歯科医師臨床研修必修化に向けての臨床研修の進め方に関する研究

文献情報

文献番号
199800806A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医師臨床研修必修化に向けての臨床研修の進め方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中原 泉(歯科医療研修振興財団)
研究分担者(所属機関)
  • 住友雅人(日本歯科大学歯学部)
  • 河野篤(鶴見大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成8年6月に法制化された歯科医師臨床研修制度は、国民のために望まれる歯科医師の資質向上と生涯教育の取っ掛りを掴む目的をもってスタートした。多くの参加をのぞむための特効薬は、制度を必修化させることである。しかしながら、単に必修の法成立をはかれば良いというものでもなく、多方面からの検討を加え、臨床研修医はいうに及ばず、受け入れ施設や臨床研修指導医本人にとっても納得のいく条件のもとでの必修化でなければならない。しかし法制化での実績がわずか2年しかないことから、必修化の条件を構築するためのデータが極めて少ない。そこでこの研究においては、アンケート調査、実地調査、モデル施設の現状を把握し、問題点を明らかにして、必修化へ向けての方向性を示すことを主旨としている。
研究方法
1.研修施設へのアンケート調査:単独研修方式と複合研修方式(主たる施設用、従たる施設用)の3種類のアンケート用紙を送付した。 回収方法はファックスまたは郵便によった。
2.複合研修方式施設への実地調査:実地調査に承諾いただいた主たる施設(14か所)と従たる施設(22か所)を訪問した。実地調査は分担研究者1名と、研究協力者1名の2名で行った。 病院長、臨床研修主任指導医、臨床研修医、事務担当者などに出席していただき、質問や意見の交換を行った。加えて臨床研修の現場を視察した。
3.海外における臨床研修事情調査:日本歯科医師会に登録されている90カ国の外国歯科医師会あてに、アンケート用紙を郵送した。
4.第4回歯科医師臨床研修指導医講習会複合研修方式グループ討議:本講習会において、複合方式・歯学部附属病院の実践例のグループ討議に参加した60名を対象にして、下記のテーマでのプログラムの立案を依頼した。
テーマ:2,700名の歯科医師臨床研修医が、必修のもとで、1年後に1人で診断、処置方針の決定、治療(必要に応じて専門医に依頼する判断力も含める)、カルテの記載、レセプトの請求ができるようにするためのプログラムを考えよ。
5.モデル施設における現状把握:複合研修方式を積極的に推進している施設(日本歯科大学歯学部附属病院、東京)をモデルとして調査した。
1)臨床研修指導委員会が抱える問題点;本施設の臨床研修指導医委員会のメンバーが抱える運営上の問題点について、KJ法にて分類した。
2)臨床研修指導医ワークショップから:複合研修方式の従たる施設の臨床研修指導医15名ならびに附属病院の各科の臨床研修指導医30名,合計45名により臨床研修指導医ワークショップを開催した。 まず指導上の問題点をあげ、KJ法によって島分けを行い、見出しを作成した。
3)臨床研修医ワークショップから:平成10年度臨床研修医53名によるワークショップを開催した。 まず1年間の研修体験から、臨床研修医側からの問題を抽出し,KJ法により島分けした。 ワークショップ終了時に1年間の研修総括の内容でのアンケート調査を行った。
6.具体的目標(臨床実技)評価案: 現在示されている臨床実技項目の具体的目標(1)(2)(3)について、目標の細目とそれぞれの評価の一覧表を提示した。
結果と考察
1.研修施設へのアンケート調査:それぞれの回収率は、単独研修方式施設 102/115(88.7%)、歯科大学・歯学部附属病院 20/23(87.0%)、医学部附属病院 45/50(90.0%)、一般病院  37/42(88.1%)、そして複合研修方式施設 56/68(82.4%)、主たる施設 19/20(95.0%)、従たる施設 37/48(77.1%)であり、合計 158/183(86.3%)であった。
2.複合研修方式施設への実地調査:全体として臨床研修に真剣に取り組んでいることを実感した。今回は実地調査を承諾してくれた施設のみを対象としたので、ポジティブな印象を受けたともいえるが、今回訪問しなかった施設のアンケート調査の結果からみて、同様な状況と推察できる。
3.海外における臨床研修事情調査:40カ国から回答が寄せられ、回収率は44.4%であった。  卒直後の臨床研修が法制化されている国は16カ国で,法制化されていないが卒直後研修が行われている国は8カ国であった.法制化されているが努力義務の国は3カ国で、13カ国ではすでに必修が法制化している。法制化されている16カ国の臨床研修の期間は、多くの国では1年間である。
4.第4回歯科医師臨床研修指導医講習会複合研修方式グループ討議:そこで得られた意見をKJ法で分類し、見出しを作成した。 今回のテーマはすこぶる高い達成目標度のものである。多岐にわたった意見が寄せられた。
5.モデル施設における現状把握:卒後臨床研修の充実を図るためには、臨床研修病院の数や質の確保などハード面に加え、到達目標など研修の内容面での充実を図る必要がある。複合研修方式では、主たる施設と従たる施設相互の緊密な連携が必要である。今回は、両施設で臨床研修をする上での多岐に渡たる問題点を抽出した。
6.具体的目標(臨床実技)評価案:研修修了の判定は各施設のみならず、第3者評価機構(評価委員)によってなされるのが望ましい形である。その時に第3者が評価する有効な手段は、今回提示したような自己評価、指導医評価がなされている研修ノートとなると思われる。このためには現在示されている具体的目標の内容の見直しが必要である。
結論
今回の研究で、歯科医師臨床研修制度の必要性・重要性についてはほぼ100パーセントの賛同が得られたが、運営上の問題点も数多く挙げられた。複合研修方式の特徴のひとつは、主たる施設の設備や患者数の不足を従たる施設に分担できることである。しかし従たる施設での研修期間の4ヵ月では、残りの8ヵ月は、主たる施設で研修を行うことになって、結局主たる施設の設備および人的負担をあまり軽減することにはならない。そこで従たる施設の研修を8ヵ月まで認めるようにすれば、主たる施設の負担は軽減される。それによって結果的には受け入れ人数を増やすことが可能になる。そして、各研修施設間の給与差も大きな問題である。 法律の基では身分・処遇は同一でなければならない。
わずか実質2年の短い実績しかない歯科医師臨床研修制度では、多くの問題点が出されることが望ましい。今回多くの問題点をさまざまな手段によって収集,整理できたことは大変有意義なことであると確信している。今後はこれらの問題点を、関連性のあるものごとに、より詳細に分類し、それぞれについて討議し、戦略を構築し、対応していくことによってより充実した臨床研修制度を推進できると考える。

公開日・更新日

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