていた。術後のケアの比較では、術直後から3日目までのケアは両群に大きな差はなかったが、4日から6日目、7日から10日目では、ストーマや排泄状態、ストーマ周囲の皮膚の状態の観察、ストーマやそのケアの方法に関する患者教育などに有意な差が出た。特に、在院日数の比較では、導入後群が導入前群に比べて約7日有意に短かった。また援助なしでストーマの装具交換ができるというセルフケアの確立も約7日間有意に早かった。しかし、術前の平均在院日数は約13日で、両群間に差はなかった。導入後群に見られた在院日数の短縮は、WOC認定看護師による術前からの患者教育、心理面への対応、適切なストーマの位置決め、術後のストーマの大きさや周囲の皮膚の綿密な観察、装具の選択や交換に関する患者教育などが影響していると思われる。術前からの考えられた、一貫したケアは結局無駄を省き、効率的であると考える。WOC看護認定看護師が配置されている病院にはストーマ専門外来や看護基準が作成されていること、ストーマケアについての継続教育が実施されていることなどスタッフナースのケアの質を向上させるための条件が整っていた。このことを考えると、専門外来で術前に必要なケアを実施することにより術前の入院日数をさらに短縮できるものと考える。II.専門看護師に関する研究 -がん専門看護師の看護ケア技術と退院促進事例についての分析-:データ分析の結果、退院に関わるがん看護専門看護師の基本的な姿勢と考えられる介入要素と早期退院を促したのではないかと思われる介入要素が明らかになった。基本的な姿勢と考えられる介入要素としては、退院の条件を明確にすること、在宅療養を可能にする条件の整備、患者・家族の対処への信頼、タイムリーな活動、自己の責任範囲の明確化、病院・外来・在宅ケアの継続性の補充、教育的役割モデル、患者の生き方のプロセスに添うこと、がんに関する社会の適動向の熟知といった要素が抽出された。退院を促進したと思われる介入要素として、退院に関わる人々の意向の「ずれ」を調整すること、理論に基づいた介入の実践とスタッフナースのジレンマを解決すること、がん看護専門看護師が優れた直接的ケアを提供することが明らかになった。がん患者は常に再発、転移による憎悪、死亡の危険性を抱えており、入院と退院を繰り返す。したがって、がん患者の早期退院の意味は、患者のニーズに対応した良質の治療やケアを提供することによって必要最小限度の入院期間にとどめ、患者のQOLを高めることである。専門看護師は優れたケースマネジメント能力を有し、がん患者の退院促進に大きく貢献している。
III.文献研究 -諸外国のCNS・NPの現状とわが国の展望-:米国ではマネジドケアのもとで、治療やケアのアウトカムを評価することが要求されている。最近の米国のヘルスケアにおける財政と市場の競争においては、コストと質の評価が不可欠である。CNSやNPは、質の高いケアを効率的に患者に提供する技術と知識を有し、彼らの提供するケアの費用対効果が高いことが実証されている。特にNPは医師と比較して、病気の予防的ケア、病状の改善、患者の受診行動、患者満足度、コミュニケーションの技術などにおいて優れていることが実証されている。CNSのケア効果を測定するための指標としては、費用と質の両面から評価されており、費用では、入院期間、合併症の割合、患者のコンプライアンス、医療費償還の変化、看護者の転職率、看護スタッフの満足度と生産性などがあった。質の面では、不安の軽減、合併症の軽減、退院計画、患者満足度、看護スタッフの技術と知識の向上などであった。また、CNSとNPの新しい法律が1998年1月から施行され、この法律によってすべての地域において、CNS・NPがメディケアに関して医療費償還が受けられるようになった。文献の検討によって、米国においては変化する医療の現場において、CNSやNPの役割・権限の拡大が求められていることがわかった。
結論
今回の研究の結果、以下のことが明らかになった。1)WOC看護認定看護師の導入は入院期間の短縮に影響をもたらすことがわかった。WOC看護認定看護師の導入後にケアを受けた患者群の平均在院日数は導入前の患者群に比べ、約7日間短かった。
2)WOC看護認定看護師は、術前、術後においてストーマの位置決めや術後のストーマの状態の観察、患者への指導や心理的な準備の支援、セルフケアの促進、ストーマ装具の選択など様々なケアを計画的に、良く考えて、一貫して実施していることがわかった。このようなケアが在院日数の短縮をもたらしたと言える。
3)がん看護専門看護師は、がん患者の退院を促がし、患者が望む療養場所や療養方法を提供することによって患者のQOLを高めることに貢献している。
4)米国ではCNSやNPのケアの結果を評価する研究が多く実施されており、それらの研究結果はCNSやNPの費用対効果、ケアの質の高さ、知識や技術の確かさ、患者の病状の改善、健康促進といった効果を実証している。

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