震災後の診療機能の回復手順に関する研究

文献情報

文献番号
199800818A
報告書区分
総括
研究課題名
震災後の診療機能の回復手順に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
河口 豊(広島国際大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大震災発生直後に直ちに被害状況を把握しながら、自院の診療機能レベルを評価することは被災地のすべての病院に必須の行動である。本研究では災害拠点病院だけでなく、被災地病院で直面するであろう震災直後の病院(診療)責任者の緊急判断に役立つ震災発生直後から1~2日程度の急性期に限定して、自院の診療機能レベルを速やかに評価するための手順とチェックリストの作成を目的とする。
研究方法
阪神大震災直後から行ってきた調査結果の見直しを行い、その中から診療機能の早期回復を促す行動について点検を行った。同時に昨年度の研究である「病院における震災後の診療機器等の復旧による診療機能の回復に関する研究」から必要な診療機器等とそれを使用した診療を想定し評価した。次に診療評価の手順検討を行い、①阪神大震災の際に震災発生直後から診療機能復旧のために行った内容・行動及び今後行うべきと考えられる事項を時間経過で整理すること(緊急時の行動手順になる)、②検討条件の設定、③緊急時に診療担当責任者に必要な最低限の情報の整理、④これに対する各部門からの報告内容の整理、⑤各情報の記載様式と記載要領の設定、また防災マニュアル等との関連をふまえるために、災害拠点病院に対する防災対策整備状況アンケート調査を行った。
結果と考察
防災対策整備状況を知るために災害拠点病院504施設に郵送によるアンケート調査を行い、回答を得たのは230施設、回答率は45.6%であった。防災マニュアルを作成しているのは31%、すでに作成済みを見直している病院と併せても44%であった。作成中は26%であるが、まだ検討中と手をつけていない病院を併せると30%にものぼる。トリアージを行う場所・初期治療の場・応急入院の場を特定している病院の割合は、59%、67%、48%であった。昨年度の研究結果から震災後2~3日位までの診療回復に必要な診療機器等10種48品目について、その耐震措置を聞いたところ、各機器別にみると施している病院の割合は10~20%にすぎない。機器の耐震性への意識が低かった。次に阪神大震災の経験から、発生直後~24時間以内での行動は、①在院中の患者および職員の安全性の確認、②建築被害の確認:退去か診療継続かを即時に判断する、③電気、水、ガス設備等の被害確認:被害の確認と二次災害の防止対策、貯水槽被害による給水能力の判定、④非常用発電の稼働時間推定:発電用燃料の残量把握、燃料確保の可能性。⑤診療体制の構築:診療継続の可能性を判断し、現有職員で可能な診療体制を構築、⑥診療場所の設定:人員の確保と診療場所を設定、直ちに院内に徹底、⑦医薬品、診療材料等の在庫確認と診療機能の評価:応急処置を行いながら機能評価結果から支援内容や後方への移送対策を決定、⑧重症患者の院内搬送体制の設定:停電後の点検無しでのエレベーター稼働は危険、重症者の階段搬送は労力を要し、診療機能を阻害、⑨外部情報の収集と連絡:特に自院の周辺の被害や交通機関等の外部情報を的確に把握、緊急診療体制の構築、⑩遺体収容場所の確保、等であった。次いで24~48時間(被災状況の再評価の時期)では、①機器、設備、人員の総括的診療機能の見直し:集まった職員が参加し機器設備被害の確認等により診療機能のより正確な評価、②被害状況の詳細把握と再評価:給・排水管等による浸水被害や転倒、落下被害のより正確な情報による診療機能再評価、③診療機能を維持するためのライフライン復旧と補給対策:外部からの給水が途絶した場合は、給水対策は何よりも優先、送電の停止では、自家発電で維持できる時間は限られ、殆ど診療機能は麻痺し昼間の応急処置程度、外部情報の収集と今後の見通し:地区災害対策本部との情報交換と支援内容、後方支援病院の確認と搬送手
段の依頼、患者・職員のための食料・飲水等と生活手段の確保:自力で可能な食料と飲水、平常勤務者数の倍程度のスタッフ生活確保。大震災は昼夜、季節を問わず発生の可能性があるが、その発生する条件により病院内の状況は大きく変化する。そこで「緊急医療を行うことができるかどうか」と「どのような医療が可能であるか」の診療機能を即座に、あるいは緊急に評価するための項目の設定とチェックリストの作成を行った。このためには被災した病院であっても次の条件が前提になる。①発生時期(時間帯)は早朝、夜間の時間外とする。②ライフラインは大震災直後は電気、水、都市ガスの供給が停止しても、6~12時間以内に送電が再開された状態を想定する。この間、水、ガスの供給は停止。③職員、要員確保は発生直後は夜勤看護婦、当直医師、その他職員が勤務、発生後30分~1時間以内にある程度の看護婦、医師が緊急出動出来るとする。④対象疾患は大震災直後に殺到する傷病者数は多いが、傷病の種類は比較的限られており、平成10年度の研究課題と同様に外傷・火傷、骨折、クラッシュ症候群、尿閉・急性腎不全、ショック、狭心症・心筋梗塞、喘息など呼吸器疾患、重症術後患者、分娩(正常、異常)、新生児・未熟児とする。⑤発生直後から目標とする限られた時間内に可能な治療手段を検討する。このような条件で可能な診療行為、特に治療はきわめて限定され、多くは「医薬品」と「診療機材」に一部の医療機器を使用する程度になる。以上の検討を経て次の資料を作成した。1)大震災発生直後急性期に必要な情報と診療レベルの整理、2)診療責任者に必要な情報の整理、①被害状況総括表の作成、②診療機能評価表の作成、③急性期傷病の治療手段と評価表の作成、3)診療責任者に報告するための部署別報告書内容の作成として①病棟用(初日用、2日目用)、②設備、施設担当部門用、③放射線部門用、④検査部門用、⑤薬剤部門、機材部門用(前項③急性期傷病の治療手段と評価表を利用)、4)上記各評価チェック表の記載要領の作成を行った。本研究は阪神大震災経験に基づいて評価手順と評価表を作成し、今後同様な事態が発生した際の指標として整理したものである。これらは既存のマニュアルに基づく院内体制が動き出すまでの極く初期の活動を支援することにある。そのため内容的には既存マニュアルに提示された情報の範囲、レベルに比較してかなり簡略化している。限られた職員数で、しかも短時間に自院の状況を把握するには細部までの情報収集は不可能であり、また大震災発生最初期の緊急医療活動の実施決断のために必要な情報はこの程度でも充分であると考える。特に災害拠点病院でさえ、防災マニュアルそのものの作成が遅れている病院がある現状では、一般病院の最初の対応として利用価値が大きいと考える。また、防災マニュアルではまず病院長又はそれに準ずる者が責任者として挙げられている。しかし時間外で多くの診療責任者が不在の場合は、その時点での担当医師であっても直ちに指揮を執る。そしてこれに従う職員の行動と、その後の責任者への円滑な権限の移行が出来るように柔軟な組織と職員教育が必要である。
結論
昨年度の課題を引き継ぐ形で、今年度は震災直後の診療機能評価手順と評価表の検討を行った。が、大震災急性期に自院の診療機能水準がどの程度かを評価するもので、対象機記も更に限定したものに絞った。阪神大震災と同様な混乱が発生した場合、最初期の混乱状況はさほど変わらないものと考える。そしてより効率的な診療機能が発揮されるのは24~48時間以降においてと考えられ、それまでの緊急事態での初期活動をより円滑に行う為にこの診療機能評価手順と評価チェックリストは有用であると考える。

公開日・更新日

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