新しい災害医療教育プログラムの開発研究

文献情報

文献番号
199800807A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい災害医療教育プログラムの開発研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
鵜飼 卓(兵庫県立西宮病院)
研究分担者(所属機関)
  • 石井昇(神戸大学医学部)
  • 杉本勝彦(昭和大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「災害医学」という広範な分野の統合の上に立つ比較的新しい学問とその実践教育は、指導者も少なく、教育の機会も少なかった。1996年度および1997年度に実施した厚生科学研究「災害医療教育のあり方に関する研究」の成果をもとに、多忙な医療従事者が自己学習する事ができる災害医学教育プログラムの開発を目指す。また、引き続き諸外国の災害医学教育の実状をより詳しく検討し、本邦での応用の可能性を追求する。
研究方法
①災害医療セミナーや研修会のプログラムのなかで行われた模擬訓練に際し使用されたトリアージタッグを回収してその記載内容を詳細に検討し、トリアージ教育の効果を判定した。そして災害医療研修におけるトリアージ教育のあり方を検討した。また同時に、訓練で使用されたトリージタッグの分析結果から標準化されたトリアージタッグの形式についても考察した。
②兵庫県の基幹災害医療センターである神戸大学で実施された災害医療コーディネーターと災害救護班員予定者に対する研修プログラムの検討を行い、併せて諸外国の災害医療トレーニングとの比較から、地域災害拠点病院、基幹災害医療センターなどを中心とした災害医療訓練の方法について検討した。
③災害医学・災害医療の自己学習を目的としたゲーム感覚のCD-ROMのプログラム開発を企図した。災害医学に造詣の深い専門家集団によるブレーンストーミングを行い、また、ソフトウエア開発の専門家とも協議しつつCD-ROM作成に向けての具体案作成にとりかかった。
結果と考察
①日本集団災害医療研究会が実施した災害医療セミナーと兵庫県災害拠点病院職員対象に実施した災害医療研修会の模擬訓練で使用されたトリアージタッグ(それぞれ76枚および119枚)を回収し、記載状況を分析した。これら2回の模擬訓練の相違点は、前者がトリアージの基本原則の講義に加えて、タッグの具体的記載法を約30分間講義したのに対して、後者ではタッグの詳細な具体的記載法はごく簡単にしか講義されなかったことと、前者では模擬患者が粛々と演技をしたのに対して、後者ではメークアップがリアルで、しかも模擬患者の家族役が我先にと助けを求めて訓練参加者をパニック状態に陥れたことであったが、模擬患者の数や想定病態、トリアージのために与えられた時間は全く同じ条件であった。前者で回収されたタッグの80%以上には必要項目の記載が概ね良好になされていたのに対して、後者の研修会で回収されたタッグの記載状況は惨憺たるもので、正しく十分満足に記載されたタッグは5%に満たなかった。このことから1)標準化トリアージタッグの使用に関しては相当な教育が必要であること、2)災害訓練はリアルに臨場感を持たせて行わないと何回繰り返してもあまり実際的な効果を挙げることができないこと、3)また、標準化トリアージタッグそのものも記載項目が多すぎて再考の余地があること、などが明らかにされた。
②災害医療研修の成果の一つに、多種の組織に属する人々が一堂に会して知恵を絞りあう体験を共有することから、相互理解がすすむという大きな利点が確かめられた。多組織、多機関の協力が災害対応の良否を決めることから、この事の重要性は大である。また、訓練参加者のアンケート調査結果では、シミュレーションなど参加型プログラムが高い評価を得たが、参加型プログラムを準備するには多大の時間と労力が必要で、また参加者の人数も限定せざるを得ないという問題もあった。数多くの基幹災害医療センター、地域災害拠点病院が指定されたが、これらが災害時に十分機能するためにはハードウエアよりもソフトウエアにあたる医療従事者教育が必須の課題である。国立病院東京災害医療センターなどで実施する災害医療研修会の対象と教育内容を再検討し、地域の災害医療の指導者(コーディネーター)の教育をまず徹底的に行い、彼らが各地域で医療従事者の教育を継続的に行えるようにすべきであると思料される。
③災害教育用CD-ROMを考える場合、災害の種類を例にとっても自然災害(地震、火山爆発、洪水、台風、地滑り、森林火災、竜巻など)もあり、人為的災害(航空機事故、列車事故、高速道などでの多数車両による事故、工場爆発、化学物質漏洩、核災害、人種・地域紛争、テロリズムなど)、さらにはこれらに分類できない災害もあり、一つの災害でも発生地域、時間、季節、周辺の状況、生活のインフラストラクチャーとそのダメージ、医療バックグラウンドなど、きわめて多くの因子が関与する。したがって、これらを全てカバーする教育プログラムはむしろ実際的ではない。災害医学教育用CD-ROMを前提としたプログラムとしては、一つの原型を作成すれば、その後シリーズものとして発展させることが可能である。そのような観点からプロジェクトチームで検討した結果、まずは大型交通事故の典型である列車事故を想定し、医療チームが現場に派遣されたところからシナリオを作成して、種々の因子のバリエーションを加えながら使用者が自らの判断を選択し、その選択肢の選び方に応じて状況が変化していくというプログラムを試作するのが実行可能な案ではないかという結論に達した。いわゆるバーチャルリアリティの世界は、実験困難な事象の教育にきわめて有効であることに異論の余地はない。集団災害医療はこの意味において絶好の対象である。自己学習という訓練を進めていくために、実際に過去に遭遇した災害事例や外傷患者のデーターなどを使用しながら臨場感あふれるプログラムにしていく必要がある。また、このようなシミュレーションとともに、災害医学概論、災害対応の基本を説明する解説的な部分もこの教育メディアに追加することも必要であると思われる。
結論
①災害模擬訓練に用いられたトリアージタッグを分析し、トリアージ教育の手法に一定の工夫が必要であることが判明した。また、模擬訓練は臨場感あふれるリアルなものでないと訓練の効果が評価できないことも明らかとなり、標準化トリアージタッグについてその形式に再考の余地があると考えられた。②災害医療教育は、まず指導者を徹底的に教育すべきであり、その指導者が効果的かつ実戦的な教育を各地域で実施して各地域の災害医療体制を強化していく必要があると結論できた。③いわゆるニューメディアを災害医療教育に利用することの利点は大きい。しかし、広範な分野を包含する災害医学医療を自己学習することができる教育プログラムとして実現させるためには、当初ある程度的を絞って原型を作り、その後発展させてシリーズものとして充実させていく必要がある。まず、比較的簡単な列車事故を想定したシミュレーションプログラムを作成すべく、資料収集と基本的な概念の整理作業がスタートした。

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