災害時、自衛隊における初動医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800812A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時、自衛隊における初動医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
桑原 紀之(自衛隊中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 箱崎幸也(自衛隊中央病院)
  • 山田憲彦(空幕首席衛生官付)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、災害発生時、自衛隊の派遣システムや能力(特に医療救護活動)が自治体・国民等に広く理解出来る『自衛隊災害派遣』小冊子を作成することにより、今後の災害医療活動を効果的に実施し広く国民に寄与することにある。さらに、災害発生時における初動医療体制のうち、特にヘリコプターによる患者空輸時の搬送基準や管理要領等も研究するものである。
研究方法
(1) 自衛隊の災害派遣に関する全国市・区アンケート調査
全国 711市・区に対し小冊子『自衛隊災害派遣(医療支援)』を郵送し、同封アンケート用紙にて調査を依頼した。アンケート項目は、災害時の自衛隊派遣への具体的手続きが理解されているか, 災害時に自衛隊衛生活動に期待する事項は何か等の17項目と自由記入欄で自衛隊への期待・要望等に関して調査を行った。
(2) 全国アンケート調査結果を基にした小冊子『自衛隊災害派遣(医療支援)』の改訂 小冊子『自衛隊災害派遣(医療支援)』の必要性、自衛隊の災害出動の要請方法・自衛隊医療活動の理解しやすさや各項目の削除・追加事項に関して全国アンケート調査を行い、調査結果を基に小冊子の改訂を行った。
(3) 自衛隊災害派遣計画の災害救急医療面からの検討
南関東大震災に対する自衛隊の災害派遣計画(衛生医療面)の検証を行い、1モデル地域によるパイロットスタディーで実践的な災害対処計画作成を目的に高松市医師会等と協議会を行った。さらに患者航空搬送時(全国ネット患者広域搬送)の問題点を検討した。
結果と考察
(1) 全国アンケート集計結果
郵送回収率は、69%(711中 490市・区)からの回答を得た。平成9年度は同様のアンケート調査を県レベル(都道府県庁・政令指定都市)で行っており、今回の市・区レベルとの自衛隊の災害派遣活動への理解・認識度への差を比較検討した。尚、市・区は自衛隊の地域担任部隊の管轄である陸上自衛隊の 5方面隊(北方:北海道、東北方:東北、東方:関東甲信越、中方:中部、近畿、中四国、西方:九州)に分類し検討を行った。
① 自衛隊への要請の必要性・具体的手続きの理解度
各市・区とも、「自衛隊への災害派遣は都道府県知事からの要請が必要である」ことへの認識は80~95%であった。さらに、具体的要請手続きを「知っている」と回答したのは、北方の市・区では約90%に達しているが、他地域では70%前後と低率であった。県レベルとの比較では、具体的要請手続きを「知らない」と回答した自治体は僅か7%であったが、市・区レベルでは27%と高率であった。
②災害派遣時自衛隊衛生に期待する事項
490自治体からの複数回答の集計では、救命処置, 患者搬送, 救護所の開設,衛生器材・医薬品の補給の順に7割以上の自治体が期待する事項であった。県レベルでは患者搬送, 衛生器材・医薬品の補給が上位であり、県と市レベルでの差は応急救命処置に対する期待度が相違であった。
③自衛隊との共同訓練に参加
毎年自衛隊との共同訓練に参加している市・区は32%にすぎないが、県レベルでは100%が参加をしていた。市・区では、時々参加22%、参加していない31%、今後参加予定13%であった。
④ 自衛隊との連携を強化するための必要事項
各市・区とも、自衛隊との共同訓練への参加が自衛隊との連携を強化するために最も重要であるとの回答であったが、西方地域の市・区では県レベルと同様に多機関での定期協議の開催が重要であるとの意見が多かった。
