医師国家試験等改善に関する研究

文献情報

文献番号
199800822A
報告書区分
総括
研究課題名
医師国家試験等改善に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
細田 瑳一((財)日本心臓血圧研究振興会)
研究分担者(所属機関)
  • 畑尾正彦(日本赤十字武蔵野短期大学)
  • 齋藤寿一(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医師国家試験の改善の為に①MCQの問題作成の形式にskills analysis法を用いることができるかどうか、②臨床能力の評価を国家試験に組入れる方法としてOSCEをどのように用いるか、③良質な試験問題作成とプール制への応用の3項目について検討し、夫々の国家試験への導入の具体的方法を考える。
研究方法
①skills analysis形式の利点を生かした問題を60題作成し、医師国家試験既出問題60題と合せて、6大学の医学部5学年生を対象に2時間の模擬試験として試行し、その結果を解析して、医師国家試験の問題として用いうる良問を選んで例示する。
②既に作成試行したOSCEのステーション課題に加えて、新しい課題と評価方法を作成追加する。全国の大学医学部医科大学でのOSCE実施状況を調査する。これらの試行結果から成績表示法と合否判定基準について提案する。 
③研究協力者の所属する10大学における学内試験の既出問題から正解率40%以上で且つ識別指数0.1以上の問題を各校10問づつと基準に合致しない問題2問づつ合計120問を収集して、夫々研究協力者の良問(適切な問題)かどうかの判断を求めて集計解析する。
結果と考察
①6大学医学部の5学年生合計474名を対象として試験を行った。国試既出問題60問では正解率の全体の平均は54.8%(最高58/60・最低5/60)であり、正解率の大学毎の比較では最高77.6%、最低28.1%となった。一方skills analysis形式の問題60問では、正解率の全体の平均は51.9%(最高44/60・最低16/60)であり、大学毎の平均は最高54.2%、最低48.5%であり、最高点は既出問題より低く、最低点は高く、受験生毎、大学毎の差は既出問題と比べて小さかった。両問題の合計では全体の平均正解率が53.4%(最高66%・最低38.3%)であった。出題領域を12分野に分けて検討した領域毎の正解率には、既出問題とskills analysis形式で領域毎の相関は認められなかったが、このことは従来の試験が問う項目の内容が、分野が同じであってもskills analysis形式の問題の評価する内容と少し異なる可能性を示した。識別指数については、既出問題については識別指数の高い適切な問題を選んで構成したものであり、全て0.14以上の信頼性の高い問題であった。skills analysis形式の問題は、受験者が初めて遭遇した形式であり識別指数がマイナスとなった問題が14題と多く、その中で正解率20%以下の問題が4題含まれ、識別指数プラスの問題の中にも正解率20%以下の問題が7題あり、その中3問の識別指数は0.05以下であった。skills analysisの利点の一つに理由づけを問い易い点があげられるが、この理由づけの条件を解答肢に含ませると二つの事を同時に問う形式となり、複雑で受験生が解答に迷う原因ともなっている。また複雑な図表の読解を問う問題の5問では正解率18~72%とばらつき識別指数も0.03~0.06と低くなっており、readingを問う良問と考えて出題した意図が生かされなかった。正解率が適正で識別指数の高い問題の中には、形式的に従来の既出問題に類似した形式のものが5題含まれていた。しかし、形式が従来のものであっても、主題が稀な疾患であると正解率が低く、識別指数は比較的高い。論理や判断を問うskills analysis形式の問題では、比較的易しい問題でも正解率、識別指数共に低い問題がみられた。真偽形式で出題された15題は、いずれも正解率が高く、2題を除いて70%以上で、その中7題が90%以上の正答率であった。真偽形式(true false) 問題の作問、出題に当っては、この点に十分配慮するべきであるが、問題の主題は受験者にもよく理解され、正確な評価法として優れている。識別指数0.10以上正解率30%以上の問題が14問あり、その中識別指数0.15以上は12問であった。skills analysis形式の利点を用いた良問を作成することは容易ではないが臨床診療の現場を再現する医療面接からの健康問題抽出を試す問題、学術論文や複雑な図表の読解、それらを根拠とした重みづけや診断・治療の進め方の判断など設問に用いられるテーマは多く、分野も広い。設問や選択肢はなるべく簡明にするように心がけ、従来の形式に判断基準などを入れた問題や難易度の高い場合の真偽形式の導入など、今後考慮すべき点も明らかとなった。
②OSCEの実施に関しては、研究協力者の所属大学の状況を調査した。各大学が一度のOSCEに採用している課題数は4~14課題で、全体で16種類の課題が用いられていた。その中今年度新たに加わったものは4課題で、臨床能力教育ワーキンググループで検査処置等の実技及び「疾患を想定した身体診療法」(基本手技から訓生する各種のもの)などの課題を作成し、更に医療面接のステーションで用いる新しいシナリオを作成した。成績表示方法については得点による表示法が通常用いられている。評価表の評定尺度にマークされた各評定項目の評定点を合計した得点で表示し、合否判定は各課題毎に得点60%を分割点とする大学が大部分である。別の表示法として「0」評定項目数による表示(「0」評定法)があり、「0」(最低評価)とされた課題の項目数で成績を表すものであるが、まだ使われている大学はない。「0」評定法における合否判定基準は、各課題で判定項目の中「0」とされた項目が40%以下であれば合格とするか(A方式)、或いは各課題の全評定項目数をほぼ均等に分けた4段階(4,3,2,1)の評定尺度で表示した場合に「0」と評定された数がどの段階に当るかによってOSCE全体としての合否判定を行う方式(B方式)でも評価できる。
③良質な試験問題作成とプール制の導入に関しては、提出された問題の正解率の分布を調査した結果、不適切と判定された問題は正解率85%以上または30%以下のものが多かった。識別指数については一定の傾向を認められなかった。今後、問題のbrush up法を検討する。
結論
①skills analysisの利点を生かして適正な問題を作成することは容易ではないが、医療面接の会話、複雑な図表や学術論文の読解などから根拠ある論理、判断を問う問題を作成することができ、正解率、識別指数の適当な例題が作成された。これにより、評価の分野は広がり、難易度も変化するが、難易度の高い問題にはtrue falseを用いるのも一法である。 
②OSCEの実施に関連して、実技ステーションで提示する課題と医療面接のシナリオを新たに作成し、現在用いられる課題は16課題となった。成績表示法としては現在得点法が主として用いられており、合否判定基準は60%とされているが、この他に成績表示法として課題の各項目について最低を「0」とする「0」評定法及びOSCE全体を4段階とする方法があり、合否基準としては「0」評定の項目が40%以下を合格とすることを提案する。
③良質な試験問題作成とプール制の導入に関する研究は本年度基礎調査を行い、全国の協力校10校から120問を収集し解析し、適切問題の条件を保った。来年度はこの問題のbrush upの方法について検討する。 

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