看護サービスの経済的評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800825A
報告書区分
総括
研究課題名
看護サービスの経済的評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
菅田 勝也(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤鈴子(大分県立看護科学大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
看護サービスの経済的評価について、看護サービスの質の維持・向上に要する費用の負担、および、看護サービスの質によって影響されるとともに医療費増の要因ともなる入院中の有害事象発生という2つの側面から検討した。前者については、公益性を強く期待されながら経営問題に直面している公立病院を題材として、病院の立地条件や経営的諸特性と看護サービスの質との関わりを明らかにすることを目的とした。後者については、看護サービスの質と有害な患者アウトカムの発生状況との関係を明らかにするための分析を行った。
研究方法
看護サービスの質と費用の関係の分析では、13大都市と12中核市に所在する公立病院のうち、特定の疾患や患者群を対象とするものではない一般病院(全57病院)を抽出し、「平成8年度地方公営企業年鑑 第44集(病院)」から、入院患者1人あたり看護婦数、入院患者1人1日あたり入院料収入、入院患者1人1日あたり看護婦給与、補助金対医業収益比率などを算出し、看護サービス特性の指標として使用した。ただし看護婦数と看護婦給与については病院全体の数値を用いた。欠落データが多かった2病院、病床利用率が極端に低かった1病院、および病床数100床未満の2病院を除外し、52病院を分析対象とした。また、「平成8年医療施設(静態・動態)調査・病院報告」、「平成8年社会福祉施設等調査報告」等の報告書、および厚生省保険局調査課作成資料から、医療福祉サービス関連指標、医療費関連指標、地域特性指標を選出あるいは算出した。分析は52病院全体で行ったのち、都市区分別の2群(大都市と中核市)、設置主体別の2群(都道府県と市)、および国民健康保険医療費地域差指数のうち入院医療費分(以後、「入院医療費地域差指数」とする)が高い都市と高くない都市の2群に分けて行った。一方、入院中の有害事象発生の分析では、「平成8年患者調査病院(奇数)票」、「同病院退院票」、「同一般診療所票」、「同一般診療所退院票」から、患者の主傷病名、副傷病名、手術の有無、転帰を取り出して患者データセット(約117万件)を作成した。臨床経験6年以上の看護婦2名と看護管理経験者1名が判定者となり、別々に、主傷病名、副傷病名、手術の有無から判断して入院中に発生した有害事象である可能性が高い患者を選出し、判定が一致しなかった例についての判断の違いについて討論した後、有害事象判定規準を作成した。次に、「平成8年医療施設調査・病院報告」を用いて、入院患者対看護要員数と看護要員中の(正)看護婦割合を施設毎に算出した。こうした手続きの後、一般病床患者分(老人病床、療養型病床群を除く)について、有害事象発生率と看護要員配置状況との関係をみた。
結果と考察
大都市・中核市の一般病院の病床数のうち公立病院が占める割合は12.3%であった。公立の一般病院は公立以外の一般病院に比べて平均在院日数が短く、特に入院医療費が高い都市においてその差が顕著であった。都市区分別では中核市の方が若年齢の住民が多く、外来・歯科の医療費が低く、老人に対する施設が充実していた。入院医療費地域差指数別では、入院医療費が高い都市は人口あたり一般病院数、病床数、医師数、老人保健施設定員が多く、従って人口あたりの在院患者数、外来患者数も多く、平均在院日数が長かった。また、入院医療費が高い都市の公立病院の方が、入院患者あたり看護婦数と補助金比率が小さかった。さて、病院が診療報酬として受ける入院料収入の多くの部分は看護サービスに対する報酬とみなすことができるが、近年、高い入院料点数をとるための要件としての入院期間や平均在院日数の規準が厳しくなっている。したがって、患者の入院期間や平均在院日数は間接的に入院料収入に
反映する。平均在院日数が短かくなると患者の重症度は相対的に高くなり、より密度の高い質の良いサービスの提供が必要であるため、多くの看護婦を必要とする。52病院全体で看護サービス関連指標相互の関係をみたとき、入院患者あたり看護婦数、入院患者あたり看護婦給与、補助金比率の3指標間にはそれぞれ正の相関があったが、入院患者あたり入院料収入とこれら3指標の間には有意な相関関係が認められなかった。しかし、入院料収入と看護婦数の関係は入院医療費地域差指数別で違いがあり、入院医療費が高くない都市、言い換えれば、人口あたり病床数が少なく平均在院日数が短い都市にある公立病院は、入院患者あたり入院料収入と看護婦数との相関が比較的高いことがわかった。一方、平均在院日数が長く入院医療費が高い都市においては、公立病院はその平均在院日数が短いにも関わらず、入院患者あたり入院料収入と入院患者あたり看護婦数との対応が全くみられなかった。前者のような地域の方が、在院日数を短縮するために、看護サービスの質を向上する努力をより多く求められると推察できる。先に述べた入院患者あたり看護婦数と補助金比率との間の正の相関関係は、都市区分別では中核市において、設置主体別では市立で有意であった。大都市の公立病院、あるいは都道府県立の病院は補助金比率が元々高いために、入院患者あたり看護婦数と補助金比率が敏感には対応しないようである。入院患者あたり看護婦数の増加は看護サービス人件費の増加を意味し、それは病院全体の費用の増加につながる。一方、補助金比率の増加は経営の悪化を表すと考えられる。入院患者あたり看護婦給与と補助金比率の間には正の相関があったが、看護サービスに関わる部分の収支関係を表す入院患者あたり入院料収入と入院患者あたり看護婦給与の間には相関関係が認められなかった。つまり、看護サービス向上に必要な費用増の調整が、看護サービスに関係する収支のバランスによって行われる余地は少なく、むしろ補助金のようなほかの収入によって調整されている部分が大きいと推察された。次に、看護サービスの質と有害事象発生の分析では以下のことが明らかになった。一般病床(老人病床、療養型病床群を除く)の患者のうち、入院中の患者の有害事象発生率は1.0%、退院患者では0.8%であった。死亡退院患者での発生率は4.4%であった。いずれの場合も入院期間が長い方が発生率が高かった。これら入院中の有害事象発生率は海外の文献に見られる発生率より低い値である。これは、傷病名が主傷病名と副傷病名の最大2つしかわからないことと、判定規準を厳しくし、不確実な事例は排除したことによると思われる。患者あたり看護婦数が多い方が有害事象発生率は低い傾向があり、(正)看護婦割合についてもそれが高い方が有害事象発生率が低い傾向があった。しかし、手術の有無別でみると、手術ありの退院患者の場合はそうした傾向が認められなかった。今回の分析は予備的なものであって、今後、患者の重症度や施設の特性などで調整した分析や疾患別の分析を行い、看護サービスの質と入院中の有害事象発生との関係を確認する必要がある。
結論
看護サービスの収入と質の関連性は、入院医療費地域差指数が高くない都市において比較的高いこと、看護サービスの質向上に必要な費用増を、看護サービスに関係する収支のバランスから調整するのは難しいことが明らかになった。また、看護サービスの質が入院中の有害事象の発生に影響していると推察された。

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