歯科医師国家試験における実技能力判定のモデル研究

文献情報

文献番号
199800815A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医師国家試験における実技能力判定のモデル研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
作田 正義(大阪大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤毅(日本大学歯学部)
  • 藍稔(東京医科歯科大学歯学部)
  • 花田晃治(新潟大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の歯科医師国家試験では主に認知領域(知識)の評価を中心として試験が行われている。しかし、歯科医師国家試験合格後に直ちに実際の臨床を行うことになり、また卒後臨床研修医として研修効果を高めるためには、卒前臨床実習において歯科臨床上での基本的な精神運動領域(臨床技能)や情意領域についての教育が必要である。この様な観点に立てば、歯科医師国家試験に臨床技能や情意領域に関する評価を行うべきであるとの意見もある。しかし、現状ではいくつかの点でなお十分な態勢が整っているとは言い難い。その1つに、技能評価のための試験とその評価法が整っていないという問題があると考える。
本研究は歯科医師国家試験に診療技能評価を導入するための具体的な技能評価法を検討することが目的である。なお、卒前教育において必要な基本的診療技能は診療分野によって異なるので、歯科における主な診療部門である歯科保存科、歯科補綴科、口腔外科ならびに矯正歯科の各診療領域についての技能評価の方法を検討した。
研究方法
歯科保存科については保存修復、歯内療法、歯周治療の各領域について検討が行われた。前2者については適切な人工歯を用いて行われ、歯周治療については新たに開発された歯周病顎模型を用いて行われた。いずれも学部学生を試験対象者としている。保存修復学では各種窩洞形成、歯内治療学では根管治療、歯周治療学では歯周病に関する診査、診断、治療方針策定と治療の手技についての試験がおこなわれた。
歯科補綴科については、印象採得と支台歯形成を技能課題として技能試験の客観的効果が可能かどうかを検討した。即ち、試験対象者として経験の異なる4グループを設定して試験方法と評価法の検討を行った。評価法は判定項目(印象採得12項目、支台歯形成11項目)を設定し、各項目に評点を付与して判定にあたった。口腔外科については臨床実習中の学部学生を対象にして、動的視聴覚資料を用いた試験結果と実技試験を含む他の臨床実習試験との相関性を比較検討した。さらに、抜歯術に関する顎模型(マネキンモデル)によるシミュレーションテストを行い、技能評価の適応を検討した。この研究では学習や経験の異なる4グループを設定し、さらに評価に際しては客観性の高いチェックリスト法を用い,抜歯術の各段階を時間軸上で項目別に分け、2段階評価として判定した。また、矯正歯科については矯正治療の診断時に用いられる各種資料を電子化し、これについての分析、診断、治療方針の設定の可能性を検討した。試験対象者は学部学生である。
結果と考察
歯科保存科領域で行われた研究結果は、これらの試験法としている評価法はいずれも歯科医師国家試験に導入可能なものであるとの判断がなされたが、しかし本研究結果から適切な条件設定の必要性が指摘された。
歯科補綴科領域で行われた研究結果については、印象採得の評価では支台歯形成の評価に比較して数値的な判断基準がないために判定者間の一致度は低かった。しかし、総合評価では印象採得、支台歯形成ともに一致度係数はさほど低くない。さらに、臨床経験に差のある各グループ間で明瞭な判定結果の差がみられた。これらの結果から、採点項目の選択と軽重を考慮すれば十分に技能試験として適応可能であると考えられた。今後検討すべき問題点としては、所要時間にかかわる技術的な点である。
口腔外科領域で行われた研究結果については、動的視聴覚資料を用いた試験結果は他の各試験結果との間に高い相関性が認められた。この結果は動的視聴覚資料を用いた試験が臨床技能を評価する方法として実施可能であることを示したものであると考える。また、抜歯術についてのシミュレーションテストに関しては、判定者間の評価では有意差がなく、しかも臨床経験の異なる各グループ間で評価に差が認められた。このことは口腔外科領域での技能評価に本法が使用可能であることを示したものである。今後は他の術式についても検討するとともに、試験の経済性についても検討する必要がある。
矯正歯科領域で行われた研究結果については、診断、治療方針設定に関して、いずれも的確な回答が得られ、その有用性が認められた。なお今後の問題点として問題作成時間、設備の整備(経済性)、学生への情報教育についての検討が残されていると考えられる。
今回検討した各診療科に関する試験とその評価法は技能試験として十分な適応性のあることが判明した。今後、歯科医師国家試験にこれらの実技試験を実際に導入するに際しては、さらに幅広く予備研究を行い、その客観性を検討するとともに、問題点を引き出し、その解決を図る必要があると考えられた。また、歯科医師国家試験での各科横断的出題基準に併せて技能評価法を検討する必要もあり、評価対象についても研究を進める必要がある。
結論
今回の研究では、各診療科について開発された試験とその評価法の妥当性が認められた。従って、当初の目的である歯科医師国家試験への実技試験とその評価法の導入の可能性が確認できた。

公開日・更新日

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