阪神・淡路大震災に係る初期救急医療実態調査および3年間のフォローアップ調査に基づく災害対策の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
199800810A
報告書区分
総括
研究課題名
阪神・淡路大震災に係る初期救急医療実態調査および3年間のフォローアップ調査に基づく災害対策の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(大阪府立病院救急診療科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中裕(大阪大学救急医学)
  • 松岡哲也(大阪府立泉州救命救急センター)
  • 中村顕(大阪府立病院救急診療科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究の目的は、これまで行ってきた阪神淡路大震災時の初期救急医療実態調査をもとに、大災害時に一度にしかも大量に発生する外傷患者と震災後の特殊な環境下で発生頻度の増加する疾病患者に対し、医療機関が如何に対応すべきかを具体的に示すことである。もう一つの目的はフォローアップも含めて明らかになったクラッシュ症候群の病態と確立された治療法をまとめあげることである。
研究方法
上記目的を達成すため、既に集積されているデータのうち、未分析であった被災地内医療機関の被害状況の把握、情報交換の実態、道路交通状況の把握、特に後方病院への患者転送の実態を地域別、時刻別、搬送手段別に検討し、初動体制を検証すること、初期救急医療実態調査で把握した6107症例のうち、特に疾病患者を発生時刻別、重症度別、傷病構造別に再検討することから災害対策のあり方を模索することを分担研究とした。
以上の調査データを単行本として発刊するに際し、阪神淡路大震災以降に再整備された各都道府県の地域防災計画や各種広域応援協定を比較検討して収載することにした。また、調査結果のみならず、より一般的な大規模災害時の医療従事者の行動マニュアルとするために、トリアージ総論や死体検案に関する項目を適切な人材に執筆依頼することになった。
結果と考察
B5版、200頁の「集団災害医療マニュアル:阪神淡路大震災の調査データを基にして」が執筆された。以下はその執筆項目である。
Ⅰ.災害医療の特徴について
Ⅱ.阪神淡路大震災時の傷病構造
1)外傷
2)疾病
Ⅲ.阪神淡路大震災時の患者動態
Ⅳ.地域防災計画と医療機関の災害対策
1)被災地内医療機関の活動
2)被災地外医療機関の活動
3)災害時の情報収集・提供活動とシステム
4)医療資材の確保
5)患者転送と搬送手段
6)医療救護班の編成と派遣
Ⅴ.集団災害時の患者対応
1)トリアージ総論
2)災害時における死体検案
3)外傷患者への対応
①クラッシュ症候群
1.疫学/病態 2.治療 3.機能予後
②クラッシュ症候群以外の外傷
③外傷患者の長期予後/SIP
4)疾病患者への対応
①虚血性心疾患
②肺炎・呼吸不全
③心不全
④脳血管障害
⑤血液透析を要する慢性腎不全
⑥その他
Ⅵ.既発表論文、参考文献の収載
災害時に大量に発生する患者、特に赤タッグの重症患者を救命するためには、医療機関、搬送機関、これらを結ぶ情報伝達システムの整備とともに、これらが機能するための広域協定や個々の機関の災害対策マニュアル整備の重要性が再認識された。災害拠点病院の大規模災害に対する取り組みは地域間較差があり、関連諸機関との災害時の諸協定も未だ作業中のところもある。またトリアージの重要性や情報伝達手段の確保の必要性は強調されはしたが、なお検討すべき問題は山積している。
行政が策定している地域防災計画と対をなす個々の医療機関の災害対策マニュアルが策定され、そのマニュアルどおりに対応できるハードの整備や先端技術の応用が可能となるには、さらなる熱意と時間が必要である。
結論
地震災害時に一度にしかも大量に発生する外傷患者と、震災後の特殊な環境下で発生頻度の増加する疾病患者に対し、医療機関が如何に対応すべきかを具体的に示すことができた。特に阪神淡路大震災で多発したクラッシュ症候群については、近代都市で発生したが故に、現在までに得られなかった数多くのデータが集積でき、病態の解明と治療法の確立につながった。
本研究により発刊された災害対策マニュアルは現時点では一部の医療従事者に配布する予定であるが、さらに増刷して実費販売により周知できれば、震災に限らず、他の集団災害時にも医療効果を上げ得る。

公開日・更新日

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