諸外国の医療施設における施設基準・人員配置基準に関する研究

文献情報

文献番号
199800823A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国の医療施設における施設基準・人員配置基準に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
筧 淳夫(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、良質な医療を提供するために、医療施設の施設環境と職員の人員配置基準を見直すための基礎的資料を整理することを目的として実施した。わが国の医療施設の施設基準と人員配置基準は昭和23年に定められた医療法によって規定されており、現在のように医療施設が多様な役割を担って機能分化して行くなかで、再検討が必要となっている。そこで、これからの検討の基礎的な資料として諸外国の施設基準と人員配置基準の現状を把握する必要がある。
研究方法
本研究の研究成果を得るために、平成10年8月31日から平成10年9月9日にかけて、ドイツおよびフランスにおいて、ドイツ国保健省及びフランス国雇用・連帯省でのヒアリング調査、およびデータの入手を行うために現地調査を実施した。その際、各国において同時にヒアリング調査を実施した対象は以下の通りである。
●ドイツ国:(1)AOK(一般地区疾病金庫)連邦連合会、(2)ノルトライン・ヴェストファーレン州労働・保健・社会省保健局、(3)ドイツ病院協会
●フランス国:(1)ANAES(国立衛生機能評価機構)、(2)フランス私立病院連合
この調査において得られたデータをもとに、本研究においては、以下の8項目について有無、内容などを「国・連邦レベル」、「州レベル」「民間団体、医師会等のガイドラインレベル」、「医療保険レベル」、「統計レベル」の計5つのレベルにおいて調査・分析して整理した。
(1)医療施設の分類・定義、(2)病床の分類・定義、(3)人員配置基準、(4)人員配置の統計データ、(5)構造設備基準(病室面積、廊下幅、必要施設など)、(6)構造設備の統計データ、(7)平均在院日数の定義・算定式及び算定の目的(保険支払い等)、(8)平均在院日数の統計データ
結果と考察
各国別の調査結果は以下の通りである。
●ドイツの場合
(1)医療施設の分類・定義:連邦法上病院は一般病院、その他の病院、連邦国防軍病院の3種類に分かれており、それとは別に予防・リハビリテーション施設が定められている。また通称的分類においても一般病院、精神病院、リハビリテーション病院、専門病院に分けられるのが一般的であり、やはり一般病院の中から入院が長期にわたるリハビリテーション病院や精神病院がはずされている。
(2)病床の分類・定義:定められていない
(3)人員配置基準:ドイツの場合、人員配置基準は1992年に定められ実施されていた看護要員規定は1996年に中止され、1997年に廃止された。それは、「当初の見込み以上の要員増が達成されたから」「個々の病院の実状に適合しているかどうかに疑問が生じたから」「公的な関与を少なくし当事者の自己責任を強化するため」などの理由による。精神病床に関しては各患者ごとに必要な1週間分の以下の治療・看護時間を規定している。「医師による治療」、「看護婦による看護」、「心理学修士のカウンセリング」、「エルゴセラピー」、「運動療法」、「社会心理学のカウンセリング」。一般病床の看護要員規定及び精神科の人員配置規定ともに、夜勤時の業務量、夜勤体制、州の労働時間、休憩などの条件が各病院ごとに異なるために、必要な人員量を一律に算定することは不可能である。
(4)人員配置の統計データ: 病院に勤務している総看護婦数は1996年で100床あたり58.85人である。
(5)構造設備基準:ノルトライン=ヴェストファーレン州の病院建築政令では、個室の面積は10㎡以上、多床室の場合は1床あたり8㎡以上と定められている。また廊下幅は人のみが通る廊下の場合1.5m以上、ベッドが通る廊下の場合2.25m以上となっている。
(6)構造設備の統計データ:ノルトライン=ヴェストファーレン州の調査によると2床室で1床あたり9.27㎡、3床室で1床あたり7.99㎡である。
(7)平均在院日数の定義・算定式及び算定の目的:連邦政府の統計局が計算をしており、毎年1年を期間として全病院を対象として調査を行っている。計算方法は以下の通りである。延入院患者数/((新入院患者数+退院患者数)/2)
(8)平均在院日数の統計データ:1996年のデータでは、病院全体の平均在院日数は11.4日であり、一般病院だけでは10.8日となっている。
●フランスの場合
(1)医療施設の分類・定義:国の法律により「病床を持つ医療施設」「病床を持たない医療施設」「中期療養施設」「長期療養施設」の4施設に大きく分かれる。 「病床を持つ医療施設」は公的病院サービスを実施しているHopitalとそうでないChiniqueの2つに分けることができる。前者のHopitalは公的施設の民間施設に分けることができ、公的施設は「地域病院センター」「病院センター」「地区病院」「精神病院センター」「その他」に、民間病院は「短期入院施設」「リハビリテーション及び長期療養施設」「精神病院」「その他薬物中毒、アルコール中毒施設」「在宅看護及び在宅透析の施設」に分けられる。
(2)病床の分類・定義:特に定められていないが、統計資料上は「一般急性期(内科、外科、産科)」「リハビリテーション」「長期療養」「精神科」「薬物及びアルコール中毒」に分けて記されている。
(3)人員配置基準: 民間病院だけを対象として看護職の基準が定められている。内科施設では夜間を含めて1日あたりで8床あたり1人の国家資格看護婦が必要とされている。夜間の最低基準は80床あたり1人以上、40床あたり1人以上の国家資格看護婦が必要となっている。外科系施設では夜間を含めて1日あたりで、5床あたり1人の国家資格看護婦が必要とされている。
(4)人員配置の統計データ:公立病院で働いている常勤看護職員数(看護婦のみ)を公立病院の病床数で割ることにより求めると1995年で100床あたり115.19人となる。
(5)構造設備基準:私立病院を対象とした基準において、個室の面積が9㎡以上、2床室が17㎡以上、3床室が24㎡以上、4床室が30㎡以上、5床室が36㎡以上、6床室が42㎡以上などと決められている。
(6)構造設備の統計データ:存在しない
(7)平均在院日数の定義・算定式及び算定の目的:公的病院においては実際の入院日数を総合入院件数で除して求めている。
(8)平均在院日数の統計データ:1995年の資料によると公立病院の平均在院日数は一般急性期病床で6.1日、リハビリテーション病床で32.3日、長期療養病床で507.3日となっている。
結論
すなわち、まず医療施設の分類においては、急性期の医療を提供している施設を中心に医療施設の体系が組まれているために、日本のそれとは直接的に比較ができないことが明らかとなった。人員配置基準についてはドイツが一時期看護婦の要員数を定めていたものの、現在ではそれを廃止しており、フランスも含めて必要数を各病院が独自に確保しているので、日本のように国全体として医療施設が必要とする最低基準を設けてはいない。構造設備基準については、ドイツが州レベルで決めているところがあるものの、全国レベルでの基準はなく、フランスも一部の市立病院をのぞけば同様である。
これらをまとめてみると、各病院に対する仕様規定としての施設基準が非常に緩い、もしくは無いのが一般的であり、人員配置や面積基準といった仕様をそろえることが問題ではなく、ある仕様のもとで行われた医療行為の質を評価することが重要であると考えられる。

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