小児救急医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800824A
報告書区分
総括
研究課題名
小児救急医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院母子保健学部)
研究分担者(所属機関)
  • 市川光太郎(北九州市立八幡病院小児科)
  • 山田至康(六甲アイランド病院小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子社会の進行、小児医療の不採算性による小児科の縮小、小児科医希望者の減少、そして地域小児科医の高齢化と、わが国における小児救急医療の危機的状況が心配されている。わが国の小児医療がこうした困難な状況に陥りつつあることは、以前より現場の小児医療関係者らによって実感されてはいたが、平成8・9年度にかけての本研究事業の結果、この問題の実態がはじめて客観的に解明された。特に、小児救急医療サイドの問題点として、小児救急医療の不採算性及び小児科医のマンパワー不足の問題は深刻であり、今後小児医療の危機的状況が社会問題化していく以前に、早急に対策を講じておくべき課題であることが、これまでの研究結果として認識された。
以上の結果に基づき、平成10年度は、わが国における小児救急医療のより詳細な実態把握と、今後の小児救急医療のあり方を検討する為の基礎資料とすることを目的として、以下の6項目に重点を置いて調査を実施した。①全国の小児診療基幹病院における小児救急の実態調査、②救急センターや二次救急病院における小児救急患者の割合に関する調査、③急患センター受診小児の保護者に対する意識調査、④急患センターや救急病院小児科における小児救急患者の重症度調査、⑤小児医療の採算性についての検討、⑥大学附属病院における小児救急医療の追加実態調査。
研究方法
①小児救急医療の実態に関する調査は、全国の小児診療基幹病院である日本小児科学会研修指定病院628施設に対して調査用紙を配布し、496施設から回収を得て実施した(回収率79.0%)。調査内容は、連日当直の実施状況、初期救急医療・二次救急医療・三次救急医療をそれぞれ実施している施設の割合、他科に比較した小児科医の数、他科に比較した小児科医の月間当直回数等である。
②小児救急患者の割合に関する調査は、全国の急患センター及び二次救急病院に対して実施し、平成10年11~12月の総患者数の内、小児救急患者の占める割合を求めた。
③保護者に対する意識調査は、北九州市立八幡病院救命救急センター併設の急患センター小児科を受診した小児の保護者1,005名に対して実施した。
④小児救急患者の重症度調査は、北九州市立八幡病院救命救急センター併設の夜間休日急患センターと、神戸市六甲アイランド病院小児科にて実施した。平成10年10~12月の期間に両施設を受診した3,983名の小児について、年齢層、性別、受診時間帯、来院方法、重症度等についての調査を行った。重症度は、受診不要、軽症、受診必要、二次救急疾患、三次救急疾患、社会的受診、社会的入院の7段階に分類した。
⑤小児医療採算性の検討は、以下の資料に基づいて実施した。1)病院部門・診療科別原価計算調査報告書(全国公私病院連盟・平成9年6月)、2)病院経営分析調査報告書(全国公私病院・平成8年6月)、3)病院概況調査報告書(日本病院協会・平成9年6月)。
⑥大学附属病院における調査は、平成9年度に実施した調査に追加して、大学附属病院における救急医学講座数、救命救急センターの設置数、及び救急部の設置数について調査を実施した。
結果と考察
①小児救急医療の実態に関しては、小児科が連日当直を実施している病院は213施設で全体の44%であった。従って、全国では250施設前後が連日当直を実施していると推定される。救急医療については初期救急が78%、二次救急が92%、三次救急が62%の施設で実施されており、それらの施設における小児科医師数は1~5名が全体の56%、10名以下が全体の80%と、他科に比較して僅少であった。また、医師一人当たりの月間当直回数は内科が2.31回、外科が2.25回であるのに対し、小児科医は3.49回と他科の約1.5倍であった。また、他科に比較して当直勤務状況が過酷であると答えた小児科医は約7割に達していた。さらに、これらの施設の小児科が抱えている問題点として、研究が行いづらい、学会に出席しにくい、医療器械を買って貰えない、といった声も少なくなく、将来の小児医療水準に影響を及ぼしかねない状況にあることが危惧された。
②急患センター及び二次救急病院の総患者数に占める小児救急患者の割合は、急患センターの場合が全体の46.3%、二次救急施設の場合が25.7%であった。今後は、初期救急における小児の患者数が、全体の半分近くを占める事実を考慮した対応が必要である。
③急患センターに対する保護者の意識調査の結果は、98%の保護者が24時間診療可能な急患センターを、また、91%の保護者ができれば急患センターにおいて確定診断可能な検査が出来ることを望んでいた。
④急患センター及び救急病院小児科における小児救急患者の重症度調査の結果は、緊急の処置や治療を必要とする、いわゆる受診必要例及び二次、三次救急入院の頻度は、それぞれ23.9%、4.0%、0.3%で、合計28.2%が緊急に医療行為を必要とした。この結果、小児救急患者は一般に言われるほど軽症者ばかりでないことが明らかになった。
⑤小児救急医療の採算性を検討した主な結果、1)患者一人1日当たりの診療収入で、小児科は最終的な収入で全科の平均を下回った。2)小児科医一人1日当たりの患者数に関して外来は他科並であったが、入院患者数は他科の約半分であった。3)小児科医一人1日当たりの診療収入は、患者入院の場合で他科の約半額、外来の場合でも内科や全科の平均を大きく下回っていた。以上より、小児医療の不採算性は明らかであった。
⑥大学附属病院における追加調査の結果は、救急医学講座が約半数に設置されていたが、救命救急センターは30%に満たず、救急部の設置も60%であった。また、初診を積極的に受け入れている施設から、再診も受け付けていない施設まで受診状況にはかなりの幅があることが明らかになった。
結論
今回の調査結果、全救急患者のうち初期救急(急患センター)で5割弱、二次救急病院で約1/4を小児救急患者が占めていた。これは、15歳以下の人口が全国民の16%弱であることに比較して多数である。その理由として、小児が突然の怪我や疾患にかかりやすいこと、保護者が育児不安や相談者不在等によって必要以上に受診したがることが考えられる。しかし、軽症であるから受診不要とは言えず、今回の調査では受診した小児のうち緊急処置を必要とする者も少なくなかった。
小児救急における大きな課題として、以前より小児科医マンパワー不足の問題が示唆されていたが、今回の調査で、他科に比較して過酷な小児科医の勤務状況が数値として明らかになった。この対策としては、病院間において当直の輪番をするか、何らかの方法で小児科医の数を増やす方法を考えなくてはならないであろう。また、小児の救急患者は小児科で診るのか、全ての医師で診るのかという基本的な点についても検討が必要である。小児科医マンパワー不足の背景には小児医療不採算の問題があり、その具体的内容についても本研究で明らかになった。わが国の保険制度は、全ての国民が医療を受けられる点で優れているが、小児の診療報酬の点で問題があると考えられる。今後、小児診療の不採算制を是正するためには、保健診療において小児医療診療点数の根本的再評価をする、または、小児医療は別枠に算定する等の対応が必要である。

公開日・更新日

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