今回のアンケート集計から、各市・区レベルの自衛隊災害派遣への理解・期待度は非常に高かった。しかし、具体的要請手続きの認知度・自衛隊との共同訓練への参加率は市・区レベルでは低率であり、県レベルと比較しまだ自衛隊との連携は不十分と考えられた。今後より一層の迅速な自衛隊との災害派遣活動には、自衛隊と各市・区との連携強化が重要と考えられる。平常時の自衛隊との共同訓練も一部の市・区(32%;県レベル100%)でしか定期的に行われておらず、今後開催時期や近隣市・区合同訓練開催などにて訓練を実施していく必要がある。多くの市・区の災害医療への期待度は、県レベルに比べさらに高かった。今後は、より一層の自衛隊衛生活動(臨床, 放射線検査や歯科応急治療等も含む)の広報に努め、衛生活動の能力を正確に理解していただき、衛生隊との連携強化や定期的な共同訓練を行うことも重要と考えられた。災害時自衛隊の迅速な災害活動は、平素からの関係機関との密接な連携や調整が最も重要であるが、災害時まず最初に対処すべき市・区レベルと自衛隊との連携や調整の不徹底が明らかにされた。市・区との密接な連携や調整が平素からの構築がなされれば、県知事の要請とほぼ同時期に災害派遣活動が可能となり、被害を最小限にくい止めることが可能となる。
(2) 全国アンケート調査結果を基にした小冊子『自衛隊災害派遣(医療支援)』の改訂 490市・区からのアンケート回答を基に、小冊子『自衛隊災害派遣(医療支援)』の改訂後に第2版を印刷中である。アンケート結果からは市・区レベルでも、県や医療機関と同様な災害派遣活動時の詳細な時程呈示と患者空輸時必要条件の記載要望が多かった。災害派遣時の時程呈示に関しては、北海道南西沖地震時などの時程呈示の専門用語から一般的用語への変更とともに、従来通り迅速な要請が効果的な災害派遣活動を可能にすることを強調記載した。ヘリコプターによる患者搬送では自衛隊ヘリコプターへの期待は大きいものがあるが、保有するヘリの機数は有限であり災害時には物品の輸送,人員の輸送,患者の輸送,偵察,消火活動等が義務づけられており,必ずしも患者の輸送のために優先的に運用されるとは限らないのが現状である。しかし各自治体が、日頃から自衛隊のヘリコプターの能力や患者空輸適応基準などを把握し、さらにはヘリポートを準備した態勢作りが重要であり、第2版でも同様の記載を行った。
(3) 自衛隊災害派遣計画の災害救急医療面からの検討
1.南関東大震災に対する自衛隊の災害派遣計画「衛生医療面」の検証を行った。
南関東大震災に対する自衛隊の災害派遣計画では、自衛隊の派遣体制が呈示されている。衛生医療面からは、初動対処先遣隊20~25名(衛生科隊員:1-2名)に自衛隊中央病院から初動対処班1チーム(医師1名、看護婦2名、管理要員1名)が60分以内に増援に加わる態勢が整備されている。また状況にて初期治療班5チーム(5名:医師1名、看護婦2名、管理要員2名)が直ちに増援される。しかし、現状ではどの地域に派遣され、保健所/日赤/NGO等とどのように活動するのか明確にされておらず、今後早急に解決しなければならない。
2.実践的な災害対処計画作成(1モデル地域によるパイロットスタディー)
今後モデルとなる1地方自治体を設定し、パイロットスタディーを行い実践的な災害時医療支援の活動計画を作成していく。このケーススタディーが全国的に拡がれば、自衛隊(衛生部門)と多機関共同での災害医療救援活動計画作成や実地訓練が可能となり、災害時においても迅速かつ効果的な災害救援活動が実現出来るものと考える。
平成11年2月には香川県医師会、高松市防災担当者、自衛隊善通寺第2混成団と研究協議会を行い、今後災害対処計画作成予定である。
3.全国ネット患者広域搬送に関する研究
特殊な治療や治療に多大なマンパワーを要する病態(重症熱傷やクラッシュシンドローム等)が多発する事態においては、全国の専門施設の活用を念頭に置いた患者搬送システム(全国ネット広域搬送)が必要である。航空搬送を中心とした全国ネット広域搬送の計画・実施に際し、① 対象患者の選別基準、② 搬出元及び受入空港における、病状安定化処置及びトリアージ、③ 航空機内の患者監視能力・治療能力等の問題が指摘される。対象患者の選別基準では、トリアージの基本概念の「不特定多数の患者に対して、最少の医療スタッフと医療資源で最大の効果(患者の救命)を上げる」 に変わりはないが、広域搬送ではより厳密なトリアージが必要となる。さらに、航空患者搬送では航空医学的に相対的禁忌患者として、重篤な呼吸不全, 未治療な自然気胸, 重篤なうっ血性心不全, 急性心筋梗塞等であるが、今後全国ネット広域搬送推進のためにも簡易指標でのより厳密な患者選別基準の作成が急がれる。
結論
今回改訂した小冊子『自衛隊災害派遣(医療支援)』をもとに、地方自治体・保健所・医師会・各医療機関と合同の協議会にてより実践的な災害対処計画作成・共同訓練を行い、迅速で効果的な災害救助活動が実現可能である。

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