看護技術の開発および評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800827A
報告書区分
総括
研究課題名
看護技術の開発および評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
上泉 和子(兵庫県立看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川誠(近森リハビリテーション病院)
  • 井部俊子(聖路加国際病院)
  • 金井Pak雅子(国際医療福祉大学)
  • 田中由紀子(横浜市港湾病院)
  • 鶴田恵子(横浜市衛生局)
  • 西川美智子(横浜市立大学浦舟病院)
  • 平井さよ子(横浜市大看護短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の目的は(1)看護必要量の測定の導入・利用状況に関する実態を明らかにすること、(2)看護必要量の変動について明らかにすること、(3)看護必要量の測定の実態と妥当な測定手順を明らかにするとともに、特に測定者の条件と教育訓練の必要性を明らかにすること、最後に(4)看護必要量による看護料の評価を導入する際の課題及び準備の必要性を明らかにすることである。
研究方法
上記の4つの各調査毎に研究方法を述べる。看護必要量導入の実態を調査するために、病院要覧を用いて無作為に全国の1,500施設を選び、郵送による質問紙調査を行った。看護必要量の変動の調査には、二つの病院における全病棟の、1年間分の看護度のデータを用い、年間変動、月間変動、病棟間格差等について同等性の検定を行った。適正な看護必要量評価者の条件および、教育訓練の必要性を把握するために、100名の患者に対して、複数の看護必要度測定者による測定を行いその一致率をみた。さらに一致率の高かった看護者ならびに患者の背景を分析することで、適正な看護必要量評価者の条件と探求した。最後に看護必要量による評価導入に際しての、現実的な問題を抽出するために、19名の看護管理者を対象にグループインタビューを行った。
結果と考察
上記の4つの各調査毎に結果を述べる。
(1) 看護必要量測定の導入に関する実態調査
1,500施設へ質問紙を配布し、回答数は411施設であった。看護必要量の測定を行ってっていると答えたのは、411施設中、127施設(37%)であった。多くは、患者の特性を評価することで看護の必要量を予測する、原型評価タイプの測定ツールを用いており、うち厚生省12分類看護度を用いている施設が、約半数であった。看護必要量の測定者は婦長が最も多く、患者一人あたりの測定時間は30秒未満が48.3%であった。データ処理を手作業で行っていると答えている施設が54.2%と最も多く、パソコン処理を行っているのはわずか23.3%であった。
(2)看護必要度変動の実態について
看護必要量の変動状況を知るために、二つの施設のデータを用いて、年内変動、月内変動、曜日による変動、病棟間格差を検討した。両施設とも厚生省看護度12分類を用いていた。変動を検討するために、看護度の「観察の頻度」のA、B、C群に評価された患者数を用い、同等性の検定を行った。年内変動は、病棟によって変動の大きい病棟と小さい病棟があった。看護度の各群に分類される患者数は病棟間で有意に異なることがわった。曜日による看護度はA、B群は曜日による変動を認めなかったが、観察の頻度Cの患者、すなわち観察の頻度の少ない患者で曜日ごとに変動していることが確認された。
(3)適正な測定者の条件と教育訓練の必要性について
一人の患者に対して3人の看護者、一人の研究者が看護必要量の測定を行い、その一致度を検討することで、適正な測定者の条件や教育・訓練の必要性を検討した。
看護度を測定した患者は100名で、3者の評価が一致したのは48件であった。測定者の経験年数、患者の直接ケアをしている日数と一致度は関係なかったが、看護必要度測定の経験回数では、経験のある看護婦のほうが、一致度が高くなる傾向が認められた。それまでの教育・訓練の有無とは関係なかったが、測定結果へのフィードバックや指導を受けている人は、優位に一致率が高くなっていた。
(4)看護必要度評価導入に関する課題
看護必要量測定を医療機関に導入するに当たり、現実的な課題を抽出するとともに、整備の状況を把握することを目的に、看護管理者に対して、グループインタビューを行った。 インタビューの結果、ツールの妥当性の期待、看護業務の整理の必要性、過度の評価を抑制するための第3者評価の必要性、インフラの整備、啓蒙活動の必要性が述べられた。また将来的には看護実践能力の評価への導入が課題として述べられた。
看護度を加味した看護の評価を導入していくにあたり、看護管理者の課題は、看護必要度を加味した看護料金体系が現場に及ぼす影響について現実的予測をしていくこと、また看護必要量の結果の生かし方として、看護職員の柔軟な雇用形態に関する体制の整備への取り組みを始めること、と考える。急性期と慢性期の看護ケアの、経済的評価の格差については、以前から問題が指摘されていた。看護必要量評価導入の領域を明確にすることと、適正な測定ツールの開発が第一である。また看護必要量による看護の評価は、看護サービスの質の保証を担保することで、経済的な測定に直結するものと考える。経営者としての手腕が問われるところである。
結論
看護必要量の導入に際しては、看護必要量評価の概念について整理し、啓蒙活動をしていく必要がある。一つは患者に必要な看護ケアの量を測定するのか、繁忙度を測定するのかの違いである。二つ目は看護必要度を評価するツールは、予測としての「必要量」を測定するのか、提供した量「提供量」を測定するのかの違いである。それによって実際に提供される看護サービスを担保するシステムが異なってくる。また三つ目は使用する言葉の概念的な整理である。先にも述べたように看護必要度には、量のみならず「質」「専門的な看護」「看護技術の難易度」等、様々な概念が含まれており、現段階で測定可能なものとして、あえて看護必要量として取り上げていることを明確にする必要がある。
看護必要量測定方法は、評価の単位は看護単位ごとが妥当であること、測定はどの曜日でも可能であるが、月内変動が激しいため、毎日、少なくとも一ヶ月程度続けて測定したデータの蓄積を評価するのが妥当である。測定所要時間は患者一人あたりおよそ30秒以内が、病棟規模から考えても可能な時間である。データ蓄積の必要があるため、ぜひインフラの整備が必要である。
測定者は婦長が適正という結果が出ているが、これは管理的な能力の必要性によるものではなく、婦長が持っている背景的な条件が影響していると考えられ、測定者が管理者である必要はない。しかし2~3年以上の臨床経験が必要である。教育・訓練は測定ツールにもよるが、測定結果へのフィードバックと指導がより適正な評価をもたらすことと考える。

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