救急医療に関する教育の質の向上に関する研究

文献情報

文献番号
199800817A
報告書区分
総括
研究課題名
救急医療に関する教育の質の向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
市来嵜 潔(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 有賀徹(昭和大学医学部)
  • 相馬一亥(北里大学医学部)
  • 坂本哲也(公立昭和病院)
  • 菊野隆明(国立病院東京医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
時々刻々と病態が変化する救急医療こそ経験的ではなく理論的に行われなければならない。しかし、一般の救命救急センターにおいてはマンパワーの不足特に専属医の不足により経験的な診療になってしまっているのが実情である。その結果、救命救急センターでの研修は、救急疾患の検査・診療における手技的なものの習得が主体となってしまっている。救急医療における教育の質の向上を目指すためには、理論的な診療を実施する姿勢と、診療に役立つ、質の高い直ぐに利用できるデータベースの存在が重要であると考え、いかにすればより良いデータベースを作成できるかを検討することを目的とした。
研究方法
救急医療の現場で使用することの出来るデータベースとはどの様なものであるか、どの様にすればその様なデータベースを作成することが出来るかを検討した。その結果、診療に必要なデータは、入院前の状況、既往歴、初療室における各種検査結果、画像情報など多岐にわたることが分かった。
現在病院前の情報は救急隊員に対する調査用紙により収修し、同時にインタビューするという方法が採られていた。これらをデータベースとして取り込むためには、各疾患毎に診療のフローチャートを作成し、そのフローチャートに従い収集すべき項目のチェックリストを作成して、取りこぼしの無いようにデータを取り込む必要がある。
今年度は、救命救急センターにおいて頻繁に遭遇する病態、すなわち意識障害(外傷性、非外傷性)、呼吸困難、ショックを取り上げ、診療のフローチャートとチェックリストの作成を行った。
結果と考察
フローチャートを作成する前提として、救命救急センターの初療室で行える検査結果をもとにどの様に診療を進めていくかと言う観点からと言うことにした。救命救急センターの初療室では、末梢血・生化学、血液ガス分析、心電図、単純レントゲン撮影、SpO2モニター、心エコーは行えるとした。
意識障害を外傷性・非外傷性に分けて考えた。外傷性意識障害は、①頭部外傷によるもの、②その他の外傷(心血管系、呼吸器系、腹部骨盤等)によるもの、③両者の合併するものに分け治療方針を決定していく。非外傷性の意識障害は、①バイタルサイン(呼吸。循環・体温等)、②神経症状、③既往歴、④発症様式、等から原因を検討して治療方針を決定していく。これらのプロセスに必要な初療室でのバイタルサイン、検査結果、既往歴などを取り入れたチェックリストを作成した。
呼吸困難の診療は、肺性/循環系と肺外性の2群に分けることから始まる。すなわちSpO2が92%以下の群は肺性/循環系で、その原因の鑑別のためには呼吸機能検査、微生物検査、超音波検査、CT、気管支ファイバー検査などの特異的検査が必要となる。またSpO292%以上の群は肺外性と考えられ、呼吸中枢、神経筋、呼吸筋等の異常によってもたらされ、筋電図などの特異的検査が必要となる。既往歴、呼吸様式等の情報も非常に重要で、どの様な項目をリストアップすべきかを検討した。
ショックはその症状(いわゆる5P、pallor, prostration, perspiration, pulselessness, pulmonary insufficiency )が見られれば、直ちに対症療法を始めると同時に既往歴の聴取、外傷や注射・刺傷等の有無のチェックを行い、ショックを来す可能性のある原因疾患を検索しなければならない。そのために必要な項目をリストアップした。
救急医療の現場で理論的な診療を実践していくためには、診療チーム全体でより理論的な診療を目指そうとする強い姿勢を保つことが重要であることは言うまでもないが、救急診療に際して必要に応じ何時でもアクセスできる質の高い、広範囲な救急疾患に関するデータベースを作成することが必須であると考えた。
救急関係のデータベースで有名なものは中毒データベースであるが、救命救急センターでの初療時に役立つと言う観点からは、疾患別ではなく病態別のデータベースである必要がある。データベースはあくまでも臨床的で若手医師の教育に役立つものであることが前提で、検査結果などの数値データのみならず、臨床症状、発症からの経過、既往歴などの文字データも収集する必要がある。
有用なデータベースを作成するためには、①各病態の診療のフローチャートを作成する、②各段階で必要な検査をリストアップする、③その結果を漏れなく取り込むためのチェックリストを作成する、④一定期間後に再度チェックリストの検討を行う、⑤データの収集・入力を容易なものにする工夫をする、⑥データベースを用いた各種の検討を行う、と言うステップを繰り返す必要がある。
数値データの収集は、検査結果をオンラインでコンピュータに取り込むことで容易となる しかし臨床症状などの文字データの収集は、チェックリストを工夫することが大切である。精度の高い文字情報データを収集すると言うことはすなわち診察の質を高めることで、この事自体が教育の質の向上をもたらすことになる。
今年度作成したフローチャートとチェックリストを用いて、データの収集を行っていきたい。データの収集を容易にまた十分に行うためにはどの様な工夫をすればよいか、また文字情報の収集にはどの様な方法が良いかを今一度検討し、より充実したデータベースの作成を目指していきたい。診療フローシートを病院情報システムと結びつけることで Clinical Pathway が出来上がるが、この Clinical Pathway の診療及び教育における意味あいを検討していきたい。
結論
救急医療の現場で使用可能なデータベースの作成のために必要な、病態別の診療フローシートの作成とチェックリストの作成を行った。救命救急センターにおける教育の質の向上に資するために、診療フローシートと病院情報システムを結びつけた形での Clinical Pathway の作成、実施を指向していきたい。

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